20代の7割が選ぶ50年ローン、報道が書かない数字
なぜマスコミは50年ローンを賢いと書くのか
「新常識」「今どきの賢い選択」「若者に広がる」。住宅系の記事で50年ローンを扱う見出しは、判で押したように肯定的だ。批判ではなく紹介、それも持ち上げる紹介として流れてくる。そして、賢く使える人ほど50年を要らない。
1年前、僕は「35年ローンが主流(約70%)」と書いた。当時はそれで正しかった。その後にPayPay銀行の7月参入、20代の70%という数字、二度の利上げが重なって、記事の想定が現実の射程に入ってしまった。上書きが要る。
数字の出どころははっきりしている。共同通信が配信した。35年超〜50年を選んだ人は20代で70%、30代で49%。ネット銀行と地銀に取り扱いが広がり、原則80歳までに完済、主な対象は20〜30代前半。この「20代で70%」が各紙の見出しに乗った。
インパクトはある。だが見出しが作る印象と、数字の中身は別物だ。
誰の広告で記事は回るか
住宅・金融記事の主要な広告主は、不動産会社と銀行である。
「50年なら月々が下がる、今の価格でも買える」というメッセージは、物件が売れ、ローンも組まれる。売り手の双方に都合がいい。総返済額や金利上昇リスクを正面から検証する記事は、広告主の商品を刺す。出にくい構造がある。
書き手が悪意を持っているという話ではない。そういう記事のほうが通りやすい環境だ、という話だ。
固定に見えて、実は変動
補足しておくと、50年でも全期間固定の商品はある。フラット50だ。ただし長期優良住宅限定で、母数は小さい。
実際に50年ローンの主流を担っているのは、住信SBI・楽天・auじぶん・PayPayといったネット銀行と地銀で、これらは変動が中心である。つまり「50年を組む」は事実上「変動で50年を組む」を意味する。報道が「賢い選択」と呼ぶものの中身は、変動×超長期という、金利上昇局面で最も露出の大きい組み合わせだ。
切り取られる数字
ある試算がわかりやすい。6000万円を年0.75%で借りた場合、35年ローンの毎月返済額は約16万円、金利総額は約823万円。50年はそれぞれ約12万円、約1197万円。
月々4万円下がる。同時に、金利総額は374万円増える。
前者だけを見出しにすれば「賢い」に見える。後者を併記すれば「割高な先送り」に見える。同じ試算から正反対の印象が作れる。トレンド記事が採るのは、たいてい前者だ。
5年後まで金利は上がらない、という錯覚
変動金利には5年ルールがある。金利が上がっても返済額は5年間据え置かれる。
この「返済額が5年変わらない」は、しばしば「金利が5年上がらない」と受け取られる。実際は初回から金利は上がり、上がったぶんは利息の内訳として即座に食われている。月々の数字が動かないので、痛みが見えないだけだ。
私事だが、以前ローンを組む際に元金均等を指定したら、窓口が最初に言ったのが「金利が上がればすぐ反映されますよ」だった。止め文句のつもりらしかった。余裕のある借り手には、それは利点にしか聞こえない。元本が速く減るぶん残高が小さく、上昇の絶対額も小さくなるからだ。尋ねるまで元利均等が前提で話が進んでいた、というのも印象に残っている。放っておけばそちらに流れる設計になっていた。
賢く使える人ほど、50年を要らない
「50年ローンは賢い」が成立する条件は、実はかなり狭い。
当初の低金利期に元本を削れる元金均等を選べること。繰上返済の余力があること。金利上昇に耐える家計であること。これを満たせるなら、賢い使い方はできる。
問題は、元金均等が当初返済額を重くし、審査上の返済比率を押し上げることだ。月々を下げたい50年層は、選びたくても審査で通らない。そもそもPayPay銀行のように元利均等しか用意していない商品もある。制度と設計の両側から、元利均等に押し込まれる。元本の減りが最も遅い方式だ。
賢く使える人ほど50年を必要とせず、必要とする人ほど賢く使えない。フレームと実態が逆を向いている。
二つの入り口
50年をフルで使うには、完済80歳ルールから逆算して申込30歳未満が必要になる。だから「純粋に若さで50年」は20代に限られる。
もう一つ、親子リレー返済という入り口がある。子の年齢を基準に期間を計算できるので、親が40代・50代でも50年を組める。二世帯や家業継承が絡むケースが中心で、母数は小さい。
結果、リスクを負う層は二極化する。史上最低金利しか肌で知らない20代前半の楽観と、35年では完済年齢が破綻するため期間を延ばさざるを得ない中年。前者は「知らないから」、後者は「他に選択肢がないから」、同じ変動×超長期に行き着く。動機は正反対なのに、立つ崖は同じだ。
5年後に何が起きるか
2025年12月と2026年6月、日銀は利上げを実施した。政策金利は1.0%まで上がり、変動基準金利も上昇局面に入っている。市場予測でも、当面は1%台前半への上昇が見込まれている。
今20代前半で50年変動を組んだ層の5年後は、2030年前後。据え置きが明け、それまでの上昇がまとめて反映される。元本がほとんど減っていない残高に、上がった金利が満額乗る。125%ルールで見た目が抑えられれば、抑えたぶんは未払い利息として繰り越され、返済額が緩やかに見えても裏で元本が減らない、あるいは増える。
2024〜2026年に集中して組んだ同じ世代が、同じ時期に一斉に見直しを迎える。個別の不運ではなく、コーホートが揃って崖に立つ。「50年ローン破綻」で括りやすい絵になる。
今「賢い」と煽られたものが、5年後にどう回収されるか。持ち上げた記事が、その頃どういう顔をしているか。元金均等を選んだとき、窓口が真っ先に口にした「金利が上がればすぐ反映されますよ」。あの一言は、売り文句のつもりで、5年後の予告になっていた。
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