新薬が届かない国になった日本 〜EFPIAレポートが突きつけた現実〜
2026年2月、欧州製薬団体連合会(EFPIA)が世界10カ国のバイオ医薬品戦略を比較したレポートを出した。その中で日本は「cautionary tale」と書かれている。教訓的事例。要するに、反面教師だ。
1980年代、日本の医薬品市場は世界シェアの25%を超えていた。米国に次ぐ第2位。グローバル製薬企業にとって、日本への参入は選択肢ではなく前提だった。
2024年、日本はドイツに抜かれて4位に落ちた。シェアは4.4%。欧州の業界団体から「ああはなりたくない」と名指しされるところまで来てしまった。
届かないのではなく、来ない
「ドラッグラグ」という言葉がある。海外で承認された新薬が、日本で使えるようになるまでの時間差。長年の課題だった。
日本の規制当局であるPMDAは改革を重ね、審査速度は世界トップクラスにまで達している。審査期間の中央値は290日。米国FDAの356日より速い。「審査が遅いから薬が来ない」は、もう当てはまらない。
にもかかわらず、状況は悪くなっている。
いま起きているのはドラッグラグではない。ドラッグロスだ。遅れて届くのではなく、最初から来ない。欧米で標準治療になっている薬が、日本では治験の届出すら行われていない。2024年3月時点で82品目。米国で承認された新薬のうち、日本で開発情報すらない品目は約半数に達する。
その中身も深刻だ。日本製薬工業協会の調査によれば、開発未着手のまま取り残されている領域で最も多いのは神経系の薬。次いで抗がん剤、感染症薬と続く。がん領域は開発中の品目も多いが、神経系はそもそも手つかずのまま放置されている品目が目立つ。希少疾患や小児向けの薬も同様で、患者数が少ない疾患ほど企業にとって日本で開発する経済的な理由が見出しにくい。
審査が世界最速なのに、薬が来ない。矛盾しているように見えるが、理由ははっきりしている。
新薬が世界のどこかに最初に申請されてから、日本に申請されるまでの期間。中央値で727日。約2年。米国はゼロ日、欧州は49日。日本だけが桁違いに遅い。
審査は速い。でも、その手前の「申請」が来ない。企業がそもそも日本を選んでいない。
統計に出てこない「隠れロス」
もう一つ、数字に表れない問題がある。
薬そのものは日本にあるのに、特定の適応症だけが承認されないケースだ。たとえば、ある分子標的薬が米国では肺がん、胃がん、大腸がんの3つで承認されているとする。日本では肺がんだけ。胃がんや大腸がんの患者にとって、その薬は存在しないも同然だ。
近年の抗がん剤や抗体医薬品は、ひとつの薬が複数のがん種に使われることが増えている。こうした「適応症ロス」は、品目数のカウントでは「承認済み」に分類される。統計上は問題ないことになっている。
だが患者から見れば、自分の病気に使えないなら、その薬は「ない」のと同じだ。
売れたら罰される市場
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