【薬が足りない。処方箋はあるのに、薬がない現実】
今日も今日とて
「薬、今日お渡しできません」
患者さんにそう告げるとき、薬剤師の胸は締めつけられる。
病院で診察を受け、処方箋をもらい、薬局に持っていく。
これは日本ならどこでも当たり前に成立するはずの流れである。
ところが、いまその“当たり前”が崩れつつある。
厚生労働省の調査では、通常どおり出荷できていない医薬品は全体の約2割。体感としてはもっと多い。
その多くがジェネリック医薬品だが、先発医薬品や長期収載品も含まれる。
つまり「どんな薬でも不足する可能性がある」というのが現状である。
だるま落とし方式で消えていく薬
薬不足は「だるま落とし」のように起きる。
インフルエンザ治療薬が足りないと思えば、次は局所麻酔薬。
その次は喘息薬、さらには抗がん剤まで。
しかも特殊な薬だけではない。
膵臓の病気で欠かせないリパクレオン(膵酵素補充薬)や、感染症治療の基本であるアモキシシリン(抗生物質)といった“よく使う薬”さえ、出荷調整の対象になる。
「これがないと治療が回らない」という薬がごっそり消えるのだから、医療現場は冷や汗ものだ。
新規の処方箋が来るたびに、薬局ではまず問屋に電話をかける。
「この薬、今日入りますか?」
──そして返ってくるのはおなじみのフレーズ。
「すみません、※出荷調整中で…」
1日に何度も断られ、もはや「今日も安定の入荷不可ですね!」と苦笑いで返すのが日課になっている。
※出荷に制限がかけられてスムーズに入荷しないこと。
かかりつけ薬局推進と薬不足の矛盾
国は「かかりつけ薬局」を推進している。
地域の薬局が患者を長期的に支え、複数の処方をまとめて管理する仕組みである。
しかし現実には、その理念が薬不足によって壊れている。
たとえば、3つ以上の病院にかかる患者さん。
かかりつけ薬局でまとめて処方を受けるはずが、新しい薬を仕入れようとすると卸から「過去に納入実績がないので新規納品はできません」と断られる。そう、納入実績があるところにしか出荷調整の薬はなかなか入らないのだ。
結果、かかりつけなのに薬が入らない、という本末転倒な事態になる。
小児科の処方箋でもこんなことがあった。
ある親御さんは、子どもの薬を求めて3軒の薬局を回ったが、すべて「在庫なし」。
最後にうちの薬局に来られたが、残念ながらそこでも薬はなかった。
結局、医師に疑義照会を行い、別の薬に処方を変更してもらった。
「薬はどこに行けば手に入るんですか?」と尋ねられたとき、薬剤師として答えに詰まる。
全国どこでも同じ薬がもらえるのが理想のはずなのに、現実には患者さんに“薬局ラリー”を強いているのだ。
薬はあっても届かない? 人手不足の影響
さらに追い打ちをかけるのが、人手不足と働き方改革である。
以前は1日2回あった問屋からの配送が、いまでは1回だけになった地域も少なくない。
つまり「薬は倉庫にあるのに、今日中に薬局に届かない」という事態が起こる。
処方箋を受けたその日のうちに薬が出せないこともあり、患者さんに再来局をお願いすることになる。
これも薬剤師にとっては心苦しい瞬間だ。
患者も薬剤師も困っている
薬不足は患者にとって命に直結する問題であり、薬剤師にとっては信頼を損なう深刻な悩みである。
品質問題、海外依存、国内生産基盤の弱さ──原因は複雑であり、一朝一夕で解決できるものではない。
だが少なくとも「現場の薬剤師が患者に謝り続ける」状況は、早く解消されなければならない。
最後に
薬不足はニュースの中の出来事ではない。
「自分の薬が出ない」という形で、明日にでも生活に直結する問題である。
「かかりつけ薬局を推進します」と言う国。
「新規納品はできません」と言う卸。
「薬がないんです」と謝る薬剤師。
このトリプルパンチを、患者さんに押しつけ続けてよいはずがない。
だるま落としのように薬が次々消えていく現状を、どう食い止めるか。
それは国の安全保障であると同時に、私たちの日常を守るための切実な課題である。
