頭を使わない人は35歳から衰える〜Science Advances掲載の縦断研究〜
「認知機能は20代がピーク」。長いこと、これが定説だった。
2025年3月、この常識を正面から揺さぶる論文がScience Advancesに載った。スタンフォード大学のEric Hanushekらによる研究で、タイトルは"Age and Cognitive Skills: Use It or Lose It"。使うか、失うか。
横断研究の罠
OECDが39カ国で実施したPIAAC(国際成人力調査)の横断データを見ると、読み書きも計算も20代が最高点で、あとは下がる一方に見える。
でもこれ、20代のAさんと60代のBさんを同じ時点で比べているだけだ。Bさんの点が低いのは、60年生きて脳が衰えたからか。それとも育った時代の教育が違うからか。横断データではそれが分けられない。年齢効果とコホート効果(世代差)が混ざっている。
この問題はずっと指摘されてきたのに、解決できるデータがなかった。同じ人を何年か後にもう一度テストする大規模縦断調査が、先進国でもほとんど存在しなかったからだ。
ドイツだけが、それを持っていた。
同じ人を3.5年後に再テスト
PIAACに参加した39カ国のうち、同一人物への再テストを実施したのはドイツだけだった。PIAAC-L(Longitudinal)と呼ばれるプロジェクトで、3263人が平均3.5年後にもう一度同じテストを受けている。
テストはかなり本格的なものだ。スキル測定に約60分、背景に関するアンケートに約40分。合計100分近い。PIAACが測っているのは、学校の試験のような知識ではなく、「社会生活や仕事に参加するために必要な読み書き能力と数的思考力」と定義されている。日常で実際に使う力を測る設計になっている。
これで個人内の変化を直接見られる。世代差は関係ない。純粋に「あなたの能力は3年半でどう変わったか」が分かる。
ただ、同じ人を2回テストすれば万事解決かというと、そうでもない。平均回帰という統計上の厄介な問題がある。1回目にたまたま低い点が出た人は、2回目は「たまたま」の要素が消えて点が上がりやすい。逆もまた然り。補正しないと、本当の変化が見えない。
研究チームはこの補正をきちんとやった上で、補正前と補正後で結論がどう変わるかまで示している。
40代半ばまで伸びていた
補正後の結果は、横断データの印象と全く違った。
読み書き能力は20代から30代で大きく伸び、46歳でピークに達した。その後の低下はわずかだった。計算能力は41歳がピークで、やや大きめに下がったが、20代前半の水準を割ることはなかった。
20代がピークどころではない。40代半ばまで上がり続けていた。
使う人と使わない人の分岐
ここからがこの論文の核心になる。
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