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パッションフルーツと蜂との一夏の思い出

数年前まで住んでいた家のベランダはとても日当たりが良かったので、私は色々な野菜や果物を育てていました。

中でもお気に入りだったのはパッションフルーツでした。

トケイソウ(クダモノトケイソウ)とも呼ばれるパッションフルーツはとても奇妙ですが美しい花が咲き、その後は紫や黄色の卵型の実をつけます。

パッションフルーツ
パッションフルーツの実


これも見た目は奇妙、というか正直グロいですが、プチプチした種ごと食べられ、果肉も甘酸っぱくて美味しいのです。

本当に美味しいですよ?


私は冬は室内で越冬させるために10号鉢の行燈仕立てで育てていましたが、ネットを張ってグリーンカーテンにもできるおすすめの植物です。

■ アシナガバチとの出会い

ある夏の日、水遣りのためにベランダに出た私は、そのパッションフルーツの鉢の周りを1匹のアシナガバチが飛んでいるのを発見しました。

虫が苦手な私は内心(ギャー!)と思いましたが、アシナガバチは農作物にとっては害虫を食べてくれる益虫であることと、こちらから攻撃しなければ襲ってくる可能性は低いという知識は一応あったので、その日はビビりながらもなるべく刺激しないように努めながら無事に水遣りを終えました。

しかし、それだけでは終わりませんでした。
前日のことをすっかり忘れてベランダに出ると、再び「ヤツ」と遭遇してしまったのです。

■ またお前か!

それ以降、「ヤツ」とはほぼ毎日顔を合わせるようになってしまいました。
水遣りの時間帯を変えてみても、やはり「ヤツ」はパッションフルーツの鉢の周りを飛び回っているのです。

これは、もしかしたら近くに巣を作られてしまったかもしれない……と危惧した私はベランダ内や周囲の軒などを捜索しましたが、一向にそれらしきものは見当たりません。

それに、「ヤツ」は仲間がいる様子はなく、常に1匹だけで行動していました。

何度遭遇しても襲われたり威嚇されることもなかったので、次第に「ヤツ」への恐怖心は薄れ、私は特に何もせずそのまま見守ることにしました。

おそらくこれまで来ていたのは同じ個体で、余程うちのパッションフルーツが気に入って毎日やって来るのだろう、そう思うと悪い気はしませんでした。

■ ドリンクバーか?

改めて観察してみると、このアシナガバチは本当にパッションフルーツがお気に入りのようでした。

パッションフルーツの葉やツボミの付け根からはとても甘い蜜が出るので、それが目当てなのでしょう。

私が数十cmの距離で見ていてもガン無視で、一心不乱に飛び回りながら蜜を貪り続けています。

うちのパッションフルーツは、もはや「ヤツ」専用のドリンクバーと化していました。

■ あのう、お仕事は……?

あまりにも頻繁に遭遇するため、私は「ヤツ」がどのくらいの間うちに来ているのか、一度早朝から数時間おきにチェックしてみたのですが……その結果分かったのは、「ヤツ」はほぼ一日中パッションフルーツに居座っているという事実でした。(夜は暗くていたかどうかは分かりません)

でも、おかしいですよね?

ミツバチなら分かりますよ、一生懸命蜜を集めるのは。

もちろんアシナガバチでも、自分のエネルギー源として蜜を求めることはあるでしょう。

しかしアシナガバチの働き蜂は、本来なら巣にいる幼虫のために芋虫などの害虫を狩ってくれる益虫のはずですよね?

私はそれまで一度も「ヤツ」が他の虫を狩っているのを見たことがありません。

近くにはミニトマトやゴーヤーなど、害虫がいたら退治してもらいたい植物がいくらでもあるのに、そもそも獲物を探す素振りすら見せずにひたすら蜜を貪るアシナガバチ。

人間に例えるなら、毎日ファミレスや喫茶店に入り浸って仕事をサボっている営業マン……といったところでしょうか。

呆れる反面、ダメ人間である私は「ヤツ」に微かな親近感さえ覚え始めていました。

■ 事件発生

そんな日が続いたある日、事件は起こりました。

その日は小雨が降っていました。

パッションフルーツの実ができやすくするためには人工授粉が必要なのですが、雨に当たると成功率が下がってしまいます。

鉢は軒下にありダイレクトに雨が当たることはありませんが、念のために私は人工授粉を終えた花に軽くビニール袋をかけていました。

その時間に「ヤツ」がいたのかどうかは覚えていません。

なにしろその頃にはもう常にいるのが当たり前になっていましたから、いちいちチェックなどしていませんでした。

その後しばらく経ってベランダの様子を見に行くと、何やらガサガサと妙な音がしていることに気づきました。

何だ?と思いながら音の正体を探ると……「ヤツ」でした。

「ヤツ」は私が花にかけておいたビニール袋の中に入り込み、出られなくなってパニックを起こしていたのです。

「ヤツ」はダメ人間(虫)であるだけでなく、ドジっ子という属性まで持っていたのでした。

■ 事件解決

素手でビニール袋を取ると「ヤツ」が逆ギレして刺されるかもしれないので、私はいったん室内に戻り、少し開けた網戸越しにゴミ拾い用のトングを使って花にかかったビニール袋を慎重に外しました。

地面に置いた袋の口を少し開けておくと、やがて「ヤツ」は袋から出てきて逃げるようにどこかへ飛んで行きました。

その日はもう「ヤツ」は戻ってきませんでした。

■ そして翌日

「あんな怖い目に遭っちゃったんだから、もう二度と来ないかもしれないな」とちょっぴりセンチメンタルな気分でベランダを覗いてみると……。

パッションフルーツの鉢にはいつも通り、当然のように蜜を貪っている元気な「ヤツ」の姿がありました。

まあ……実はちょっと、そんな気はしてたんですけどね。

そんなわけで、ダメ人間(虫)でドジっ子で懲りない「ヤツ」との付き合いは、夏が終わり、秋が来て、いつの間にか本当に姿が見えなくなるまで続きました。

■ 後日談

「ヤツ」のお気に入りだったパッションフルーツの鉢も、数年前の引越しの際に処分したためもう残っていません。

この記事を書くにあたり、過去に撮った写真に「ヤツ」が映り込んだりしていないかな?と探してみましたが、残念ながら見つかりませんでした。

しかし……写真はありませんでしたが、なんと8月のある日に撮った動画に「ヤツ」の姿が残されていたのです!

その日の空模様は陽が時折差し込みながら雨が降る、いわゆるお天気雨だったため、珍しくて猫と一緒に外を眺めながら動画を撮っていたのでした。

右上にヤツ

↑のGIFにも一応右上のあたりにいるのですが、別の分かりやすいシーンを拡大してみました。

これでも見え辛いかもしれませんが、在りし日の「ヤツ」の姿をご覧ください。↓

ヤツ

……お分かりいただけたでしょうか?

カメラワークが微妙に「ヤツ」を追っているので、撮影当時の私は「ヤツ」を認識していたのでしょう。

しかしこの動画を撮っていたことすら覚えていなかったので、今回発見した時はお宝を掘り当てたような気分でした(笑)。

それにしても、一体何だったんでしょうね、「ヤツ」は。

実は私の見えないところではちゃんと仕事してた普通の働き蜂だったのか、巣を失って狩りをする必要も無くなったはぐれ蜂だったのか……それともまさか違う個体が入れ替わり立ち替わりやって来ていたのか?

今となっては本当のところは分かりませんが、「ヤツ」は私が人生の中で唯一親近感を抱いた昆虫でした。

パッションフルーツを育てている方、またこれから育てようと思っている方、もしかしたら生まれ変わった「ヤツ」がまた蜜を貪りにやって来るかもしれません。

その時はどうかよろしくお伝えください。

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