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兵庫県338億円違法借換第4稿 段差は印字されていた〜計画に埋め込まれた指示〜

指示の文書は、まだ見つかっていない。だが指示の結果なら、とっくに見つかっている。2018年10月に県が公表した計画の中に、数字として印字されていた。8年間、誰でも読める場所に。

2026年7月15日、知事は記者会見で、338億円の違法借換について外部専門家による検証部会の設置を表明した。当時なぜこの処理がなされたのか、経緯や原因を調べるという。

検証の中心になるのは、おそらくこの問いだ。指示はあったのか。あったなら、文書は残っているのか。知事は7月13日、自身のXでこう説明している。平成31年の行革プランの作成にあたり、当時の知事からの全額借換及び県債管理基金の残高確保の指示に基づいて実施した、との報告を担当部局から受けた、と。伝聞である。指示したとされる側の反論も、これからあり得る。文書が出るかどうかは、検証部会の仕事だ。

ただ、部会の結論を待たなくても、公表資料だけで確かめられることがある。この稿は、それだけをやる。使うのは、県が自分で公表してきた三つの文書だけだ。2018年の計画、2021年の決算報告、2026年の修正資料。


2018年、計画の段差

知事の言う「平成31年の行革プラン」は、兵庫県行財政運営方針を指す。策定は平成30年、2018年の10月。取組期間が2019年度からの10年間なので平成31年のプランと呼ばれるが、作成作業は2018年中だ。指示があったとすれば、338億円が処理される2020年度の、二年前ということになる。

この方針には、財政運営目標の10年見通しが表で載っている。県債管理基金積立不足率、つまり県債の返済用貯金があるべき残高に対してどれだけ足りないかの率の行を、年度順に読む。

2018年度23.8%。2019年度23.8%。2020年度19.9%。2021年度19.7%。2022年度18.9%。以降、2028年度の15.6%まで続く。

見てのとおり、ほとんどの年度は0.2から0.7ポイント刻みの、地道な漸進改善だ。ところが一箇所だけ違う。2019年度から2020年度にかけて、一年で3.9ポイント改善する段差が置かれている。

2020年度が何の年か。2000年度に発行された公共用地先行取得等事業債490億円は、10年満期の債で発行され、10年ごとに借り換えられてきた。2020年度はその二度目の借換期限にあたる。県の資料が示すあるべき姿では、この時点で生じていた土地売却収入338億円を償還に充て、未売却分の152億円だけを借り換えるはずだった。実際には全額が借り換えられ、338億円は返済に回らず基金に留め置かれた。今年7月13日の検討会資料は、この実際の姿を「基金残高(338億円)を留保」と書いている。

338億円を基金に残せば、残高はその分かさ上げされ、積立不足率は大きく縮む。あるべき残高の規模から見て、338億円はおよそ4ポイント分。計画の段差と、オーダーが一致する。

同じ方針の財政運営目標には、もう一行ある。県債管理基金活用額、財源対策としては、原則、活用しない。基金残高の確保が、目標として明文化されていた。知事の説明にある「残高確保の指示」は、口頭の伝聞にとどまらない。方針の文言そのものと符合している。

断っておくが、段差の3.9ポイントすべてが338億円だとは言えない。満期一括償還の県債を借り換えると、あるべき残高の側も動く。段差には複数の要因が混ざり得る。また、後で引く実施状況報告の積立不足率には、年度により注記の細部(県債残高縮減影響の扱いなど)に差があり、系列の厳密な連続性には限界がある。それでも水準の段差は明瞭であり、338億円の留保がこの段差の主要な部分を占めることは、後で見るとおり、県自身が認めることになる。

執行と、説明のない決算

計画は、実行された。

2020年度、490億円は全額借り換えられた。そして翌2021年9月、県は行財政運営方針の実施状況報告書で、2020年度の決算数値を公表する。県債管理基金積立不足率、決算18.7%。前年の2019年度決算は21.6%だったから、実績でも一年で2.9ポイントの急改善が起きたことになる。前後の年度が0.1、0.2ポイント刻みで微動するなかで、この年だけ。計画に描かれた段差が、執行でそのまま再現された。

ここで目を引くのは、報告書の説明欄だ。

この2.9ポイントの急改善に、説明は付いていない。報告書が説明しているのは、当初予算見込み18.8%と決算18.7%の差、0.1ポイントについてだけだ。集約基金取崩額の実績減等により0.1ポイント減少、とある。

つまり、段差は決算の時点ではもう説明を要しないものだった。前年の予算段階で織り込み済みだったからだ。490億円の満期が来る、338億円は返さず基金に残る、不足率は4ポイント近く縮む。その未来は二年前の計画に書かれ、当年度の予算に載り、決算はそれをなぞっただけだった。誰も驚かなかった数字として、監査も議会も通過していった。

決裁の場で誰かが「この借換でいいのか」と判断した形跡を探しても、おそらく出てこない。実際、県が当時の担当者に聞き取りをしたところ、違法性の認識はなく、処理の理由も不明だったという(朝日新聞)。理由を聞かれて答えられないのは、隠しているからとは限らない。判断は、計画を作った2018年の時点で終わっていた。あとは計画どおりの執行が、毎年度の事務として流れていくだけだ。奇しくも2020年4月1日は、財務事務の法令適合を確保するための内部統制制度が県で運用を開始した日でもある。制度の初年度に338億円が素通りした機序を、前稿で問うた。ここにその答えの候補がある。決裁の時点では、誰も何も決めていなかった。決まっていたからだ。計画に埋め込まれた処理は、内部統制が想定する「決裁時の判断の誤り」という形を、そもそも取らない。

県自身の答え合わせ

この読みが正しいかどうかは、2026年の県自身の措置で答え合わせができる。

7月13日、県は健全化判断比率の遡及修正を公表した。修正の第一項目は、資料の文言どおりに書けば、地財法に抵触する起債により留保した基金残高(338億円)の修正。実質公債費比率の算定から、県債管理基金残高338億円を控除し、令和3年度まで遡って直す。

つまり県は、338億円の留保が積立不足率と実質公債費比率の算定に効いていたことを、控除という形で公式に認めた。2018年の計画の段差、2020年の執行、2021年の決算数値。あの一続きの数字の中に338億円が入っていたことの、これが県自身による認定だ。

段差の全額が338億円ではないと先に留保した点も、県の報告書自身が傍証を残している。令和元年度の実施状況報告は、積立不足率の増加要因をこう説明していた。満期一括債から定時償還債への借換に伴い、減債基金残高及びあるべき減債基金残高が減少した、と。借換の形を変えるだけで、不足率の分子も分母も動く。この指標が、償還の実務判断ひとつで上下する柔らかい数字だったことは、留保として重ねておく。柔らかいからこそ、段差を計画に置くこともできた。

修正にはもう一項目ある。152億円の扱いだ。2020年度時点で未売却だったこの分は、借り換えること自体は適法だった。その後、残る土地も売れた。県はその売却収入を用先債の返済に充てず基金に積み、算定上の基金残高に含めていた。7月13日の資料は、その当時の整理をこう説明している。当該売却収入は、過去に実施していた特定目的基金等の集約と同様、他の満期一括償還債の償還財源になり得るものと整理していた、と。県はこの整理を改め、令和7年度決算から将来に向けて算定方法を見直し、152億円を基金残高から控除する。違法とされた338億円の遡及修正とは性格の違う、いわば自主的な是正だが、指標への効き方は同じ向きだ。

過去の集約。2006年、実質公債費比率という新指標への対策として、県が特定目的の各基金を県債管理基金に集約し、土地や美術品まで流れ込んだ、あの措置のことだ。2020年の152億円の算入を正当化した論理は、14年前の集約の論理の援用だった。前稿で、2009年の防御答弁が2021年まで一字も変わらず継承されていたことを書いた。答弁だけではなかった。整理の論理そのものが、2006年から2020年まで現役で使われ続けていた。

ここまでが、公表資料だけで言えることの全部だ。整理する。指示の存在は伝聞であり、文書の有無は検証待ち。しかし、指示の内容とされるもの(全額借換と残高確保)は、2018年10月公表の計画に、目標の文言と見通しの段差として印字されていた。計画は2020年度に執行され、2021年公表の決算報告に説明不要の数字として記録され、2026年、県自身が遡及修正でその中身を認定した。

ここから先は、この事実関係の上に判断を重ねる。338億円が財政指標に与えた影響は実際どれほどなのか、という係争中の論点と、検証部会が探すべきものについての整理だ。7月15日の会見で記者と知事が正面からぶつかった論点でもあり、切り取れば正反対の二つの物語のどちらにも使えてしまう。文脈ごと読んでいただける方に向けて、結論部を有料とする。ここまでの照合は無料部分だけで検証可能だ。

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