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【コラム】啓蟄

古代中国では、太陽の動きをもとに一年を二十四に分けた二十四節気という暦が用いられてきました。
太陽の高さが最も低くなる冬至、最も高くなる夏至、その中間に位置する春分・秋分、そして季節の始まりを告げる立春・立夏・立秋・立冬。
自然の変化を細やかにとらえ、人の暮らしや養生に活かしてきた知恵です。

今年は三月五日に、二十四節気のひとつ「啓蟄(けいちつ)」を迎えます。冬のあいだ土中で息をひそめていた虫たちが、春の陽気に誘われて動き出す時季です。

このうごめく生命という視点は、古代の薬物書にも通じています。
中国最古の薬物書「神農本草経」には、虻虫(アブ科昆虫の雄)、桑螵蛸(カマキリの卵鞘)、䗪虫(ゴキブリの雌成虫)、蜈蚣(ムカデ)など、動きのある生き物が数多く登場し、その薬効が驚くほど具体的に記されています。
先人たちは、生命の営みそのものを薬効としてとらえていたのでしょう。

動物性生薬の中には、現代まで受け継がれているものも少なくありません。
牛黄や麝香は意識をはっきりさせる開竅薬として、地竜は清熱・利尿に、阿膠は滋陰補血・止血の要薬として、黄連阿膠湯や芎帰膠艾湯などに配合され、今もなお用いられています。
生命の力を借りて人の身体を整えるという、薬膳の根源的な思想がここにあります。

啓蟄は、外の世界だけでなく、私たちの身体の内側でも動き始める季節です。
冬に溜め込んだものがほどけ、気がのびやかに巡り出す頃。
季節の変わり目に、少しだけ自分の身体の声に耳を澄ませてみると、春の養生が自然と整っていきます。

なお、このテーマは2019年3月1日に「紡ぐしあわせ薬膳協会」の薬膳コラムとして公開したものを、今年の啓蟄に合わせて加筆・再構成したものです。季節の息づかいとともに、薬膳の知恵をまた新たに感じていただければ幸いです。

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