ロールと人間関係とあんたのスキのコアと
あんたは、自分の役割ってやつに、ちっとばかし愛着を持ってたりしないかい。
仕事上のいろんな役割を与えられて、プロジェクトの終了とともに、その役割は何事もなかったかのように消えていく。
PMBOKっていうプロジェクトマネジメントのバイブルみたいな本があってさ。
そこには、プロジェクトごとに集まっては散っていく「プロジェクト型組織」や、役職ごとに役割がきっちり決まっている「機能型組織」、その中間の「マトリクス型組織」なんて分類が載っている。
現実には、完全なプロジェクト型も完全な機能型もほとんどなくて、ほぼ全部がグラデーションのどこかにいるマトリクス型だ。
だから仕事には、出会いと別れがつきものになる。
せっかく培った人間関係も、よっぽど印象に残る動き方をしていないと、あっという間に「名前も出てこない誰か」になっていく。
与えられたロールと真面目さ
大抵の仕事では、会社員にしろ、自分で会社を立ち上げたにしろ、何かしらの役割ってやつを与えられている。
組織のトップの社長だって、「組織の人間のパフォーマンスを最大限に引き出す」という、正解のないお題を抱え続けている意味では、一つのロールを背負わされているわけだ。
直接利益を生まない間接部門だろうが、売上直結の部門だろうが関係ない。
仕事をするヒトはみんな、仕事上の人間関係を通してロールを演じている。
で、その人間関係が、まあ全部うまくいくなら苦労はない。
どうしても歯車があわないこともあるし、「生理的に無理」みたいな感じになる相手だっている。
それでも、そこは仕事だから、多少の不満は飲み込んで、与えられたロールを淡々とこなしていく。
なんでそんなことができるかと言えば、結局、仕事で人間関係をないがしろにしたら、うまくいくはずの仕事まで崩れていくって、どこかで知っているからだ。
なんつーか、根が真面目なわけよ。
俺も、あんたもね。
目標を与えられたら、その実現に向けて全力を尽くそうとしてしまう。
しかも、人間の「ちょうどいい無茶」ってのは、本当の全力より少しだけ難しいラインにあると言われていて、そのくらいの負荷をかけられると、本人が気づいてない全力まで引き出されてしまう。
そういう真面目さが根っこにあれば、大抵の仲間との人間関係は、なんだかんだで回してしまえるものだと、俺は思っている。
たださ、ポイントは「最初」なんだよな。
あんたはあんたの意思とは関係なく、相手の顔を見た瞬間に、勝手に第一印象を「感じて」しまう。
なんか話しやすそうだとか、仕事できそうだとか、そういうポジティブな感覚ならまだいい。
でも、「頑固そうだな」とか、「なんかあわなそうだな」とか、そういうネガティブな感覚が先に立つと厄介だ。
しかも厄介なことに、相手も同じように、あんたに対して何かしら感じている可能性が高い。
表に出ちまうんだよ。
そういう用意していない感情ってやつは。
しかも、与えられたロールで組まされる場合、そのタイミングも自分で選べない。
やれやれだぜ、って話だ。
「あわない」と感じてしまった時
じゃあ、その「あわない」って感情をどう扱うかって話になる。
「あわねぇならあわねぇなりにやりゃあいいだろ」と言われれば、まあその通りなんだけど、「あわねぇなりに」って具体的にどういうことかを考え始めると、答えに詰まることが多い。
俺の感覚でいくなら、まずチームの目標を「自分なりの言葉」にしてみるところから始める。
そのうえで、「その言葉の実現のための共犯者」に相手を仕立て上げるイメージを持つ。
俺もあんたも、根は真面目だからさ。
「このゴールを一緒に目指そう」とか、「この状況だけはなんとかしようぜ」っていう目標さえ共有できたと感じれば、意外と素直に手を取り合えることが多い。
そのときに役立つのが言葉で、言葉ってのは便利なもので、自分の感情を微妙に混ぜ込んだ形にうまく変形させることができる。
いわゆる行間に意味を込めるってやつだ。
表向きは冷静に仕事の話をしているようで、ちょっとした言い回しや間合いに、「ここは本気」「ここは笑ってほしい」「ここは譲れない」みたいなニュアンスを滲ませる。
相手が仕事のできるやつなら、その行間にある感情を読み取って、「ああ、この人はこういうときに怒るんだな」「こういう風に言うと頑張るんだな」と、あんたの取扱説明書を勝手に組み立て始めるはずだ。
そうなったらしめたもんだ。
相手がこちらのスイッチを把握したのなら、あとは喜んでその尻馬に乗って、一緒に暴れ回ればいい。
もし相手がそこまで読み上手じゃなければ、それはそれでいい。
行間を読み合うところまでは行かずとも、表に出ている言葉だけで手を握ればいい。
俺たちはたぶん、無意識のうちにこういうやり方を何度もやってきている。
今度からは、そこにほんの少しだけ意識を割いてみてほしい。
自分がどんな行間を投げているのか、相手からどんな行間を受け取っているのか。
ちょっと気にするだけで、目の前の光景が変わって見えるはずだ。
行間と、人間関係の残り方
こんなふうに考えると、俺たちの人間関係ってのは、特に仕事の場では、「想定しない感情」の処理の仕方でかなり姿を変えていくことがわかる。
相手が行間を読むような出来るやつなら、そこで築かれた関係は、ロールが外れたあとも続いていく。
プロジェクトが終わっても、なんとなく飲みに誘い合ったり、近況を送り合ったりする相手として残る。
一方で、相手が行間を読めなかった場合。
あるいは、あんた自身が相手の行間を読むことができなかった場合、その関係はそこで役目を終える。
あとは時間が経つほどに、名前も顔も思い出せない誰かになっていく。
そこで少し、先のことを想像してみてほしい。
あんたが仕事をやめるときのことだ。
もし「次」があるなら、異動か転職か、何かしら新しい現場があって、そこでまた新しい人間関係が待っている。
それがいい関係になるか、しんどい関係になるかはわからないけれど、とにかく「次の場」がある。
ところが、定年みたいに「次」がない状態で仕事をやめるとしたらどうだろう。
気がついたら、自分の周りに残っている人間関係の少なさに、愕然とするんじゃないかと俺は思うんだ。
ヒトって生き物は、人間関係があって初めて「生きている」実感を持てる生き物だと思う。
単独の個体ではとても生き残れないからこそ、他の個体と協力し合えるように進化してきた。
仕事をやめたとき、もし自分の周りに人間関係がまるで何も残っていなかったとしたら、それはかなり悲しい風景だ。
じゃあどうするのか。
俺はシンプルに、
「行間を読み合うクセを付けること」だと思っている。
どんな相手も、お互いに御しがたい何かを抱えていて、それを簡単に言葉にできないでいる。
その前提さえ共有できていれば、「あ、この人はここまで頑張って、ここから先は無理なんだな」とか、「この話題はしんどいのかもしれないな」とか、手の打ちようが出てくる。
行間を読み合うことは、相手の全部を背負うことじゃない。
むしろ、「どこまでの距離なら一緒に歩けるか」を探るための手触りみたいなものだ。
少しだけ具体的に考えてみよう。
急ぎの仕事で、今日中に形にしないといけない。
「この仕事……悪いけど今日中に仕上げてくれない?」
一呼吸間をおいて答える。
「……了解。1時間後にドラフト持ってくからそこで知恵を貸してくれ」
このお互いの「……」と「一呼吸」に込められたもの。
あんたは分かるだろ?
ロールを捨てるって、見捨てることか?
ここまで来ると、ようやく本題に戻れる。
ロールを一つ減らすっていうのは、そのロールの先にいるヒトとの関係を「切る」ことにも見える。
実際、仕事のロールがなくなった瞬間に、その現場の人たちとの関係がスッと消えるなんていうのは、珍しい話じゃない。
だから、「ロールを減らそう」「抱えすぎないようにしよう」と言われても、どこかで「それって、この人たちを見捨てることじゃないのか?」と感じてしまう。
その違和感があるからこそ、ロールを抱え続けて、気づいたら自分の心と体の方が先に壊れてしまう、ということが起きる。
でも、ロールを捨てるってことは、本当に「その先のヒトの幸せなんてどうでもいい」と突き放すことと同じなんだろうか。
俺は、そうとは限らないと思っている。
ロールを捨てることは、「その人の幸せに一切関心を持たない」ことじゃない。
むしろ、「全部抱え込んで一緒に沈む」のをやめるって決めることに近い。
関心は持ったまま、「責任の持ち方」を変える、距離の取り方を変える、という方がしっくりくる。
仕事の現場でロールを降りるときのことを想像してみてくれ。
ちゃんと引き継ぎをして、自分しか握っていない情報をきっちり渡して、「ここまでは自分が責任を持った」と言える線を引いたうえで、その先を誰かに任せる。
そうやって「ロールとしての責任」は手放す。
でも、「あいつら、今どうしてるかな」とか、「またどこかで一緒に仕事できるといいな」と思うことまでやめる必要はない。
ロールを捨てるのは、「関わりをゼロにする」ことじゃなくて、自分が壊れない距離にラインを引き直す行為なんだと思う。
ロールの取捨選択と、これからのあんた
そう考えると、ロールの取捨選択ってのは、そのまま「誰とどれくらい関わるか」の取捨選択でもある。
ロールは、人とつながるためのプロトコルだ。
父というロールを持つことで、家族との接続口ができる。
SEというロールを持つことで、顧客やチームとの接続口ができる。
ロールを増やせば、そのぶん接点も期待も増える。
逆にロールを減らしたり、軽くしたりすれば、そのロール経由での関わりは弱まる。
全部のロールで完璧に応えようとしたら、そりゃあ疲れるどころの話じゃない。
「急ぐけど大切じゃないこと」に追いまくられて、「急がないけど大切なこと」と、あんた自身の譲れないコア、つまり「スキのコア」を削ることになる。
これは言い換えればあんたの魂を削るのに等しい行為だ。
だからこそ、本当にやらなきゃいけないのは、「どのロールは降りてもいいか」を自分で認めて、「どのロールにだけは最後までMPを残しておくか」を、自分の言葉で決め直すことなんだと思う。
なあ、あんたはどうだい。
あんたが今持っているロールの中で、ロールが外れても、あんたの方から声をかけ続けたい相手って誰がいる。
逆に、「役割があるから続いているだけ」で、ロールが消えた瞬間に自然と切れていく関係って、どのあたりに転がっていると思う。
そしてもうひとつだけ、考えてみてほしい。
今のあんたのロールの中で、スキのコアに近いのに薄くしか時間を割けていないロールはどれで、コアから遠いのにやたら厚く抱え込んでいるロールはどれだろうな。
あんたは、これからどのロールをそっと降りて、どのロールを大切に残していくつもりなんだい。

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