「上司に確認します」で止めない決裁支援の技術。
例えばこんなこと、よくありませんか??
担当者との商談では、かなり良い感触があった。
サービスを購入するだけの課題感もある。
こちらの話にも前向きに反応してくれる。
商談の最後には、「良さそうですね」「一度社内でも共有してみます」「上司にも確認してみます」と言ってもらえた。
営業としては、悪くない流れに見えます。
むしろ、次回につながりそうな手応えすらある。
でも、そこから案件がまったく進まなくなることがあります。
次回の日程がなかなか決まらない。連絡しても、「まだ社内確認中です」と返ってくる。しばらくすると、「今回は一旦見送りになりました」と言われる。
こういう商談は、営業現場で少なくありません。
このとき、多くの営業は「担当者の社内調整がうまくいかなかった」と考えます。
あるいは、大手企業だから決裁フローが複雑だった。上司の理解が得られなかった。予算のタイミングが合わなかった。急に競合と比較された。
だから今回の案件に関しては、仕方なかった。そう整理してしまう。
もちろん、そう捉えることもできます。
ただ、そう捉えていては、今後も案件を前に進めることはできないでしょう。
問題は、担当者が社内で進められなかったことではなく、営業が担当者を「社内で決裁を進められる状態」にできていなかったことです。
担当者は、商談の相手であると同時に、顧客企業の中でこちらの話を背負ってくれる人でもあります。営業がどれだけうまく話しても、社内に戻ったあとは、その内容を語るのは担当者です。
だから、担当者に「良さそうですね」と言ってもらうだけでは足りません。
その担当者が、上司や関連部署に対して、なぜ今このテーマを検討すべきなのかを説明できる。
反対や懸念が出たときに、何が論点なのかを整理できる。
次に誰の確認を取ればよいのかを理解している。
ここまで具体的なイメージをもってもらえて初めて、担当者は単なる窓口ではなく、社内推進者になります。
決裁支援とは、決裁者に会わせてもらうためのテクニックではありません。
担当者を一人にせず、社内で意思決定を前に進められる状態を一緒につくることです。
このnoteで伝えたいこと
このnoteで伝えたいことは、以下の3つです。
担当者の反応と、社内決裁は別である
決裁支援は「誰が決めるか」だけを見ない
担当者を社内推進者に変える具体的な方法
【1】担当者の反応と、社内決裁は別である
商談中に担当者が前向きだったとしても、社内に戻ると担当者は、思いもよらなかった様々な問いを受けることになります。
たとえば、
部長からは、「それは本当に今やるべきなのか、他に選択肢はないのか」と聞かれる。
現場マネージャーからは、「忙しい中で、追加の運用がどれくらい発生するのか」と聞かれる。
経営側からは、「受注率や立ち上がり期間にどれくらい影響するのか」と聞かれる。
情報システム部門からは、「情報の取扱いは大丈夫なのか」と聞かれる。
購買部門からは、「他社と比べて、なぜこの会社なのか」と聞かれる。
商談中に担当者が感じていた「良さそう」という感覚は、社内で求められる「会社として進める理由」は違います。
担当者の感想だけでは、社内の意思決定は進みません。
様々な問いに対し、担当者が適切に答えられないと、案件は止まります。
これは担当者が悪いわけではありません。
営業が、担当者が社内で聞かれる問いを想定し、支援しきれていなかったということです。
商談中にサービス説明だけをしていると、担当者は社内で戦えません。
資料を共有することはできても、「なぜ今なのか」「なぜこの方法なのか」「誰にどんな影響があるのか」までは説明できない。
そして大手企業の商談ほど、この差によって結果が大きく変わってきます。
関係者が多く、判断基準も複数ある。
現場の納得、予算の妥当性、リスク確認、運用負荷、既存施策との違い。
これらを一つずつ、丁寧にサポートしながら、担当者と二人三脚で乗り越えないと、案件は前に進みません。
決裁には誰が絡むのか、誰が何を気にしていて、どこで止まりそうで、担当者がどう説明すれば次の判断に進むのか。
ここまで見据えて支援することが営業の役割です。
【2】決裁支援は「誰が決めるか」だけを見ない
決裁構造を確認しよう!という話をすると、多くの営業は、最終決裁者のみを確認します。
もちろん、最終決裁者を把握することは大切です。
ただ、それだけでは足りません。
特に大手企業の商談では、最終的に誰が決めるかより前に、いくつもの合意が必要になります。
そもそも、このテーマを社内で検討する価値があるのか。
現場として、この手段で課題解決できそうなのか。
部門として、予算を使う意味があるのか。
経営として、今この投資を優先すべきなのか。
管理部門として、契約や情報管理のリスクは許容できるのか。
これらはすべて、別軸の判断です。
にもかかわらず、営業側が「決裁者は部長です」とだけ理解していると、商談の進め方を間違えてしまう。
本当はまだ会社の中で案件化の合意が取れていないのに、価格や契約条件の話をしてしまう。
現場の購買決裁が弱いのに、経営向けの費用対効果だけを押してしまう。
セキュリティや法務の確認が残っているのに、営業側は「もう受注間近」と見てしまう。
こうなると、案件管理もズレはじめていきます。
決裁支援で見るべきなのは、誰がハンコを押すかだけではありません。
どの順番で、誰が、何に合意すれば前に進むのかです。
決裁は、合意の順番で進む
大手企業の買い方は、決裁の順番で決まります。
ざっくり分けると、決裁には「案件化」「購買決裁」「予算決裁」「契約決裁」があります。
まず、案件化の合意があります。
担当者が個人的に「良さそう」「買いたい」と思っているだけでは、まだ弱い。社内で検討テーマとして扱う合意が必要です。つまり、「この課題は、社内で検討する価値がある」と認められる状態です。
次に、購買決裁があります。
ここでは、現場や部門が「この手段で課題解決できそうか」を判断します。使い手が良いと思うだけではなく、部門として進める意味があるのか。既存施策や内製と比べて、最も効果的な手段なのか。ここが問われます。
その次に、予算決裁があります。
経営や予算責任者は、「いまお金を使うべきか」を見ます。課題があることは分かった。手段も良さそうだ。では、今期の予算を使ってまで取り組むべきなのか。他の投資より優先すべきなのか。ここに答えられないと、案件は止まります。
最後に、契約決裁があります。
契約書の内容、与信、セキュリティ、情報管理、取引リスク。ここでは、サービスの魅力とは別の観点で判断されます。現場が良いと言っていても、管理部門で止まることは普通にあります。
この順番を理解していない営業は、すべてを「上司確認」や「決裁者確認」でまとめてしまいます。
しかし実際には、フェーズごとに必要な合意が違います。
案件化では、社内検討を始める理由が必要です。
購買決裁では、現場や部門がこの手段を選ぶ理由が必要です。
予算決裁では、今お金を使う理由が必要です。
契約決裁では、取引してよい理由が必要です。
この違いを見ないまま進めると、商談は「前向きに見えるのに止まる」状態になります。
担当者の反応は良い。課題感もある。次回もありそうに見える。
でも、実際には次の合意に進んでいない。
ここが曖昧なまま進むと、案件は止まります。
案件ごとに、合意定義を持つ
営業組織でよく起きるのは、案件の進捗を雰囲気で管理してしまうことです。
「先方は前向きです」
「担当者の反応は良かったです」
「上司に確認してくれるそうです」
「予算感はありそうです」
こうした報告は、一見すると案件が進んでいるように見えます。しかし、どの合意が取れているのかが曖昧なままだと、実際にはほとんど進んでいないことがあります。
本来、見るべきなのはフェーズごとの合意です。
案件化であれば、担当者が個人的に買いたいと言っただけなのか、それとも社内検討をしたいと言ったのか。
購買決裁であれば、使い手が良いと思っただけなのか、それとも部門長が予算稟議を上げると言ったのか。
予算決裁であれば、必要な部門外調整が済んでいるのか、最終決裁者が予算化に合意しているのか。
契約決裁であれば、契約書、与信、セキュリティ条件がクリアしているのか。
案件によって、進む順番は変わります。経営主導で先に予算が動く案件もあれば、現場の購買決裁が先に必要な案件もある。セキュリティ確認が早めに必要な案件もあります。
だからこそ、営業は一案件ごとにアカウントプランを持つべきです。
この案件では、何が完了すれば案件化と言えるのか。購買決裁は誰が何に合意すればよいのか。予算決裁では何を示す必要があるのか。契約決裁で止まりそうな論点は何か。
これを整理しておくと、営業の動き方が変わります。
「次回日程を取る」ことが目的ではなくなります。
「次の合意を取りに行く」ことが目的になります。
この違いは大きい。
売れる営業は、なんとなく案件を進めていません。どの合意を取りに行くべきかを見ています。だから、商談中の質問も、資料の作り方も、ネクストアクションの握り方も変わります。
【3】担当者を社内推進者に変える具体的な方法
では、営業は具体的に何をすればいいのか。
必要なのは、担当者を詰めることではありません。担当者が社内で動けるように、決裁の論点を一緒に整理することです。
たとえば、商談の終盤で次のように聞きます。
「今回の内容を聞いて、課題を解決できそうだと感じましたか」
これは、案件化理由の整理です。担当者が何に価値を感じたのかを言語化しておかないと、社内では「なんとなく良さそうなサービス」として伝わってしまいます。
次に、こう聞きます。
「社内で展開したいと思える内容でしたか」
この質問では、担当者の個人的な興味から、社内検討に進める意思があるかを確認します。担当者が良いと思っているだけなのか、それとも社内で話してみたいと思っているのか。この差は大きい。
さらに、購買決裁に近づけるためには、関係者の論点を確認する必要があります。
「上司や部門長に共有するとしたら、どの点が一番伝わりそうですか」
「反対が出るとしたら、どこからどんな懸念が出そうですか」
「次の決裁者にとってのメリットは、どのように説明できそうですか」
こうした質問は、担当者に答えを求めるためだけのものではありません。
社内でどんな判断が起きるのかを、一緒に見立てるための質問です。
そのためには、担当者に具体的なシーンをイメージしてもらう必要があります。
たとえば、現場マネージャーは運用負荷を気にするかもしれません。部門長は既存施策との違いを気にするかもしれません。経営は費用対効果や今期中に取り組む理由を気にするかもしれません。情報システム部門はデータの扱いやセキュリティを気にするかもしれません。
この論点が見えていれば、営業側も準備できます。
費用対効果の見せ方を変えるのか。運用負荷を抑えた導入ステップを出すのか。既存施策との違いを整理するのか。情報管理の説明資料を用意するのか。
見えている懸念は、準備できます。
見えていない懸念は、社内会議で止まります。
だから、決裁支援では反対を避けるのではなく、先に見つけることが大切です。
ネクストアクションは、日程ではなく次の合意で握る
商談の最後にも差が出ます。
よくある終わり方は、「では、上司に確認いただいて、またご連絡ください」です。一見すると自然ですが、ここには大きな曖昧さがあります。
誰に確認するのか。
何を確認するのか。
いつまでに確認するのか。
その結果、次回は何を判断するのか。
ここが曖昧なままだと、案件は止まります。担当者も何を持ち帰ればよいのかが曖昧になり、営業側もただ待つしかなくなる。
だから、ネクストアクションは「確認」ではなく「合意」で握る必要があります。
たとえば、こういう終わり方です。
「次回は、部長に今回の課題認識と実施目的を共有いただいたうえで、今期中に検討テーマとして扱うかどうかを確認する場にしましょう」
「現場マネージャーには、運用負荷が許容できるかを確認いただき、次回は導入範囲をどこまでにするか相談しましょう」
「情報システム部門には、商談録音データの扱いで懸念があるかを確認いただき、次回はその懸念に回答する場にしましょう」
ここまで握ると、次回商談の意味が変わります。
ただの進捗確認ではなく、意思決定を一段進める場になります。
ネクストアクションは、日程を決めることではありません。
誰が、何を、いつまでに確認し、次回どの合意を取りに行くのかを決めることです。
ここを握れていないと、担当者は社内で一人になります。
そして、担当者が一人になった商談は、かなり高い確率で止まります。
担当者任せにしない
これまでお伝えしてきた通り、担当者の反応が良いだけでは、案件は前に進みません。
担当者が良いと思っていることと、会社として進められることは別です。ここを混同すると、「商談では盛り上がったのに、なぜか失注した」という案件が増えていきます。
本当に見るべきなのは、担当者の温度感だけではありません。
その担当者が、社内で何を語れる状態になっているかです。
なぜ今やるべきなのか。
なぜこの課題なのか。
なぜこの手段なのか。
誰が何を懸念しそうなのか。
その懸念にどう答えるのか。
次に誰のどんな合意が必要なのか。
これらを一緒に整理できている営業は、担当者商談でも案件を前に進められます。逆に、ここを担当者任せにしている営業は、どれだけ商談中の反応が良くても、社内会議で止まりやすい。
「上司に確認します」は、商談が前に進んだ合図のように聞こえます。
でも、そこで営業が何も設計できていなければ、それは担当者が一人で社内決裁を背負う合図でもあります。
決裁支援とは、押し込みではありません。
担当者を飛ばして上を押さえにいくことでもありません。
顧客の社内意思決定が前に進むように、合意の順番を整理し、懸念を先に見つけ、担当者が社内で使える言葉に変換することです。
「上司に確認します」の先まで、営業は設計できているか。
それとも、担当者任せにして失注案件を積み重ねていないか。
後者の方は、ぜひ担当者任せにしない決裁支援を実践してみてください。
