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カルテ画面の撮影はなぜ許されないのか〜看護師Instagram投稿事件から考える

電子カルテは個人情報の塊だ

福岡市の病院で、看護師が電子カルテの画面を撮影し、自身のInstagramストーリーズに投稿していたことが発覚した。看護師4人が顔出しで写り、背景には患者の看護記録やカルテ画像がはっきり映り込んでいた。投稿はX(旧Twitter)で瞬く間に拡散され、病院は謝罪に追い込まれている。

患者の名前と担当医名は消されていたらしい。だが、それで大丈夫だと思ったのなら、大きな間違いだ。


画面一つに詰まっている情報

電子カルテの画面を見たことがない方は多いと思う。だからこそ知っておいてほしい。あの画面一つに、どれだけの情報が詰まっているか。

氏名と担当医名を消しても、画面には日付が残っている。病棟名が見える。診療科がわかる。患者ID、オーダー番号、処置内容、看護記録の文章、バイタルサインの推移。使っている電子カルテのメーカーまで、見る人が見ればわかる。今回も、富士通製であることはすぐに特定された。

これらを組み合わせれば、患者の特定は十分に可能だ。特に地方の病院なら、その日その病棟に入院していた患者の数は限られる。日付と病棟と診療内容が揃えば、ほぼ一人に絞れてしまう。

名前を消すだけでは、何の意味もない。

医療情報は究極の個人情報である

住所や電話番号の漏洩も深刻だが、医療情報はそれとは次元が違う。

どんな病気にかかっているか。どんな治療を受けているか。どんな経過をたどっているか。人が他人に最も知られたくない情報の一つだ。就職、結婚、日常の人間関係にまで影響しうる。

個人情報保護法は、病歴を「要配慮個人情報」に分類している。不当な差別や偏見を生じさせるおそれがあるとして、通常の個人情報より厳格な取り扱いが求められる情報だ。医療情報は法律上も、最も慎重に守られるべきものとして位置づけられている。

だからこそ医療従事者には守秘義務が課されている。保健師助産師看護師法第42条の2。違反すれば6か月以下の懲役又は10万円以下の罰金だ。カルテに書かれた一行一行は、患者さんがその医療機関を信頼し、自分の身体を預けてくれたから存在する情報である。その信頼を、ストーリーズの背景に使うなど、あってはならない。

「これ、俺のだ」と気づく人がいる

この投稿を見て最も恐怖を感じているのは誰か。映り込んだカルテの当事者である患者さん本人だ。

日付を見る。病棟を見る。記録の内容を読む。「これ、自分のことじゃないか」と気づく瞬間を想像してほしい。自分の病状が、知らないうちに、見知らぬ誰かのSNSからインターネット上に公開されていた。しかもXで拡散されて、何千何万という人の目に触れている。

病院側は、患者さんからの問い合わせを待つべきではない。該当する可能性のある方に自ら連絡し、先回りして謝罪すべきだと思う。指摘されてから認めるのと、自ら申し出るのとでは、信頼の毀損度がまるで違う。

なぜ4人の誰も止めなかったのか

投稿に写っていたのは看護師4人。つまりその場にいた全員が、カルテの映った写真をSNSに上げることに何の違和感も持たなかった。

一人の「うっかり」ではない。4人全員の感覚として、カルテの前で写真を撮ってSNSに載せることが「普通」になっていた。これが最も根深い問題だと思う。

「カルテを撮ってSNSに上げてはいけない」は、研修で教わるまでもないことだ。患者さんの情報を預かっている自覚があれば、そもそもカメラを向ける発想にならない。教育の不足ではなく、意識の不在だと思う。

過去にも、看護師がFacebookで患者を中傷して懲戒処分を受けた事例、手術室での記念撮影がSNSに投稿されて炎上した事例、コロナ感染患者の個人情報をLINEで共有して拡散された事例など、医療現場のSNS問題は繰り返し起きている。そのたびにニュースになり、処分が下され、研修が強化される。それでもまた起きる。研修の回数ではなく、そもそもの感覚の問題なのだと思えてしまう。

デジタルタトゥー

この事案で最も長期的なダメージを受けるのは、病院そのものかもしれない。

病院名とカルテ流出で検索すれば、今後何年もこの件が表示され続ける。ストーリーズは24時間で消えても、スクリーンショットは消えない。Xのポストは残り続ける。まとめサイトに転載される。デジタルタトゥーとして、半永久的にインターネット上に刻まれる。

これから受診を考える人は、まず病院名を検索するだろう。そこでこの件が出てくる。地方の病院にとって、地域からの信頼は経営の生命線だ。たった一つの投稿で、それが揺らいだ。

そして何より気の毒なのは、同じ病院で真面目に働いている大多数の職員たちだ。 自分たちは何も悪いことをしていないのに、病院名に傷がつく。4人の軽率な行動が、同僚全員の職場環境と信頼を損なった。

あの画面一つに

医療従事者にとって、電子カルテは毎日開く仕事道具だ。画面は日常の風景の一部になっている。だからこそ、そこに映る情報の重みに対する感覚が鈍る危険がある。

患者さんの側から見れば、あの画面に書かれているのは自分の人生そのものだ。病気と向き合い、不安を抱え、それでも医療者を信じて身体を預けた記録がそこにある。

電子カルテの一画面を撮影してSNSに載せるということが、何を意味するのか。その想像力が、医療に携わる人間には必要だ。


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