【 AIの未来は誰にも分からない。だからこそ、この論文には価値がある― 世界2,778人のAI研究者は、生成AIの未来をどう予測しているのか ― 】
【Meta Description】
AI研究者2,778人への世界最大規模の調査から見えてきた、生成AIの未来とは。AIはいつ人間を超えるのか、仕事はどう変わるのか、研究者は何を期待し、何を懸念しているのかをファクトベースで解説。不確実性そのものを読み解くことで、AI時代との向き合い方を考えます。
生成AIについて調べていると、不思議なことに気づく。
ある人は、
「5年以内に人間の仕事はなくなる」
と言う。
一方で別の人は、
「AIはただの便利な道具で終わる」
と言う。
同じAIを見ているはずなのに、
未来予測は驚くほど違う。
では、本当にAIを研究している人たちは、この未来をどう見ているのだろうか。
そんな素朴な疑問に真正面から答えようとした論文がある。
2024年に公開された
「Thousands of AI Authors on the Future of AI」
である。
この論文は技術論文ではない。
ChatGPTの仕組みを説明する論文でもない。
新しいAIモデルを開発した論文でもない。
世界中のトップAI研究者2,778人へ、
「AIの未来をどう考えているか」
を尋ねた、
現在としては世界最大規模の専門家アンケートなのである。
一見すると地味な研究に思える。
しかし私は、この論文はAIを理解する上で非常に重要な意味を持っていると感じた。
なぜなら、
未来そのものではなく、「AI研究者が何を不確実だと考えているのか」が見えてくるからである。
AIの未来を語る人は多い。しかし、データは少ない
生成AIが社会へ広がって以降、
SNSやYouTubeでは未来予測があふれている。
「AIで仕事は消える。」
「医師はいらなくなる。」
「教師はAIに置き換わる。」
どれも刺激的な言葉である。
しかし、その多くは個人の意見である。
一人の研究者。
一人の経営者。
一人の評論家。
もちろん参考にはなる。
しかし、
それがAI研究全体を代表しているとは言えない。
この論文が面白いのは、
個人ではなく、
2,778人の研究者全体の見解
を集めたところにある。
対象となったのは、
NeurIPS、
ICML、
ICLR、
AAAI、
IJCAI、
JMLRという、
AI研究を代表する国際会議や学術誌で論文を発表した研究者たちである。
つまり、
AIを実際に研究している専門家たちが、
今この瞬間、
何を考えているのかを統計として見ることができる。
ここに、この論文の価値がある。
未来予測は、わずか1年で大きく変わった
論文の中で最も驚いたのは、
AI研究者自身が、
AIの進歩を想像以上に速い
と考え始めていることだった。
研究者たちは、
「人間が行うあらゆる仕事を、AIがより安く、より高い性能で実行できる状態(High-Level Machine Intelligence)」について予測している。
2022年の調査では、
その実現確率が50%になる時期は
2060年
だった。
ところが、
わずか1年後の今回の調査では、
2047年
へと13年も前倒しされたのである。
13年という数字は決して小さくない。
普通なら未来予測は少しずつ修正される。
しかし、この論文では、
AI研究者自身が
「思っていた以上にAIの進歩が速い」
と認識を修正していることが分かる。
これはChatGPTやGPT-4などが社会へ与えた衝撃の大きさを反映しているのだろう。
未来が変わったのではない。
未来予測そのものが変わった。
ここが非常に興味深い点である。
それでも「仕事」はすぐにはなくならない
この論文には、
もう一つ面白い結果がある。
AIが人間を能力で超える時期と、
仕事がAIへ置き換わる時期は、
同じではないということである。
研究者たちは、
人間を上回るAIの実現は比較的早いと予測する一方で、
「すべての職業が完全に自動化される」時期については、
50%の確率でも
2116年
という、はるか先の未来を予測している。
つまり、
能力と社会実装は別問題なのである。
AIができることと、
社会がAIを受け入れることは一致しない。
法律。
責任。
倫理。
制度。
文化。
人間は能力だけで社会を動かしているわけではない。
この結果は、
AI研究者自身が技術だけでなく、
社会全体を含めて未来を考えていることを示している。
AI研究者は「楽観」と「悲観」の両方を持っている
世間では、
AIについて語る人は大きく二つに分かれる。
「AIは人類を豊かにする。」
という人。
そして、
「AIは人類を滅ぼす。」
という人である。
しかし、この論文を読むと、
実際のAI研究者は、そのどちらにも属していないことが分かる。
アンケートでは、
約68%の研究者が
AIは長期的に人類へ良い影響をもたらす可能性の方が高い
と回答している。
ここだけを見ると、
AI研究者は楽観派に見える。
しかし、続く結果は意外だった。
その楽観派の研究者であっても、
約半数は、
人類滅亡のような極端に悪い結果が起こる確率を5%以上
と見積もっていたのである。
さらに、
全体では約38〜51%の研究者が、
高度なAIによって人類滅亡やそれに匹敵する深刻な事態が起こる可能性を
10%以上
と考えていた。
もちろん、
10%という数字は
「必ず起こる」
という意味ではない。
しかし、
飛行機が10%の確率で墜落すると聞けば、
誰も乗らないだろう。
つまり、
AI研究者は
「AIは素晴らしい未来をもたらす可能性が高い」
と考える一方で、
「決して無視できないリスクもある」
と同時に考えているのである。
これは一般に語られる
「AI推進派」
「AI反対派」
という単純な対立とは、
まったく違う世界である。
未来よりも興味深かったのは、「分からない」という答えだった
この論文で私が最も印象に残ったのは、
2047年という数字ではない。
人類滅亡の確率でもない。
研究者自身が、「未来は分からない」と考えていることだった。
例えば、
AIが人間を超える時期について、
数年以内と考える人もいれば、
100年以上先だと考える人もいる。
つまり、
AI研究者の間でも、
未来予測は驚くほどばらついている。
これは少し考えれば当然かもしれない。
生成AIは、
まだ始まったばかりの技術だからである。
インターネットが誕生した1990年代に、
SNSや動画配信サービス、
スマートフォンの社会を正確に予測できた人がほとんどいなかったように、
現在のAIもまた、
未来を正確に描ける段階ではない。
だから、この論文は
「未来はこうなる」
という論文ではない。
むしろ、
未来はまだ誰にも分からない
ということを、
2,778人の専門家の回答によって示した論文なのである。
私は、この点こそが最も価値のあるメッセージだと思った。
AI研究は「技術」から「社会」へ広がり始めている
もう一つ興味深いのは、
研究者への質問内容である。
この論文は、
AI性能だけを聞いているわけではない。
偽情報の拡散。
経済格差。
権威主義国家によるAI利用。
AI安全性。
AIアライメント。
説明可能性。
人類への長期的影響。
こうした社会的なテーマについても、
研究者へ詳しく質問している。
つまり、
AI研究は
もはや性能競争だけではない。
「どれだけ賢いAIを作れるか」
だけではなく、
「そのAIを社会でどう扱うか」
という研究へ、
少しずつ重心が移り始めている。
これは非常に大きな変化である。
ChatGPTが登場した当初、
私たちが驚いたのは、
AIが文章を書けることだった。
しかし現在、
研究者たちが議論しているのは、
AIが社会をどう変えるかなのである。
技術そのものより、
技術が人間社会へ与える影響。
この視点が、
今後ますます重要になっていくだろう。
AI時代に必要なのは、「未来を当てる力」ではない
この論文を読み終えて感じたのは、
AIの未来を正確に予測することは、
おそらく誰にもできないということだった。
AI研究者でさえ、
未来について意見が分かれている。
つまり、
未来そのものよりも、
変化に対応できる人間になること
の方が重要なのである。
例えば、
「2047年にAIが人間を超える」
という数字だけを覚えても、
それ自体に大きな意味はない。
もし2040年になれば、
その予測は再び修正されるかもしれない。
2055年になる可能性もある。
2038年になる可能性もある。
重要なのは、
未来は修正され続ける
という事実なのである。
この論文は、
未来を断言しているのではない。
未来予測そのものが、
AIの進歩によって変わり続けることを示している。
だから私たちは、
一つの予測へ固執するのではなく、
変化そのものを観察する姿勢が求められる。
生成AIは「道具」から「社会基盤」へ変わり始めている
ChatGPTが登場した当初、
多くの人は、
「文章を書いてくれる便利なAI」
という印象を持っていた。
しかし現在、
AIは文章生成だけではない。
医療。
教育。
金融。
製造業。
研究開発。
行政。
創作活動。
あらゆる分野へ入り始めている。
つまり、
AIは一つのアプリケーションではなく、
社会全体を支える基盤技術
へ変わろうとしている。
だからこそ、
AI研究者たちも、
性能だけではなく、
安全性、
公平性、
説明可能性、
社会制度、
経済への影響まで議論するようになった。
AIを研究することは、
もはやコンピューターサイエンスだけではない。
社会全体を考える学問になり始めているのである。
この論文は、
その転換点を象徴しているように思えた。
おわりに──未来を予測した論文ではなく、「未来との向き合い方」を教える論文
この論文には、
2047年。
2116年。
2028年。
さまざまな数字が登場する。
しかし、
私が最も重要だと感じたのは、
その数字ではなかった。
2,778人のAI研究者でさえ、未来を断言していない。
この事実である。
未来は、
一本道ではない。
技術革新。
社会制度。
政治。
経済。
文化。
人間の価値観。
無数の要因が重なり合って、
初めて未来は形づくられる。
だから、この論文を読む価値は、
「2047年を信じること」
にはない。
AI研究者が、どのような前提で未来を考え、どこに期待し、どこに不確実性を感じているのか。
その思考過程を知ることにある。
2022年にはTruthfulQAが、
「AIは真実を知っているわけではない」
ことを示した。
2023年にはKnowledge Graphが、
「AIは世界の構造を理解する方向へ進んでいる」
ことを示した。
そして、この論文は、
「そのAIが社会へ入ったとき、人類はどう向き合うのか」
という新しい問いを私たちへ投げかけている。
生成AIの進化とは、
単にモデルが賢くなることではない。
人間社会そのものが、AIと共存する新しい時代へ適応していく過程なのである。
だからこの論文は、未来を当てるための論文ではない。
AI時代を生きる私たちが、「未来とどう向き合うべきか」を考えるための羅針盤なのである。
▷References / Sources
Grace K, Salvatier J, Dafoe A, Zhang B, Evans O. Thousands of AI Authors on the Future of AI. arXiv. 2024;arXiv:2401.02843.
Lin S, Hilton J, Evans O. TruthfulQA: Measuring How Models Mimic Human Falsehoods. arXiv. 2022;arXiv:2109.07958.
Peng C, Xia F, Naseriparsa M, Osborne F. Knowledge Graphs: Opportunities and Challenges. Artif Intell Rev. 2023;56(11):13071-13102.
Ouyang L, Wu J, Jiang X, Almeida D, Wainwright C, Mishkin P, et al. Training Language Models to Follow Instructions with Human Feedback. arXiv. 2022;arXiv:2203.02155.
Bai Y, Kadavath S, Kundu S, Askell A, Kernion J, Jones A, et al. Constitutional AI: Harmlessness from AI Feedback. arXiv. 2022;arXiv:2212.08073.
Brown TB, Mann B, Ryder N, Subbiah M, Kaplan J, Dhariwal P, et al. Language Models are Few-Shot Learners. Adv Neural Inf Process Syst. 2020;33:1877-1901.
Kaplan J, McCandlish S, Henighan T, Brown TB, Chess B, Child R, et al. Scaling Laws for Neural Language Models. arXiv. 2020;arXiv:2001.08361.
Bommasani R, Hudson DA, Adeli E, Altman R, Arora S, von Arx S, et al. On the Opportunities and Risks of Foundation Models. arXiv. 2021;arXiv:2108.07258.
Bubeck S, Chandrasekaran V, Eldan R, Gehrke J, Horvitz E, Kamar E, et al. Sparks of Artificial General Intelligence: Early Experiments with GPT-4. arXiv. 2023;arXiv:2303.12712.
Russell S. Human Compatible: Artificial Intelligence and the Problem of Control. New York: Viking; 2019.
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💙 文・監修:阿部 有徳 Nariyoshi Abe
【DASH SPORTS MASSAGE】
・パーソナルトレーナー
CSCS / NSCA-CPT / 鍼灸師 / あん摩マッサージ指圧師
・著書(疲労社会論シリーズ:Amazon/KDPにて販売中)
『回復できない社会で人はなぜ疲れ続けるのか: ―― 社会構造・時間・回復余力から読み解く「未病」という状態』
『回復できない社会の構造 ― 誠実さはなぜ消耗するのか』
『The Unrecoverable Society: Structural Fatigue, Finite Sincerity, and the Conditions Under Which Recovery Fails』
【 English Metadata for Global Search & Archival Access 】
1. English Title
What Thousands of AI Researchers Predict About the Future of Artificial Intelligence
2. English Abstract
Predictions about artificial intelligence often reflect individual opinions rather than collective evidence. This article examines one of the largest surveys ever conducted among AI researchers, involving 2,778 experts who published at leading AI conferences. Rather than focusing on technological details, the survey explores expectations regarding AI progress, automation, societal impact, and long-term risks. From the perspective of a Japanese clinician and performance coach, the author argues that the greatest value of this research lies not in predicting a specific future, but in revealing the uncertainty shared by experts themselves. Understanding where specialists agree, disagree, and remain uncertain provides a more practical framework for interpreting AI's rapid development than relying on confident predictions alone.
3. Keywords
Artificial Intelligence, AI Forecasting, AI Experts, Future of AI, AI Safety, Human-Level AI, Technology Forecasting
4. Glossary
High-Level Machine Intelligence (HLMI)
(In this article's framework): A hypothetical stage at which AI systems can perform every human task more effectively and at lower cost than human workers, regardless of whether society has adopted them.
AI Forecasting
(As used by the author): The systematic estimation of AI's future capabilities and societal impact based on expert judgment, empirical trends, and technological progress rather than speculation alone.
Forecast Uncertainty
(As used by the author): The recognition that even leading AI researchers disagree substantially about the timing and consequences of advanced AI, making uncertainty itself an important finding.
5. Citation Hint
Cite as:
Abe, N. (2026). What Thousands of AI Researchers Predict About the Future of Artificial Intelligence. Note Publishing Platform, Japan.
Retrieved from: https://note.com/dsm_niigata
