今週、"庶民の味方"第3のビールに死亡宣告が出た──10月の酒税一本化で「ビールが安くなる」のに日本人の酒代が上がる全構造と、PBR0.79倍の1社だけが勝つ正体
「ビールが安くなります」──このニュースを聞いて、素直に喜んだ人は多いと思う。
でも、数字を追うと真逆のことが起きている。2026年10月1日、ビール系飲料の酒税が一本化される。ビール350ml缶の税額は63.35円から54.25円へ、9.1円の減税。ここだけ見れば確かに安くなる。
問題はその裏側だ。第3のビール(新ジャンル)は46.99円から54.25円へ、7.26円の増税。発泡酒も同額に引き上げられる。毎日1本、第3のビールを飲んでいた人の酒代は、年間で約2,600円上がる計算になる。
「ビールが安くなる」と「あなたの酒代が安くなる」は、まったく別の話だった。
第3のビール、30年の命が終わる日
そもそも「第3のビール」という飲み物は、日本以外のどこにも存在しない。
1994年、酒税を逃れるためにサントリーが「ホップス」を発売した。麦芽比率を下げて「発泡酒」として安く売った。すると政府が発泡酒の税率を上げた。そこでメーカーは2003年、麦芽すら使わない「第3のビール」を発明した。サッポロ「ドラフトワン」が先陣を切った。政府が税率を上げると、メーカーが抜け道を作る。メーカーが安い酒を作ると、政府がまた課税する──この30年のいたちごっこが、10月に完全決着する。
税率が同じになれば、わざわざ味を犠牲にして安い原材料で造る理由がない。
だから今週、驚くべきことが起きた。キリン「本麒麟」、サントリー「金麦」、サッポロ「GOLD STAR」「麦とホップ」、アサヒ「クリアアサヒ」──日本人がこの20年、冷蔵庫に常備してきた新ジャンルの主力ブランドが、すべて「ビール」への格上げを発表済みだという事実が、各社の公式発表で出揃った。
第3のビールというカテゴリーは、2026年10月をもって実質消滅する。
そしてアサヒビールは5月29日、「スーパードライ」を38年ぶりに全面刷新し「スーパードライ3.0」にすると発表した。1987年の発売以来、初のフルリニューアル。これは単なるブランド刷新じゃない。第3のビールが消え、全メーカーが「ビール」の土俵で真正面からぶつかる時代への戦闘態勢の宣言だ。
「安さで選ぶ」合理性が消える構造
数字を並べると、消費者の行動がどう変わるか見えてくる。
現在、中価格帯ビールと第3のビールの店頭価格差は350ml缶で約39円。「味はビールがいいけど、毎日飲むなら39円安い方で」──この合理的な判断が、第3のビールの市場を支えてきた。
10月以降、この価格差は約23円まで縮まる。原材料コストの差があるから完全にゼロにはならない。でも23円の差で、味が明らかに劣る方を選ぶ人がどれだけいるか。
実際、消費者の意識はもう動き始めている。ある調査では「酒税改正後にさらにビールを飲みたい」と答えた人が35%。酒税改正の認知率は74.3%に達している。スーパーの棚から第3のビールが消える前に、消費者の頭の中ではすでに「切り替え」が始まっている。
ビール類全体に占めるビールの構成比は、すでに57%まで回復した。2018年には40%台まで落ち込んでいたから、これは劇的な反転だ。10月以降、この数字は70%を超えるだろうと複数のアナリストが予測している。
勝者と敗者──「ビール回帰」で笑う人、泣く人
で、この大転換で誰が得をして、誰が損をするのか。
勝者側は明確だ。まず、プレミアムビール路線に早くから舵を切ったメーカー。ビールの単価は第3のビールより高い。全商品がビールに統一されれば、売上の「単価×数量」の単価側が自動的に上がる。コンビニも同じで、350ml缶の平均単価が上がれば、同じ棚面積で売上が増える。
敗者側はどうか。まず、「安さ」を理由に第3のビールを選んでいた消費者。先ほどの計算の通り、毎日1本で年間2,600円の負担増。家庭の飲酒量が多いほどダメージは大きい。週末にまとめ買いする人は、月単位で数百円の差を体感するはずだ。
ディスカウントストアも厳しい。「第3のビールが安い」がドンキやドラッグストアの集客装置だった。価格差が縮めば、わざわざ遠い店まで買いに行く理由が薄れる。
そして業界地図にも異変がある。サントリーの「ビール事業2位浮上」の可能性だ。キリンが長年守ってきた2位の座を、サントリーが奪うかもしれない。「金麦」の顧客基盤をそのままビールに引き上げるサントリーの戦略は、酒税一本化と極めて相性がいい。ただしサントリーホールディングスは非上場なので、投資家がこの波に乗るには別のルートが必要になる。
あなたの家計は、どちら側か
ここまで読んで「ふーん、ビール業界の話ね」と思った人は、一度冷蔵庫を開けてほしい。
今そこに入っているのは、金麦か。本麒麟か。クリアアサヒか。もしそうなら、あなたの酒代は10月から自動的に上がる。「何もしていないのに支出が増える」──これは実質増税と同じ構造だ。
逆に、週末しか飲まない人。もともとビール派の人。この人たちは9.1円×本数分だけ、黙っていても得をする。
正直なところ、年間2,600円という金額は家計を破壊するほどじゃない。でもこの「2,600円」に含まれている構造の変化が問題なんだ。第3のビールが消えるということは、「安くて大量に飲める」という選択肢そのものが消えるということ。缶チューハイに流れる人も出てくるだろうけど、ビール好きにとっては代替にならない。
もうひとつ、投資家としての視点がある。NISA口座に食品・飲料セクターの銘柄を入れている人は意外と多い。配当利回りが高くてディフェンシブだから、初心者向けの定番になっている。でもその銘柄が「酒税改正の勝ち組」なのか「負け組」なのか、10月までに確認した人はどれくらいいるだろう。
3つだけ自問してほしい。①あなたは何を飲んでいるか。②飲料銘柄をNISAで持っているか。③10月までに、何か動くつもりがあるか。
この3つの答え次第で、10月の酒税一本化はあなたにとって「ちょっと得する話」にも「じわじわ損する話」にもなる。では、具体的に何をすればいいのか。
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