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案件選択が当たり前になった先に、SESは何を提供するのか

エンジニアファーストと顧客価値を、次の段階へ進めるために

「案件を選べる会社です」
「高い還元率を掲げています」
「フルリモート案件が豊富です」

SES業界の採用市場では、こうした言葉を目にする機会が増えました。

働く人にとって、案件や働き方を自分で選べることは大切です。これまで、本人の希望やキャリアと関係なく配属が決まり、案件単価や評価の仕組みも見えにくいことがありました。その状況を変えようとする案件選択制度や、エンジニアファーストという考え方には、明確な意味があります。

会社都合だけで人を動かさない。報酬や商流をできるだけ見えるようにする。本人が望む働き方や技術領域を尊重する。

この変化は、SES業界に必要なものでした。

ただ、制度が広がり、多くの会社が同じ言葉を掲げるようになったとき、次の問いが出てきます。

案件を選べることが当たり前になった先で、SES企業は何によって選ばれるのか。

エンジニアファーストとは、希望条件に合う案件を紹介することだけで成立するのか。そして顧客にとって、担当者がいつでも別案件へ移る前提の体制は、本当に望ましいものなのか。

この問いは、案件選択制度を否定するためのものではありません。

むしろ、制度をより良いものにするための問いです。

ディーシステムでは、エンジニアの希望を尊重することと、顧客からより深い仕事を任されることは、対立するものではないと考えています。両方を実現できたときに初めて、エンジニアの成長、報酬、顧客への提供価値、会社の持続性がつながります。

SESの未来は、「どの案件を選べるか」だけで決まるものではありません。

顧客の業務を理解し、より難しい課題に向き合い、その経験を次の成長と報酬へ返せる会社になれるか。

そこに、次の競争があるのではないでしょうか。

案件選択制度は、なぜ支持されるのか

案件選択制度が支持される理由は分かりやすいものです。

エンジニアは、自分のキャリアについて考えています。どの技術を身につけるのか。どんな環境で働くのか。年収をどう上げていくのか。将来、どのような役割を担いたいのか。

しかし従来のSESでは、本人の希望が十分に反映されないことがありました。

営業上の都合で配属が決まる。現場の詳細を知らないまま参画が決まる。案件単価や給与への反映が分かりにくい。契約終了後の次のキャリアが見えない。

こうした不安が積み重なれば、「もっと自分で選びたい」と考えるのは自然なことです。

案件選択制度は、この不透明さへの答えとして生まれました。どのような案件があるのかを見せる。本人が希望を伝えられるようにする。単価や還元の考え方を開示する。働き方の条件を交渉する。エンジニアを、単なる配置対象ではなく、一人のキャリアを持つ人として扱う。

この方向性は、これからも必要です。

IT人材の不足が続き、生成AIを含む技術の変化も速い現在、会社が一方的にキャリアを決めることは現実的ではありません。IPAの「DX動向2025」でも、DXを推進する人材やAI関連人材の不足が、日本企業の課題として示されています。技術や人材を一方的に配置するだけでは、顧客の変化にも、働く人の変化にも対応しにくくなっています。

だからこそ、エンジニア自身が自分のキャリアを考え、会社がその選択を支えることには価値があります。

ただし、本人の希望を聞くことと、本人が長期的に価値を高められる経験を設計することは、同じではありません。

ここを混同すると、制度はあっても、キャリアの選択肢は増えません。

「選べる」ことと、「成長できる」ことは同じではない

案件を選べることは大切です。

しかし、案件を選べることだけでは、キャリアが前に進むとは限りません。

年収、リモート比率、残業時間、使用技術、知名度のある企業であること。案件を選ぶときに、こうした条件を見るのは当然です。生活や働き方に直結する以上、軽視するべきではありません。

ただ、条件だけで案件を選び続けたとき、数年後に何が残るのかという問いはあります。

同じような定型業務を繰り返していないか。顧客の業務を深く理解する経験を避けていないか。障害対応や要件整理、関係者との調整といった、難しい経験から距離を取っていないか。

技術を使うことはできても、「なぜこの仕組みが必要なのか」「顧客はどこで困っているのか」を説明できない状態になっていないか。

もちろん、すべてのエンジニアがマネジメントや上流工程を目指す必要はありません。専門性を深めたい人もいます。安定した働き方を優先したい時期もあります。家庭や健康、人生の事情を踏まえれば、条件を優先する選択が必要なこともあります。

問題は、条件を重視することではありません。

条件だけがキャリア判断のすべてになったとき、本人が将来どのような価値を提供できる人材になるのかが見えなくなることです。

エンジニアの市場価値は、使用できる技術名だけで決まるわけではありません。

顧客の業務を理解できる。曖昧な相談を整理できる。障害やトラブルのときに優先順位をつけられる。関係者の立場を踏まえて説明できる。再発防止や改善の視点を持てる。

こうした力は、研修だけで身につくものではありません。

現場で考え、失敗し、顧客からの反応を受け、先輩や周囲からフィードバックを受ける中で育ちます。条件のよい案件を選ぶことと、このような経験を積むことは両立できます。しかし、会社が何も設計せず、本人の希望だけに任せれば、成長の機会は偶然に左右されやすくなります。

本当にエンジニアファーストを考えるなら、会社は希望を聞くだけで終わってはいけません。

本人がまだ言語化できていない可能性も含めて、どの経験が次の選択肢を増やすのかを、一緒に考える必要があります。

給与の原資は、最終的に顧客が支払う対価である

エンジニアの給与を考えるとき、忘れてはいけない現実があります。

給与の原資は、最終的には顧客が支払う対価です。

会社が高い還元率を掲げること自体は悪いことではありません。報酬の透明性を高めることも、エンジニアに対して誠実であるために重要です。

しかし、還元率の議論だけでは、肝心の問いが抜け落ちることがあります。

その案件は、顧客からどのような価値を認められているのか。

その仕事は、なぜその単価で発注されているのか。

エンジニアがより高い報酬を得るために、顧客からより高い対価を受け取れる仕事へ進むには、何が必要なのか。

ここを考えずに、「より高い還元率」だけを競争軸にすると、SES企業は同じ市場の中で利益配分を競うことになります。

一方で、顧客が支払う対価には理由があります。

決められた手順を正確に実行する人材に対する対価。特定の製品や技術を扱える人材に対する対価。自社の業務を理解し、関係者と調整し、問題の背景まで整理できる人材に対する対価。

そして、改善提案や運用設計、業務の標準化まで一緒に担える体制に対する対価です。

この違いは大きいものです。

より高い報酬を実現するために必要なのは、会社が利益を削って還元率を上げることだけではありません。

顧客から、より高い価値を認められる仕事をつくることです。

商流を上げることも重要になります。ただし商流を上げるとは、単に間に入る会社を減らすことではありません。顧客の課題に近い場所で会話し、業務を理解し、責任を持って提案や設計に関われる位置へ進むことです。

顧客にとって、「この人がいれば作業が進む」だけではなく、「この会社に相談すれば、業務の課題を整理して次の手を考えてくれる」と思ってもらえること。

そこまで行ければ、エンジニアの報酬を上げるための原資も、より健全な形で生まれます。

顧客が本当に困るのは、「人が辞めること」だけではない

エンジニアが自分の希望に合わせて案件を選び、転職や異動をすること自体は自然なことです。

顧客も、担当者がずっと同じ現場にいるとは考えていません。人にはキャリアがあり、人生があり、次の挑戦があります。

顧客が本当に困るのは、担当者が変わることそのものではありません。

担当者が変わるたびに、業務理解が失われることです。

顧客の事情を説明し直す必要がある。過去に何度も話した背景が引き継がれていない。障害や問い合わせが起きるたびに、同じ確認から始まる。重要な判断が特定の人にしか分からない。

こうした状態が続くと、顧客は外部人材に重要な仕事を任せにくくなります。

結果として、SESに任せられるのは、誰が担当しても大きな差が出にくい仕事だけになります。定型作業、決められた手順の実行、切り出しやすい運用業務。これらも重要な仕事です。ただ、そこだけにとどまれば、顧客が支払える対価には限界があります。

顧客がより深い仕事を任せるためには、安心が必要です。

担当者が変わっても、会社として業務理解が残る。難しい場面では、後ろに相談できる体制がある。現場で得た知識が、次の担当者の立ち上がりに活かされる。顧客の要望をそのまま受け取るだけでなく、背景を確認して提案できる。

この安心があって初めて、顧客は重要な業務や、判断が必要な領域を任せられるようになります。

エンジニアファーストを掲げる会社が、顧客にとっても安心できる会社になる。

この両立が、これからのSESには必要です。

一人で参画していても、会社として顧客を支える

SESや常駐支援では、一人で顧客先に参画することがあります。

ここで、ディーシステムは「一人の社員が顧客先にいる」ことを、「その人だけが顧客を支えている」ことと同じには考えません。

一人の担当者を送り出し、その後の対応を個人に委ねるだけでは、顧客にとっても、社員にとっても、安定した支援にはなりません。

現場で起きた問い合わせ、障害、業務上の注意点、顧客からいただいた評価、判断に迷った場面。こうした情報を、必要に応じて会社として受け取り、支援の質を高める材料にします。

担当者が困ったときには、過去の事例や他案件の知見を参照し、必要な相談ができる状態をつくる。顧客への影響が大きい場面では、本人の経験だけに依存せず、会社として考える。

これは、現場を細かく管理するためではありません。

顧客への責任を、一人の担当者だけに背負わせないためです。

たとえば、問い合わせ対応は、単に質問へ答える仕事ではありません。同じ問い合わせが増えているなら、利用者向けの案内が分かりにくいのかもしれません。特定の部門だけで問題が起きているなら、システムだけでなく、業務フローや権限設定に原因があるかもしれません。

問い合わせは、顧客の困りごとが集まる場所です。

一人の担当者がその兆しに気づき、会社として支援の方向を考えられれば、個別対応で終わらず、よりよい運用や改善につなげられます。

将来的に増員や担当交代が必要になったときも同じです。

手順書だけでなく、顧客が何を重視しているか、どの業務に影響が出やすいか、誰にどの順番で相談すべきかまで理解できていれば、単に人を増やすのではなく、顧客の現場を理解した体制として支援を広げられます。

一人で始めることを、一人で終わる前提にしない。

これが、顧客に長く価値を届ける常駐支援の条件だと考えています。

長期取引と協業の中でしか育たない力がある

SESでは、案件数や条件のよさが語られやすい一方で、どの顧客と、どれだけ長く向き合っているかは、あまり注目されません。

しかし、顧客価値や人材育成を考えるうえでは、ここが大きな違いになります。

短期間で参画する案件では、まず与えられた役割を果たすことが求められます。それは重要な経験です。ただ、顧客の業務を深く理解し、改善や次の提案まで踏み込むには、時間が必要です。

なぜこの手順が存在するのか。なぜこの部署との調整に時間がかかるのか。過去にどのような障害が起き、どんな判断が積み重ねられてきたのか。表面上は非効率に見える運用にも、品質、法規制、顧客固有の事情を踏まえた理由があることがあります。

こうした背景は、短い引き継ぎや仕様書だけでは分かりません。

ディーシステムには、大手製薬企業と長年にわたり取引を続けてきた実績があります。長期取引の価値は、単に契約が続いていることではありません。その間には、顧客側の組織変更、システムの刷新、業務ルールの変化があり、ディーシステム側でも担当者は入れ替わってきます。

それでも関係が続くためには、人が変わっても、顧客の業務を理解するための知識や、支援の中で培われた判断が受け継がれていなければなりません。

製薬企業のシステム支援では、技術だけを理解していても十分ではありません。品質、規制、文書、承認、データの扱い、部門間の役割分担など、業界特有の前提があります。

ERP、SAP、インフラ運用、ヘルプデスクのような領域でも同じです。

システム上の問題と業務上の問題を切り分ける。どの関係者と、どの順番で認識を合わせるべきかを考える。どこまで急ぎ、どこから慎重に進めるべきかを判断する。

こうした力は、顧客との日々のやり取り、問い合わせ対応、障害対応、業務変更への対応を通じて、少しずつ身につきます。

大手SIerとの協業においても、求められるのは人員を補充することだけではありません。複数の会社、複数の部門、複数の業務領域が関わる中で、顧客の業務を理解し、現場の状況を整理し、関係者と認識をそろえながら進める力が必要になります。

長期取引の価値は、同じ現場に長くいること自体ではありません。

顧客との関係が深まる中で、社員がより難しい役割へ進めること。現場で得た知見を次の人材へ引き継ぎ、顧客への支援を広げられること。そして、顧客から得た信頼を、次の提案や体制づくりにつなげられることです。

「案件を選ぶ」だけで終わらせず、次の選択肢を増やす

社員の希望を尊重することは重要です。

ただ、希望を聞いて案件を紹介するだけでは、キャリア支援として十分とは考えていません。本人が今望んでいる条件と、数年後に選べる仕事を増やすために必要な経験は、必ずしも一致しないことがあるからです。

たとえば、未経験からヘルプデスクや運用業務に入った社員がいます。

一見すると、次のキャリアにつながりにくい仕事に見えるかもしれません。しかし、問い合わせ対応を通じて顧客の業務を理解し、利用者の困りごとを整理し、報告の質を高めていけば、その経験はERP運用、業務改善、PMO、上位の運用設計といった役割につながる可能性があります。

重要なのは、どの案件に入ったかだけではありません。

その現場で何を見て、何を学び、次にどのような役割へ進めるのかです。

ディーシステムでは、本人の希望、顧客現場で得た評価、日々の業務報告、将来のキャリアの方向性を切り離さずに考えます。

現場での経験を振り返り、必要なフィードバックを返し、次に積むべき経験を一緒に考える。顧客から高く評価された行動があれば、それを本人だけの成功で終わらせず、何がよかったのかを整理する。難しい場面でつまずいたときも、失敗を責めるだけではなく、次に同じ場面に立ったときの判断へ変えていく。

案件選択とは、目の前の条件を選ぶことだけではありません。

将来、自分で選べる仕事を増やしていくことです。

そのために必要なのは、希望の多さだけではありません。顧客からより深い役割を任せてもらえる経験と、その経験を次の成長につなげる支援です。

AIが普及するほど、「業務を知る人」の価値は高くなる

生成AIは、SESの仕事にも大きな影響を与えるでしょう。

資料の下書き、議事録の要約、コードのたたき台、問い合わせ対応の一次回答、過去文書の検索。これまで時間のかかっていた仕事の一部は、AIによって短縮されていきます。

この変化を前に、「定型的な仕事は減るのではないか」と不安を感じる人もいるかもしれません。

実際、作業そのものの価値が変わる領域はあります。

ただ、AIが普及するほど、業務を深く理解している人の価値は高くなります。

AIは文書を要約できます。しかし、顧客にとって何が本当の問題なのかを、自動で見抜くわけではありません。

AIは過去の問い合わせから回答案を出せます。しかし、その問い合わせが月末処理に影響するのか、業務ルールの変更に起因するのか、顧客側の組織変更と関係しているのかまでは、現場の文脈がなければ判断できません。

AIは数字の傾向を示せます。しかし、その変化が一時的なものなのか、顧客の方針転換なのか、業務負荷の偏りなのかを解釈するのは人です。

これから必要になるのは、AIを使える人だけではありません。

AIに何を問うべきかを考えられる人です。

顧客の業務を理解し、現場の違和感を言葉にし、AIが出した結果を鵜呑みにせず、次の行動へ変えられる人です。

その力は、顧客に近い場所で働き、業務を理解し、難しい場面を経験する中で育ちます。

だからこそ、SES企業がエンジニアに提供すべきものは、案件の自由度だけではありません。

現場で考える経験。顧客と対話する経験。業務の背景を理解する経験。失敗や改善を振り返る機会。そして、得た経験を次の役割につなげる支援です。

本当のエンジニアファーストとは何か

エンジニアファーストという言葉は、便利です。

給与を上げること。希望案件を選べること。リモートで働けること。残業を減らすこと。キャリア相談を受けられること。

どれも大切です。

ただ、本当にエンジニアを大切にするとは、短期的に納得できる条件を出すことだけではないはずです。

本人が数年後も、顧客から必要とされる仕事に挑戦できること。技術だけでなく、業務理解や判断力を積み上げられること。現場で困ったときに、一人で抱え込まず、会社として支援を受けられること。案件終了後も、次のキャリアにつながる経験として整理できること。

そして、顧客から認められた価値が、給与や次の役割に返ってくることです。

エンジニアの希望を尊重する。顧客に対して責任を持つ。会社として、より高い価値の仕事を生み出す。

この三つは、どれか一つを選ぶものではありません。

難しいからこそ、制度だけで終わらせず、日々の配置、育成、顧客との対話、営業と現場の連携の中で実現していく必要があります。

案件選択制度は、エンジニアの自由を広げました。

その次に必要なのは、顧客からより高い価値を認められる仕事を増やし、その対価をエンジニアの成長と報酬へ返すことです。

SESは、人を配置するだけの事業ではありません。

顧客の現場を理解し、変化を捉え、次の価値を一緒につくる事業になれる。

ディーシステムは、その可能性を信じています。

参考データ・出典

独立行政法人情報処理推進機構「DX動向2025」
独立行政法人情報処理推進機構「DX動向2025 ― AI時代のデジタル人材育成」


さらに詳しく知りたい方へ

SES企業が、商流・単価・稼働・育成・顧客評価を別々に管理するのではなく、事業全体として見直すには何が必要か。

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