預金封鎖にマイナンバーは要らない——1946年に電算なしで一夜でやれた理由
いつも発信ありがとうございます。 預金封鎖や財産税についてお伺いしたいと思います。 戦後の預金封鎖や財産税が課された時と現在では、資産の種類も多岐にわたっています。(現預金の他に株式、電子マネー、仮想通貨、商品の購入に使えるポイント等) このような状況で、政府が預金封鎖を行おうとした場合、最低でもマイナンバーカードですべての口座を紐づけしないとできないのではないでしょうか? 要するに、現状では政府がすぐに封鎖に着手できる準備が整っていないのではない(まだまだ時間がかかる)かと思うのですが、どのようにお考えでしょうか? また、企業も戦後に比べ、代金の決済手段も多岐にわたっており、預金封鎖という事態になると、大中小問わず、企業へのダメージも甚大で、経済界が大きな力を持っている現代では、預金封鎖にならないような力も働くのではないかと思うのですが、これに関してもどのように思われますか?
筋の良い質問ですが、結論は逆になります。
封鎖は今すぐ可能で、むしろ1946年より簡単です。
順に説明します。
封鎖に「紐づけ」は要らない
多くの方がここで誤解しています。
預金封鎖とは、政府が国民一人ひとりの口座を調べて凍結することではありません。政府が銀行に向かって「シャッターを下ろせ」と命令することです。
あなたの残高がいくらか、政府は知らなくていいのです。
知っているのは銀行です。
銀行はあなたの残高を当然、自分の帳簿で管理しています。
政府は「その帳簿を閉じろ」と言うだけでいい。
命令の相手は、1億2千万人の国民ではありません。
数百の金融機関です。だから紐づけは要りません。
実際、1946年2月の封鎖は、マイナンバーどころかコンピュータすらない時代に一夜で実行されました。
発表が2月16日の夕方、封鎖は翌17日。
銀行が窓口を閉めた、それだけです。
「では財産税はどうやって課税したのか。個人の資産を把握しないと無理では?」と思われるかもしれません。
ここが1946年の巧妙なところです。
順序を見てください。
2月:封鎖+新円切替。古いお札を無効にするので、タンス預金も銀行に持ち込むしかなくなる。資産が口座に集まる
3月:財産の申告。口座は封鎖されたままなので、申告しないと自分のお金に触れない。だから全員が申告する
11月:財産税の課税(最高税率90%)
お分かりでしょうか。
「資産を把握してから封鎖」ではなく、封鎖したから資産を把握できたのです。封鎖は財産税の準備作業を兼ねています。マイナンバーの紐づけを待つ必要など、最初からないのです。
ちなみに2024年施行の口座管理法で、マイナンバーによる口座の一括照会は既に制度として動き始めています。
「紐づけには時間がかかる」という前提自体、古くなりつつあります。
資産の種類が増えたことは、政府にとって追い風
「株も電子マネーも仮想通貨もあるから、全部は押さえられないのでは」
これも逆です。
一つずつ見てみましょう。
株式
昔は紙の株券があり、手元に持てました。今は2009年の電子化で紙は消滅し、すべて「ほふり」という一つの機関で電子管理されています。証券会社への命令一本で止まります。
電子マネー・ポイント
PayPay残高もSuicaも楽天ポイントも、実体は発行会社のサーバー上の数字です。発行会社は法律上の登録制で、政府のリストに載っています。発行会社への命令で止まります。
仮想通貨
国内の取引所は登録制で、口座開設時に本人確認済みです。税務署は取引データを照会する権限を既に持っています。
海外口座
「海外に逃がせば大丈夫」も過去の話です。今は100以上の国・地域が口座情報を自動交換する仕組み(CRS)があり、あなたの海外口座の情報は毎年、日本の国税庁に届いています。
つまり、政府の網の外にあるのは、自分で管理する仮想通貨ウォレット、金地金などの現物、そして物理的な現金くらいです。
気づいたでしょうか。
1946年に捕捉できなかったのも「タンス預金と現物」でした。
80年経って、逃げ道の場所はほとんど変わっていません。
変わったのは、逃げ道以外の部分の網が桁違いに細かくなったことです。
キャッシュレス化で便利になった分だけ、私たちの資産は「政府が命令できる会社の帳簿の上」に載りました。
デジタル化は封鎖の邪魔ではなく、封鎖の道具なのです。
企業は守られる。ただし「封鎖しない」形ではなく
「企業へのダメージが大きすぎるから、封鎖を防ぐ力が働くのでは」
ご指摘の方向は正しいです。
ただ、その力は「封鎖を止める」形では働きません。
「企業だけ例外にする」形で働きます。
実は封鎖は歴史上、一度も「全部止める」形で行われたことがありません。
1946年も、給料の支払い(世帯主は月500円まで引き出し可)や企業の決済口座には例外がありました。
もっと新しい例だと、ギリシャ(2015年)はATMの引き出しを1日60ユーロに制限しましたが、国内の銀行振込やカード決済は普通に動いていました。
キプロス(2013年)も同じです。
型はいつも同じ。
「個人の現金引き出しと、海外への資金逃避は止める。国内の決済は回す」です。
そして皮肉なことに、電子決済が発達した今は、この「選び分け」が昔より簡単になりました。
どの取引を通し、どれを止めるかを、データ上で制御できるからです。
窓口の人間が一件ずつ判断していた1946年には不可能だった芸当です。
つまり経済界の力は、封鎖を防ぐのではなく、封鎖の設計を洗練させます。
企業を守る例外規定が整えば整うほど、政府にとって封鎖のハードルは下がるのです。
ここまでのまとめと、本当の問い
ご質問への回答は以上です。
紐づけは不要。封鎖が紐づけの代わりになる
資産の多様化・デジタル化は、むしろ捕捉を簡単にした
経済界の力は封鎖を防がず、企業だけ例外にする設計を生む
つまり「準備が整っていないから当分安全」という見立ては、残念ながら成り立ちません。
封鎖はやろうと思えば明日できます。
ただし。ここで安心も心配もするのはまだ早いのです。
「できる」と「起きる」は別の問題だからです。
実は封鎖には2つのパターンがあり、どちらで来るかによって、何がきっかけになるか、誰が損をするか、個人に何ができるかが全部変わります。
そして1946年の封鎖には、教科書があまり書かない裏側がありました。
政府は国民の資産を没収したかったのではありません。
あるものが壊れるのを、止血せざるを得なかったのです。
その「あるもの」は、国債を大量に抱える今の日本の金融システムと同じ構造をしています。
有料部では、①封鎖は何をきっかけに起きるのか(そして事前に分かるサインは何か)、②「個人を切り捨てて企業を守る」の本当の意味、③「1,000万円までは保護されるから安全」がいつ崩れるか、④資産をどう置いておけばいいか、を書きます。
封鎖の2つのパターン
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