AIエージェント × 人の褌でトレード戦略を爆誕させる
本記事は、 マケデコ Advent Calendar 2025 25日目の記事です。
マケデコとは
マケデコ(Market API Developer Community)というコミュニティがあります。株式投資やシステムトレードに取り組む投資家・エンジニアが集まり、データ分析や機械学習などの知見が共有されています。
このコミュニティでは毎年12月にアドベントカレンダーが企画され、参加者が惜しげもなく知見を公開しています。2023年から2025年にかけて蓄積された記事は60本を超えます。
記事一覧: advent_calendar_links.csv
次のような、トレード戦略を考える上で参考になる知見が凝縮されています。
機械学習モデルの設計とオーバーフィット対策
確率的ボラティリティモデル
寄り引けロングショート戦略
リバーサル戦略の検証
ファクター分析
LLMのトレーディング活用
人の褌で相撲を取る
しかし、60本の記事をすべて読み込んで咀嚼するには、相応の時間がかかり、記事によっては専門的な知識を持っていることが前提となります。
そこで本記事では、AIエージェントにこれらの記事を読み込ませ、トレード戦略を生成させる試みに挑戦します。
本記事では、先人たちの知見を活用して戦略を導き出す——「人の褌で相撲を取る」アプローチをとります。
MixSeekとは
本記事では、AIエージェントとして Mixseek を使用します。筆者もこのプロジェクトの開発に関わっています。
MixSeekは、AIエージェント間の競争と協調を促進するコンペ型フレームワークです。その設計思想は、MixSeekという投資アルゴ量産のための新しいAIエージェントプラットフォーム で詳しく解説されています。
この記事に書かれているように、投資領域は明確な正解がなく、多様なアプローチが共存しうる分野です。この特性は、一連の手順を順番に実行するワークフロー型のエージェントには適していません。
そこで、複数のエージェントが独立して戦略を生成し、競い合う形式が有効と考えられ、MixSeekはこの要件を満たします。
また、MixSeekでは、各ラウンドで評価結果が次のプロンプト生成に反映されます。ラウンドを重ねることで、表面的なアイデアから徐々に深い洞察へと到達できる仕組みになっています。
MixSeekの具体的な使い方については、筆者の別記事 MixSeekとは何者なのか? をご参照ください。
記事要約エージェントの構築
60本以上の記事をAIに効率よく読み込ませるため、まずは記事を取得・要約するエージェントを作成します。
MixSeekのチームは、リーダーエージェントとメンバーエージェントで構成されます。リーダーはタスク全体を統括し、メンバーに具体的な作業を指示します。メンバーはweb_fetch(Web記事取得)やcode_execution(コード実行)など特定の能力を持ち、リーダーからの指示に応じて作業を行います。
今回はweb_fetchタイプのメンバーエージェントを使い、URLから記事を取得させます。
[[team.members]]
name = "article-fetcher"
type = "web_fetch"
tool_name = "fetch_article_content"
tool_description = """
指定されたURLからWeb記事の内容を取得します。
Qiita、Zenn、note などの技術記事プラットフォームに対応しています。
"""
# model = "google-gla:gemini-2.5-flash"
model = "anthropic:claude-haiku-4-5"
temperature = 0.3
max_tokens = 8192
timeout_seconds = 120
[team.members.system_instruction]
text = """
あなたはWeb記事フェッチエージェントです。
取得方針:
- 指定されたURLからページ内容を取得
- 記事本文、タイトル、著者情報を抽出
- コードブロックがあれば保持
- 広告やナビゲーションなどのノイズを除去
出力形式:
- 記事タイトル
- 著者名(取得可能な場合)
- 公開日(取得可能な場合)
- 記事本文
- コードサンプル(ある場合)
"""設定ファイル全文: team_advent_fetcher.toml
このエージェントは各記事から以下を抽出します:
記事タイトル・著者名
主要テーマ/カテゴリ
要約(200文字程度)
投資戦略に関連するキーポイント
今回は batch_fetch_articles.py のように、一括して要約する処理を実施しています。
要約結果: articles_with_summary.csv
投資アプローチ別戦略立案チームの構成
要約された記事を読み込み、投資戦略を立案するチームを構成します。MixSeekのオーケストレーター機能を使い、異なる専門性を持つ3つのチームを競争させます。
オーケストレーターは3つのチームに同じプロンプトを与え、最大3ラウンドにわたって戦略を競わせます。各ラウンドでは評価者エージェント(Evaluator)がフィードバックを行い、チームは戦略を改善していきます。
# Team 1: Systematic Trader
[[orchestrator.teams]]
config = "configs/agents/team_systematic_trader.toml"
# Team 2: Fundamental Investor
[[orchestrator.teams]]
config = "configs/agents/team_fundamental_investor.toml"
# Team 3: Risk Manager
[[orchestrator.teams]]
config = "configs/agents/team_risk_manager.toml"
[evaluator]
default_model = "google-gla:gemini-2.5-flash"オーケストレーター設定: strategy_pattern1_orchestrator.toml
Team 1: システマティック・トレーダー
定量分析とアルゴリズム取引に特化したチーム。統計モデル、機械学習、バックテスト手法に関する記事を読み込み、再現性と自動化が可能な投資戦略を立案します。
設定ファイル: team_systematic_trader.toml
Team 2: ファンダメンタル投資家
企業価値分析に精通したバリュー投資家チーム。業績予測、財務分析、決算短信に関する記事を読み込み、割安株の発掘や長期保有に適した投資戦略を立案します。
設定ファイル: team_fundamental_investor.toml
Team 3: リスクマネージャー
ポートフォリオリスク管理に特化したチーム。ボラティリティ、ドローダウン、リスク評価に関する記事を読み込み、リスク調整後リターンを最大化する戦略を立案します。
設定ファイル: team_risk_manager.toml
Evaluator: 評価エージェント
各ラウンドでチームの戦略を評価し、スコアとフィードバックを返すエージェントです。以下の4つの観点から100点満点で評価します。
評価観点と配点:
実行可能性(30点): 執行コスト、流動性、データ可用性、実装難易度
リスク調整後リターン(30点): 期待リターンの妥当性、リスク評価、シャープレシオ、ドローダウン耐性
頑健性(20点): オーバーフィット耐性、レジーム変化耐性、パラメータ感度
明確さ(20点): 戦略ロジックの明確さ、再現可能性、売買ルールの明確さ
スコアリング基準:
90-100点: 優れた投資戦略
70-89点: 良好な戦略
50-69点: 普通の戦略
30-49点: 改善が必要な戦略
設定ファイル: evaluator_investment_strategy.toml
タスクの実行
いよいよ本記事のメインである投資戦略の生成です。タスクプロンプトには先ほど生成した articles_with_summary.csv を貼り付け、先頭に「以下の記事一覧から投資戦略を立案してください:」を追加して実行します。
以下の記事一覧から投資戦略を立案してください:
year,day,title,url,overview,keywords
2023,1,機械学習モデルが爆損したときにやること,https://speakerdeck.com/katsu1110/ji-jie-xue-xi-moderugabao-sun-sitatokiniyarukoto,機械学習モデルを使った株式トレーディングで大損失が発生した際の対応方法を3つのステップで解説。気持ちの整理、MLパイプラインの検証、外部要因分析を通じて、損失から学習し将来の利益につなげるアプローチを提示。,
2023,2,機械学習モデルでシグナルを設計してから気をつけるべきTips,https://zenn.dev/gamella/articles/d8c87d91ff0355,株式投資における機械学習モデルのシグナル設計後の実装段階で気をつけるべき3つの重要なテクニックを解説。ボラティリティフィルタリング、リバーサル外れ値除外、時価総額ファクターローテーション対応を通じて、不必要なリスク回避の重要性を強調。,
2023,3,異常アノマリーのその後,https://zenn.dev/ageonsen/articles/5657b12b177f50,前回紹介した株価異常アノマリー戦略の続編。著者は「ちなみにbet はしていない」と明記し、戦略の再現性や有効性について検証・考察している。詳細な分析理由は後日予定。,
...以下略...ラウンドごとのスコア推移

上のグラフは各チームのラウンドごとのスコア推移です。ラウンド1では全チームが82〜87点でスタートしましたが、ラウンド2で一旦スコアが下がりました。特にRisk Manager Teamは75点まで低下しています。しかしラウンド3では全チームが回復・向上し、最終的にFundamental Investor Teamが91点でトップとなりました。
順位,チーム名,スコア,ラウンド,作成日時
1,Fundamental Investor Team,91,3,2025-12-21 15:14:15
2,Systematic Trader Team,88,3,2025-12-21 15:14:19
3,Risk Manager Team,88,3,2025-12-21 15:14:20
4,Fundamental Investor Team,87,1,2025-12-21 15:11:47
5,Risk Manager Team,85,1,2025-12-21 15:11:55
6,Fundamental Investor Team,83,2,2025-12-21 15:13:01
7,Systematic Trader Team,82,1,2025-12-21 15:11:53
8,Systematic Trader Team,78,2,2025-12-21 15:12:58
9,Risk Manager Team,75,2,2025-12-21 15:13:00生成された戦略
3つのチームが3ラウンドを経て、それぞれ異なるアプローチの投資戦略を生成しました。各チームは異なる専門性を持ちながらも、マケデコの記事群から共通する重要な知見を抽出し、それぞれのアプローチで戦略に昇華させています。
注記: 以下のスコアと順位は、 evaluator_investment_strategy.toml で設定した評価基準に基づくものであり、投資戦略の絶対的な優劣を示すものではありません。
MixSeekでは、ユーザーが自身の目的に応じた評価基準をカスタマイズできます。例えば「シャープレシオ重視」「実装の容易さ重視」など、ユーザの視点で評価基準を作れることに強みがあります。
🥇 1位: アンチ・クラウディング・ネットキャッシュ・スクイーズ戦略 (ACNS)
チーム: Fundamental Investor Team
スコア: 91点
ネットキャッシュ比率50%超の小型株を母集団とし、混雑度(Comomentum)が低い不人気銘柄を厳選。あえて業績悪化予測の銘柄を狙うことで、30%の確率で発生するポジティブサプライズと、高水準なショートインタレストによる踏み上げ(スクイーズ)を狙う戦略です。
主なスクリーニング条件:
ネットキャッシュ比率 > 50%(強力な下値硬直性)
時価総額 20億〜500億円(個人投資家のエッジが効く小型株領域)
Comomentum < 0.1(市場の過熱・混雑を回避)
ショートインタレストレシオがセクター中央値以上
評価エージェントのフィードバック: 「不人気な割安株の逆襲」というストーリーが明確で、市場参加者の心理と構造的リスクを深く洞察したプロフェッショナルなクオンツ戦略に近い構成です。
戦略の詳細: strategy_submission_1_fundamental_investor.md
🥈 2位: DEBR-Shield (Dynamic Ensemble & Behavioral Risk Shield)
チーム: Risk Manager Team
スコア: 88点
Strategy Factoryによる低相関アルファのアンサンブルと、オールウェザー型のボラティリティ調整サイジングを統合。Comomentumで市場の群集リスクを監視し、心理分析に基づき個人の「大逆転幻想」による暴走を抑制する戦略です。
主なリスク管理手法:
Comomentum閾値: 0.15で警戒、0.20で上限
オールウェザー型サイジング: 目標ボラティリティに基づく枚数決定
混雑度連動型縮小: 閾値超過時にエクスポージャーを30-50%強制削減
爆損防止サーキットブレーカー: 最大DD更新時は強制決済
評価エージェントのフィードバック: 「勝つこと」よりも「致命的に負けないこと」に主眼を置いた設計思想。個人の心理的脆弱性をシステム的にカバーする仕組みが秀逸です。
戦略の詳細: strategy_submission_2_risk_manager.md
🥉 3位: Adaptive Multi-Factor Ensemble (AMFE) with Dynamic Risk Scaling
チーム: Systematic Trader Team
スコア: 88点
TOPIX 500を対象に、複数のアルファ(リバーサル、需給、バリュー)をStrategy Factoryパターンで統合した堅牢なアンサンブル戦略。Chatterjeeの順位相関を用いた非線形な特徴量選別と、多変量確率的ボラティリティ(MSV)モデルで戦略間の動的相関を監視します。
主な技術的特徴:
Chatterjeeの順位相関(ξ)による非線形特徴量選別
LightGBMに微分可能な順位相関損失関数を組み込み
MSVモデルによる時変相関のリアルタイム推定
CPCV(組合せパージ付き交差検証)によるオーバーフィット対策
評価エージェントのフィードバック: 特徴量選別から学習、リスク管理、バリデーションに至るまで、現代的なポートフォリオ理論と機械学習のベストプラクティスが論理的に組み込まれています。
戦略の詳細: strategy_submission_3_systematic_trader.md
ここからの発展
本記事では「投資アプローチ別」のパターンでチームを構成しましたが、MixSeekでは目的に応じて様々なチーム構成が可能です。
以下はAIが考えた構成例です。最初の構成もAIによる発案です。
時間軸別(3チーム)
投資の時間軸に応じてチームを分ける構成です。
[Team 1] 短期トレーダー: 日中〜数日の短期売買に特化。リバーサル、仲値、売買内訳データに注目
[Team 2] スイングトレーダー: 数週間〜数ヶ月の中期投資。アノマリー、モメンタム、レジームスイッチに注目
[Team 3] 長期投資家: 数年単位の長期投資。バリュー投資、ポートフォリオ構築、複利効果に注目
専門技術別(4チーム)
技術的な専門性に応じてチームを分ける構成です。より深い技術的考察が必要な場合に有効です。
[Team 1] 機械学習エンジニア: 予測モデル、特徴量エンジニアリング、オーバーフィット対策
[Team 2] 統計モデラー: ボラティリティモデル、相関分析、確率モデル
[Team 3] マーケットマイクロアナリスト: 売買内訳、流動性、価格形成、執行効率
[Team 4] データエンジニア: J-Quants API、データ取得、運用自動化
対立視点(2チーム)
楽観と悲観の対立する視点からチームを構成するパターンです。
[Team 1] アルファハンター: 市場の非効率性を探し、超過リターンを獲得する積極的な戦略を立案。「なぜこの戦略が機能するのか」を理論的に説明
[Team 2] デビルズアドボケイト: 戦略の弱点を見抜く懐疑的な分析。爆損事例やオーバーフィットの観点から「なぜこの戦略が失敗する可能性があるか」を厳しく指摘
このパターンはバイアス軽減に効果的で、投資判断に必要な「機会」と「リスク」の両面をカバーできます。
ディープリサーチへの発展
本記事ではマケデコの記事群という「閉じた情報源」から戦略を生成しましたが、MixSeekのweb_searchエージェントを活用することで、より広範な情報を取り込んだ「ディープリサーチ」が可能になります。
[[team.members]]
name = "research-agent"
type = "web_search"
tool_name = "search_academic_papers"
tool_description = """
投資戦略に関連する学術論文や最新の研究を検索します。
arXiv、SSRN、Google Scholarなどから関連文献を取得できます。
"""マケデコ記事から基礎的な戦略アイデアを抽出
web_searchエージェントが関連する学術論文や最新研究を検索
検索結果をもとに戦略を精緻化・検証
複数ラウンドで深掘りを繰り返す
例えば、「Comomentum(混雑度)」という概念が記事から抽出された場合、web_searchエージェントが「momentum crowding academic paper」などのクエリで関連論文を検索し、より理論的な裏付けや最新の研究成果を戦略に取り込むことができます。
これにより、コミュニティの知見を起点としながらも、学術的な深さを持った戦略立案が可能になります。
免責事項
本記事の投資戦略はAIが生成したアイデアであり、バックテストや統計的検証を行っていません。
投資は自己責任で行い、本記事による損失について筆者は責任を負いません。
イベント告知
本記事ではAIエージェントによる戦略生成の「可能性」を探りました。MixSeekを活用した本格的な投資戦略について、より詳しく学びたい方は、ぜひ下記のイベントにご参加ください。
おわりに
本記事で利用したPythonのソースコードやワークスペースの設定ファイルなどは、筆者のGitHubリポジトリから参照できます。ご自由に利用してください。
本記事では、筆者個人の主観を一切排除して、AIエージェントに戦略を立案させてみました。
MixSeekというフレームワークの開発体験を通じて、AIエージェントにはまだまだ伸びしろがあり、さまざまな領域で活用できる可能性を感じています。
MixSeekは投資に限らず、汎用的なマルチエージェントフレームワークとして設計されています。今後はこれを活用した応用事例も紹介できればと考えています。
最後に、このような機会を与えていただいたtomoさん、並びにAlpacaTechのチームの皆様に、この場を借りてお礼申し上げます。
