「LDL-C高いから、とりあえずスタチン」—その前に確認してほしいことがあります
研修医・若手内科医のための 脂質異常症 実践ガイド
まずひとつ、聞かせてください。
外来で脂質異常症の患者さんを見たとき、こんなふうに動いていませんか?
「LDL-C 160ですね。スタチンを出しておきましょう」
もちろん、LDL-Cを下げることは大切です。
動脈硬化性疾患、心筋梗塞、脳梗塞を防ぐうえで、LDL-C管理は脂質診療の中心にあります。
でも、そこで一度だけ立ち止まりたいんです。
このLDL-C高値、本当に“原発性”でしょうか。
脂質異常症の背景には、甲状腺機能低下症、糖尿病、ネフローゼ症候群、CKD、肝胆道系疾患、薬剤、飲酒などが隠れていることがあります。
つまり、脂質異常症を見たときの最初の問いは、
「どのスタチンを出すか」ではなく、
「なぜ脂質が高いのか」
です。
🚨 特に見逃したくないのが、甲状腺機能低下症です。
LDL-C高値の背景に甲状腺機能低下症があるのに、TSHを確認せずにスタチンを開始すると、筋障害や横紋筋融解症のリスクを高める可能性があります。
「LDLが高いからスタチン」
この反射的な処方から、一歩だけ深く考える。
それだけで、脂質診療はかなり変わります。
脂質異常症は、単に「コレステロールを下げる病気」ではありません。
将来の心筋梗塞・脳梗塞を防ぐための、全身管理です。
LDL-Cだけを追いかけていると、
本当は治療すべき背景疾患を見落としたり、
リスクの高い患者さんを過小評価したり、
逆に薬を急がなくてもよい人に過剰な治療をしてしまうことがあります。
この記事では、研修医・若手内科医が外来や病棟で脂質異常症を見たときに、
スタチンを出す前に何を確認し、どこまで評価し、どう治療を組み立てるかを整理していきます。
この記事で学べること
この記事では、脂質異常症を「数値異常」としてではなく、
心血管イベントを防ぐための臨床判断として扱います。
特に、研修医・若手内科医が外来で迷いやすいポイントに絞って整理します。
✅ 続発性脂質異常症の除外法
✅ 薬物療法前に確認するスクリーニング採血セット
✅ 絶対に見逃したくないDo not miss 3疾患
✅ 家族性高コレステロール血症の疑い方
✅ 高TG血症と急性膵炎リスク
✅ ASCVDリスク評価とLDL-C管理目標
✅ スタチン・エゼチミブ・PCSK9阻害薬の使い分け
✅ CKD・透析・糖尿病・高齢者・妊娠希望例への対応
✅ スタチン筋症状や肝機能障害への対応
✅ 外来・病棟で使える実践シート
📖 本記事は、日本動脈硬化学会 2022年版、ACC/AHA 2026 dyslipidemia guidelineなどを参照し、研修医・若手内科医向けに実践的に再構成しています。
ただし、ガイドラインの要約ではありません。
目指すのは、
「知っている」ではなく、外来で実際に動けることです。
まず「なぜ高いのか?」を考える
脂質異常症を見たとき、最初に確認したいのは薬の種類ではありません。
続発性脂質異常症ではないか。
ここを確認することが、脂質診療の入口です。
続発性脂質異常症とは、別の病気や薬剤、生活背景によって二次的に脂質異常が起きている状態です。
つまり、脂質そのものだけを治療するのではなく、
脂質を高くしている原因を探す必要があります。
たとえば、甲状腺機能低下症が原因でLDL-Cが上がっている場合、
必要なのは単にスタチンを増やすことではありません。
甲状腺ホルモンの補充によって、脂質値が改善することがあります。
ネフローゼ症候群でLDL-Cが高くなっているなら、
脂質異常は腎疾患のサインかもしれません。
糖尿病やインスリン抵抗性でTGが高いなら、
脂質異常は代謝異常全体の一部として捉える必要があります。
💡 つまり、脂質異常症を見たときの第一歩は、
LDL-Cを下げることではなく、
LDL-Cが上がった理由を探すこと
です。
▼続発性の原因として代表的なものをまとめました。

特に、LDL-C高値を見たときは、TSHを確認するクセをつけたいところです。
脂質異常症は、単に「血管の病気」ではありません。
甲状腺、腎臓、糖代謝、肝臓、薬剤、生活背景がすべてつながっています。
📣 外来で大切なのは、
「LDL-Cが高いですね」だけで終わらせないこと。
「なぜ高いのか?」を一度考えるだけで、
診療の深さが変わります。
薬物療法開始前のスクリーニング採血セット
これを揃えてから治療を始めましょう。
TSH(最優先:甲状腺機能低下症の除外)
HbA1c・空腹時血糖
尿蛋白・血清アルブミン
eGFR・血清Cre
AST・ALT・γGTP
飲酒歴・常用薬の詳細確認
創発冠動脈疾患の有無
もちろん、すべての患者さんに毎回フルセットで出す必要があるわけではありません。
ただ、初診で脂質異常症を評価するときには、
**「脂質だけを見て終わらない」**という姿勢が重要です。
特に以下の組み合わせは、見逃したくありません。
LDL-C高値+TSH高値
→ 甲状腺機能低下症を疑う
LDL-C高値+尿蛋白+低Alb
→ ネフローゼ症候群を疑う
TG高値+HbA1c高値
→ 糖尿病・インスリン抵抗性を疑う
LDL-C 180以上+家族歴
→ 家族性高コレステロール血症を疑う
📣 脂質異常症の初診では、脂質だけ見ない。
“脂質が高くなる背景”を一緒に見る。
ここが、研修医・若手内科医にとって大事な型になります。
続発性の原因が見つかったら、まず「原疾患の治療・薬剤変更」を優先してください。それでも改善しない場合にはじめて薬物療法を考えます。
絶対に見逃したくない Do not miss 3疾患
脂質異常症を見たとき、すべてを完璧に鑑別しようとすると、かえって診療がぼやけます。
なので、まずは「見逃すと困るもの」から押さえます。
若手内科医が脂質異常症で特に見逃したくないのは、次の3つです。
🚨 甲状腺機能低下症
🚨 家族性高コレステロール血症
🚨 高TG血症による急性膵炎
この3つは、単に脂質の数字が高いだけではありません。
背景疾患を見逃す。
若年の心血管リスクを見逃す。
急性膵炎という緊急性を見逃す。
そういう意味で、脂質異常症の中でも特に注意が必要です。
Do not miss ① 甲状腺機能低下症
LDL-C高値を見たら、まずTSHです。
これは、脂質診療の入口としてかなり大事です。
甲状腺機能低下症では、LDL受容体活性の低下などにより、LDL-Cが上昇します。
甲状腺ホルモン補充によって、脂質値が改善することもあります。
つまり、甲状腺機能低下症が原因でLDL-Cが高い患者さんに、背景を見ないままスタチンだけを出しても、診療の本質から少し外れてしまうことがあります。
さらに問題なのは、筋障害です。
甲状腺機能低下症そのものでもCKが上がることがあります。
そこにスタチンを開始すると、筋症状や横紋筋融解症のリスクが上がる可能性があります。
だからこそ、LDL-C高値を見たら、
「TSHは確認したか?」
と一度立ち止まることが大切です。
甲状腺機能低下症を疑うヒント
脂質異常症に以下の症状が重なる場合は、甲状腺機能低下症を疑います。
✅ 寒がり
✅ 便秘
✅ 体重増加
✅ 徐脈
✅ 皮膚乾燥
✅ 浮腫
✅ 倦怠感
✅ 月経異常
✅ 嗄声
✅ CK高値
もちろん、典型症状がすべてそろうことは多くありません。
むしろ外来では、
「なんとなく疲れやすい」
「最近太った」
「便秘気味」
くらいのぼんやりした訴えで隠れていることがあります。
📣 LDL-C高値を見たら、TSH。
この一手を習慣にしておくと、見逃しが減ります。
Do not miss ② 家族性高コレステロール血症
次に見逃したくないのが、家族性高コレステロール血症、いわゆるFHです。
FHは「専門外来で見る珍しい病気」というイメージがあるかもしれません。
しかしながら、ヘテロ接合体の有病率は約1/200〜250と、意外に身近な疾患です。
外来でLDL-C高値を見たときに、内科医が一度は疑うべき疾患です。
特に、未治療でLDL-C 180 mg/dL以上を見たら、必ずFHを考えます。
FHで重要なのは、若年からLDL-Cが高く、早発冠動脈疾患のリスクが高いことです。
つまり、ただの脂質異常症として流してしまうと、
その人だけでなく、家族のリスクも見逃す可能性があります。
FHを疑ったら、本人だけで終わりません。
家族へのカスケードスクリーニングも重要です。
JAS診断基準(15歳以上、2項目以上でFH確定)

FHを疑う3つの入口
FHを疑うときに見るのは、主にこの3つです。
✅ LDL-C高値
✅ 腱黄色腫・アキレス腱肥厚
✅ 家族歴・早発冠動脈疾患
特に大切なのが、アキレス腱です。
外来でLDL-C 180 mg/dL以上を見たら、
アキレス腱を触る。
これだけでも、診療の質は変わります。
そして、家族歴を聞きます。
「ご家族で若くして心筋梗塞や狭心症になった方はいますか?」
「突然亡くなった方はいますか?」
「ご家族でコレステロールが高いと言われている方はいますか?」
こうした問いが、FHの入口になります。
📣 LDL-C 180以上は、ただの“高め”ではありません。
FHを疑うトリガーです。
Do not miss ③ 高TG血症による急性膵炎
脂質異常症というと、どうしてもLDL-Cに目が向きます。
でも、TGが高い患者さんでは、別のリスクがあります。
それが、急性膵炎です。
TG高値には2つの視点があります。
ASCVDリスクとしてのTG高値
急性膵炎リスクとしてのTG高値
この2つを分けて考えることが大切です。
ざっくり言うと、
✅ TG 150 mg/dL以上
→ 高TG血症として評価
✅ TG 500 mg/dL以上
→ 膵炎リスクを意識
✅ TG 1000 mg/dL以上
→ 緊急対応を考える
というイメージです。
TG高値で確認すること
TGが高いときは、まず背景を探します。
✅ 糖尿病
✅ インスリン抵抗性
✅ 飲酒
✅ 肥満
✅ 妊娠
✅ 薬剤
✅ CKD
✅ 甲状腺機能低下症
✅ ネフローゼ症候群
✅ 家族歴
特に、糖尿病コントロール不良と飲酒は重要です。
TGが高度に上がっている患者さんでは、腹痛、悪心、嘔吐を必ず確認します。
「脂質異常症として後日外来でゆっくり」ではなく、
急性膵炎を起こしていないかを考える必要があります。
🚨 TG 1000 mg/dL以上を、通常の外来脂質管理としてのんびり見ない。
ここは、膵炎予防モードです。

Do not miss 3疾患のまとめ
脂質異常症を見たときに、まず確認したいのはこの3つです。
LDL-C高値
→ TSHを確認して甲状腺機能低下症を除外
LDL-C 180 mg/dL以上
→ FHを疑ってアキレス腱と家族歴を確認
TG 500 mg/dL以上
→ 膵炎リスクを意識
TG 1000 mg/dL以上なら緊急度を上げる
この3つを押さえるだけで、脂質診療の安全性はかなり上がります。
脂質異常症は、数値だけを見ると単純に見えます。
でも、その裏には、甲状腺、腎臓、糖代謝、家族歴、急性膵炎リスクが隠れていることがあります。
📣 だから、若手医師が最初に身につけたいのは、
「薬を選ぶ前に、見逃してはいけないものを確認する型」です。
ここまでで大切なこと
ここまでで、脂質異常症を見たときに大切なのは、
LDL-Cが高い → スタチン
ではなく、
なぜ高いのか
どのリスク層なのか
どこまで下げるべきなのか
何を見落としてはいけないのか
という順番だと分かってきました。
脂質異常症は、単なる数値異常ではありません。
将来の心筋梗塞・脳梗塞を防ぐための、全身管理です。
ただ、実際の外来ではここからが難しいです。
TSHは全例で測るのか。
LDL-C 180を見たら、どこまでFHを疑うのか。
TG 500と1000で対応はどう変えるのか。
二次予防では、どの目標値まで攻めるのか。
スタチンで筋肉痛が出たら、どこまで粘ってよいのか。
透析患者に新規スタチンを始めてよいのか。
妊娠希望のある患者には、何を避けるべきなのか。
このあたりは、教科書を読んでも意外と迷います。
「なんとなくスタチン」から卒業する
脂質異常症診療で本当に大事なのは、スタチンを知っていることだけではありません。
大事なのは、
この患者さんでは、なぜ治療するのか。
どこまで下げるのか。
どの薬を選ぶのか。
何を見落とさないようにするのか。
いつ効果判定するのか。
ここまでを、ひとつの流れとして考えられることです。
「LDL-Cが高いのでスタチンを出しました」
これでも、間違いではありません。
でも、もう一歩進めるなら、
「続発性を除外し、FHと高TGによる膵炎リスクを確認したうえで、ASCVDリスクに応じてLDL-C管理目標を設定し、スタチンを開始しました」
ここまで言えると、診療の解像度がかなり上がります。
📣 脂質診療は、
薬剤名を覚えることではなく、判断の順番を身につけることです。
ここから先で扱うこと
ここから先では、研修医・若手内科医がそのまま外来で使えるように、実践編として整理していきます。
扱う内容は以下です。
✅ 脂質異常症を見たときの基本フロー
✅ 脂質パターン別の続発性除外
✅ 一次予防・二次予防の分け方
✅ LDL-C管理目標の考え方
✅ スタチンの選び方
✅ エゼチミブ追加のタイミング
✅ PCSK9阻害薬を考える場面
✅ 高TG血症への対応
✅ CKD・透析患者での注意点
✅ 糖尿病患者での脂質管理
✅ 高齢者・妊娠希望例への対応
✅ スタチン筋症状・肝機能障害への対応
✅ 臨床で迷うQ&A
✅ Pitfallまとめ
✅ 外来・病棟で使える実践シート
「なんとなくスタチン」から、
理由を持って処方し、理由を持ってフォローする脂質診療へ。
ここからは、実践編です。
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