人はそもそも自分が知らない選択肢を選べない。変わりたいのに変われないループが起こる理由|2,000名の相談から見えたこと
「また同じような会社を選んでしまった気がします。転職したのに、なんでって...」 「変わりたい気持ちはあるのに、気づいたら毎日20〜30件、似たような求人ばかり見ているんですよね」 「本当は違う道もあるはずなのに、具体的に何があるのか全然浮かばなくて」
20代半ば、二度目の転職を考えている方から、先日そんな話を聞きました。一度目の転職も、今回とほとんど同じ理由で動いたはずなのに、気づけばまた同じような壁にぶつかっている、とのことでした。
正直に言うと...これは「意志が弱い人」の言葉ではなく、「本気で今の自分を変えようとしている人」の言葉だと思っています。
2,000名以上のキャリア相談を通じて見えてきたのは、能力でも意志でもなく、そもそも「選べる選択肢の範囲」が自分の経験の外に出られていない人ほど、このループにハマりやすい、ということだったりします。
少しだけ自己紹介をさせてください
僕は田原昂介と言います。株式会社ニトエルの取締役COO・人事採用統括をやっています。
こう書くと順調そうに見えるかもしれませんが...実態は全然違います。子どもの頃からずっと「あなたは人の3倍やってようやく人並」と言われ続けた長男で、運動会の100m走はいつもビリから2番目。新卒で入った製薬会社を4年で辞めたあと、音楽業界でフリーランスに挑戦したものの、数多くの失敗や数百万円の借金を背負う挫折も経験しました。そこから26歳で人材ベンチャーの飛込み営業として、ゼロからやり直した人間です。
しかも僕は、転職エージェントとして相談に乗るだけでなく、人事採用担当として「採用する側」でも何百人と面接してきました。そんな両サイドから20代のキャリアを見てきて、変われない人と変わっていく人の分かれ目について、伝えておきたいことがあります。
ここからが本題です
変われないのは「意志」ではなく「視界」の問題
心理学に「利用可能性ヒューリスティック」という考え方があります。1970年代に心理学者のトベルスキーとカーネマンが提唱したもので、人は物事を判断するとき、実際の確率や事実よりも「自分が思い出しやすい情報」を優先してしまう、というものです。
この研究がキャリアのすべてを説明しているとは思っていません。ただ、2,000名以上のキャリア相談を通して見てきた感覚とも、驚くほど一致しています。転職を考えるとき、僕たちはゼロから選択肢を並べているようで、実は「これまで見聞きした範囲」の中でしか選んでいないんですよね。転職サイトを開いて検索窓に打ち込むキーワードも、結局は自分がすでに知っている職種名や言葉になっている——そんな経験、ありませんか?これは業界・職種を問わずよく起こることで、たとえば営業職の人の頭に浮かぶ選択肢は、たいてい「別の会社の営業」か「マネージャー」止まりで、隣接する職種にはなかなか目が向きません。それは能力の問題ではなく、単純に「見たことがないから、思いつけない」だけだったりします。
だからこそ、一度試してほしいことがあります。今、頭に浮かぶ選択肢を紙に書き出してみてください。2〜3個しか出てこなければ、それは意志が弱いのではなく、単純に「見えている範囲が狭い」だけかもしれません。
ただ、書き出してみても、結局似たような選択肢しか出てこなかった、という人もいると思います。実はそこには、もう一つ別の理由が隠れています。

一人で考えると、同じ「ものさし」に戻ってしまう
実は、自分の経験だけで判断基準を作ると、次に何かを選ぶときも、無意識に同じものさしを当ててしまいます。「今度こそ」と思って動いても、結局は前と同じ基準で会社を選んでしまう。これも、ループが長引くもう一つの理由だったりします。
このものさしは、たいてい最初に入った会社の「当たり前」を基準に作られています。だから一人で見直そうとしても、そのものさし自体を使って自分の考えを点検することになり、なかなか外側の基準には気づけません。
心理学ではこれに近い現象を「確証バイアス」と呼びます。人はすでに持っている前提や思い込みに合う情報ばかりを無意識に集めてしまい、矛盾する情報のほうを見落としてしまう、という傾向です。
この確証バイアスも、ループの原因すべてを説明しているとは思っていません。ただ、一人で「今度こそ」と考え直しても、結局は自分がすでに信じている基準に合う会社や求人ばかりが目に入ってしまう、という感覚とは重なります。同じものさしを使い続けている限り、その外側にある基準にはなかなか気づけないんですよね。
労働政策研究・研修機構(JILPT)が2025年に公表した調査では、キャリアの専門家に相談した経験がある人が「職業生活に満足している」と答えた割合は54.8%だったのに対し、相談経験がない人は33.9%にとどまっていました。その差は約20ポイントです。
もちろん、相談したから満足度が上がると単純に言い切れるものではないと思っています。ただ、自分のものさしの外側にいる誰かと話すことで、初めて自分の判断基準そのものに気づける、というのは現場で何度も見てきた感覚です。家族や友人ではなく、客観的な目線を持つ第三者や、目指す姿に近いところにいる先輩に、「自分が何を基準に、これまで選んできたのか」を一緒に言語化してもらう機会を、意図的に作ってみてほしいと思っています。

選択肢を知ることは、転職を勧める話ではない
ここまで書くと「転職しましょう」という話に聞こえるかもしれませんが、むしろ逆です。選択肢を知った上で「今のままでいい」と判断するのも、立派な決断だと思っています。
知らないまま何となく残るのと、知った上であえて残るのとでは、同じ「現状維持」でもまったく別物です。前者はまたいつか同じ違和感に戻ってきますが、後者には自分で選び直した納得感が残ります。しかも一度選択肢を並べた上で残ると決めた人は、次に同じ違和感が出たときに「今度はどう動けばいいか」まで、具体的に描けているという違いもあります。ループから抜けるとは、必ずしも動くことではなく、自分のものさしを一度、外側から見直すことなんですよね。
もう一つだけ、補足を
「客観的な目線を持つ第三者に話を聞く」と言われても、実際に誰に、何を聞けばいいのか迷う人も多いと思います。
ポイントは、答えをすぐに返してくれる相手を探すことではなく、「自分が何を基準に、これまで選んできたのか」を一緒に言語化してくれる相手を選ぶことだったりします。こちらの話を要約して終わる人と、こちらも気づいていなかった一言を深掘りしてくれる人とでは、そのあと見えてくる選択肢の数がまったく変わってきます。ロールモデルにしたい先輩に会うときも、同じ視点で相手を選んでみてほしいと思っています。
最後に
変わりたいのに変われないループの正体は、たいてい意志の弱さではなく、見えている選択肢の狭さや、無意識に使っているものさしの固定化だったりします。20代のこの数年は、その後の20年を決める大事な時期。自分のものさしを一度、外側から見てもらう機会を、迷っている時間の分だけ後回しにしないでほしいなと思っています。
僕自身がXやnoteで、キャリアや採用の現場で見えたことをそのまま発信しているのも、正直に言うと、20代の自分自身が同じところで何度もつまづいていたからだったりします。当時の自分にこそ届けたかった話を、今の20代に向けてそのまま出しているだけなんですよね。また、会う前に僕がどんなものさしで物を見ているかを知ってもらえたほうが、読んでいる側も気持ちよく次の一歩を選べるから、というのも理由の一つです。「何から始めればいいか分からない」と感じている方は、ぜひフォローして過去の投稿ものぞいてみてください。
少しでも参考になったなと思ってもらえたら、記事への「スキ」で教えてもらえるととても嬉しいですし、励みになります!
最後まで読んでいただきありがとうございました!
参考: ・LAO「【心理学】利用可能性ヒューリスティックの意思決定への影響と回避する方法について解説」 https://laoffice.jp/5965/ ・マイナビキャリアリサーチLab「確証バイアスとは?人事・採用などビジネスへの影響とその対策」 https://career-research.mynavi.jp/column/20250710_98217/ ・労働政策研究・研修機構(JILPT)「労働政策研究報告書No.233 キャリアコンサルティングの有用度及びニーズに関する調査」(2025) https://www.jil.go.jp/institute/reports/2025/0233.html
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