白衣が思考を止める〜波動療法わいせつ事件と自費診療〜
埼玉のクリニック院長が、女性患者2名に「波動療法」を装ってわいせつ行為を行ったとして起訴された。被害者の一人は当初、「治療なのかもしれない」と我慢していたという。
笑えない話だ。構造がわかると、なおさら。
「治療かもしれない」の正体
被告・大堀重法(逮捕時64歳)のやり口はこうだ。「衣服が波動のジャマになる」と患者を脱がせ、自身も全裸になり、「精度を上げるため」「体調改善のため」と説明しながら性的な行為に及んだ。
被害者が「これはただの変態だ」と確信したのは、キスを迫られた瞬間だったという。
逆に言えば、そこまで我慢した。我慢の理由が個人の弱さなら、話はここで終わる。終わらないから書く。
心理学者スタンレー・ミルグラムの実験では、白衣の権威者に指示された被験者の多くが、他者に致死量級の電気ショックを与え続けた。権威の前で判断を委ねるのは、人間の傾向として再現される。
医師免許を持つ者が、専門用語を使い、診察室という密室で、「治療」として提示した行為を、患者は否定できなかった。波動療法が本物かどうかより、「医師がそう言っている」事実のほうが重い。
白衣と医師免許は、患者の批判的思考を止める。
この事件だけの話ではない。
波動療法だけじゃない
ひとつ補足しておく。被告に師事したという別の医師、機器を販売する会社の関係者が、公判で「服を脱がせる治療ではない」と証言している。被告の手口は、波動療法という業界内ですら逸脱した個人の犯罪行為だった。
ただし、それで波動療法そのものが免罪されるわけではない。
波動療法はエセ科学だ。「人体が固有の波動を持ち、その乱れを機器で測定・調整できる」という主張に、物理学的根拠はない。臨床的有効性を示す研究も存在しない。
そして波動療法は、薬機法上の「医療機器」ですらない。医師の自由裁量で行える自由診療の一環として、法的グレーゾーンに置かれている。承認も認証も要らない。だから取り締まれない。
似た構造の療法は珍しくない。
マイクロ波治療は整形外科の温熱療法として保険収載されており、肝がんの焼灼術でも使われる正規の医療技術である。それとは別に、「がん細胞と正常細胞の周波数が違う」「マイクロ波が共鳴でがん細胞だけを壊す」と謳う自費クリニックが存在する。電子レンジと同じ原理、という説明が「科学的に聞こえる」効果を出す。
磁気治療も同じだ。経頭蓋磁気刺激(TMS)はうつ病の保険診療として確立されている。一方、「高磁場療法」「パルス磁場療法」でがんや免疫疾患への効果を謳う自費診療が並行して存在する。
どちらも「実在する物理現象の名前を借りたエセ科学」だ。波動療法より巧妙なのは、本物の医療技術と名前が似ているぶん、患者が区別しにくい点にある。
おばあちゃんたちがピップエレキバンを買い続ける心理も、同じ延長線上にある。「医療機器」という表示が判断を止める。効くかどうかより、「医療機器と書いてある」が先に来る。
エセ科学を見抜く三つの条件
医師に勧められた療法が本物か。判定する物差しは三つしかない。
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