[#11 台湾] 漁師ではない漁師たち
近頃、台湾に来て、まるで大学院時代のようにフィールドワークをしている。地理学は人類学のようなものかと聞かれることがあるが、地理学にもフィールドワークの手法があり、民族誌学と呼ばれる方法で研究する学者も多い。私がやっているコーヒー研究は人類学というわけではなく、地理学的な調査手法でフィールドワークをしている。機会があれば、こうしたフィールドワークの手法についてセミナーのようなものをやってみるのもいいかもしれない。
台湾の路地を歩いていて、ふと、初めて「フィールドワーク」というものをしたあの夏を思い出した。
2004年の夏、韓国の大学院の修士論文のために北京で3か月ほどフィールドワークをしたことがある。当時は他国でどうやってフィールドワークをするのか、体系的に学ぶ機会がなく、論文を仕上げることだけに集中していて、人類学・地理学のフィールドワーク方法論を別途学ぶ余裕もなかった。当時の同期たちは自分の関心事を中心に論文を書いていたが、私はまったく関係のないテーマを、ただ気になるという理由だけで、中国の北京まで行ってフィールドワークをし、一本の論文にまとめた。
経費を節約するためではなく、中国へ船で行ったらどうだろうと思い、飛行機ではなく船で中国へ渡ることにした。以下は、なんとも特別な職業だと言える船乗りたちにそこで出会い、その船上で経験したことを、中国から帰った後に書き留めた記録だ。
魚を獲ってこそ船乗りだと思っていた。網で獲ろうが釣り針で獲ろうが、船乗りなら魚を獲るものだと思っていた。しかしここには、魚を獲らない船乗りたちがいる。彼らは船で暮らしている。陸に上がることもあるが、水の上で過ごす時間の方が長く、船乗りであるがゆえに船上の生活が身に染みついている。彼らは船の上で食べ、船の上で用を足し、船の上で体を洗い、船の上で眠る。これで船乗りでないと言えるだろうか。
仁川第1国際旅客ターミナルへ行き、中国行きの船に乗ると、こうした船乗りたちに数多く出会う。船乗りの中には朝鮮族もいれば、韓国語を流暢に操る中国の漢族もいて、驚かされた。ときには韓国人の船乗りに出会うこともある。彼らは韓国と中国を行き来しながら物を取引する仕事に従事している。韓国の品物を中国へ売りに出すこともあれば、中国の品物を韓国へ持ち込むこともある。国際旅客ターミナルの荷物預け所へ行くと、見慣れた「メイド・イン・チャイナ(Made in China)」ではなく、「メイド・イン・コリア(Made in Korea)」と書かれた大きな箱が山のように積まれ、乗船を待っている。天津港行きの海苔の箱もあれば、丹東港行きのラーメンの箱もある。
船にはトイレとシャワー室があり、トイレの中には脱水機まで備わっている。下着をはじめ、乾燥を待つ衣類が通路のあちこちに干されている。十五、六時間から二十四時間の船旅の間に洗濯をする一般の旅行者はほとんどいない。ほとんどがこの船乗りたちのものだ。彼らは乗船するとすぐに場所を確保し、素早く洗濯をして干す。一般の観光客がチケットに書かれた自分の座席を探し回っている間に、この人たちはもうシャワーまで済ませている。まるで我が家に帰ってきたかのように、船の中でのすべてがすっかり板についている。
船が仁川港を出ると、彼らはせわしなく動き回りながら情報をやり取りしたり、トランプで夜を明かしたりする。船が中国の港に着くと、彼らは真っ先に下船する。たいてい団体旅行客が多く、下船に時間がかかることをすでに知っているからだ。彼らは荷物を預けることもあるが、たいていはキャスターもついていない黒い大きな移民バッグを自分で担いで船に乗り込む。船の上でその場で取引をすることもあれば、中国の港で買い手に直接品物を渡すこともある。取引が終わった人たちは下船せず、そのまま同じ船に乗って仁川へ戻っていく。
獲るべきものは魚ではないけれど、この人たちも、魚を獲るために海と闘わなければならない人々に劣らず、荒々しく逞しく見える。船の中で互いの苦労話に耳を傾け合うこともあれば、席をめぐって声を荒げることもあり、荷物のことで揉み合いになることもある。家族の安否を気にかけていたかと思えば、派閥に分かれて他人の悪口を言い合うこともある。人の暮らす場所であれば、船の上だろうと変わりはない。陸で起きることが、ここでもそのまま繰り返される。
仁川と中国を行き来する船には、魚を獲らない船乗りが乗っている。船の上で海と直接闘うことはなくとも、生活と闘う彼らは、まぎれもなく漁師ではない漁師たちだ。あのとき私は、魚を獲らない船乗りもいるのだということを初めて知った。今思えば、彼らは海を渡って物を運んでいたのではなく、人生を運んでいたのだ。
あのときは、まだそれがわからなかった。
私は中国行きの船に乗ったのではなく、人を見る目を学ぶ、最初のフィールドワークを始めていたのだ。
