普通のオッサンが考えた「スキのコア」ロールに振り回されずにMPを残す方法
序章 ロールとスキのコア
今日も一日、自分じゃない誰かを演じきって、クタクタになって帰ってきたあんたへ。
あんたは、毎日どれくらいの役割を着替えて生きている?
朝、家では親として、あるいは子どもとしての顔がある。
会社に着けば、部下やリーダーや、エンジニアや営業としての顔がある。
夜になれば、友人としての顔、趣味仲間としての顔、ネット上では別の名前で呼ばれている自分の顔だってあるかもしれない。
こうやって眺めてみると、俺たちは一日中、いくつものロールを付け替えながら生きている。
父であり、夫であり、部下であり、上司であり、システムエンジニアであり、プロジェクトマネージャであり──。
TRPGのプレイヤーでありマスターであり、noteで何かを書き散らかす書き手でもある。
なんなら、庶民であり、凡人でもある。
区民Aであることもあるだろう。
いわば、日常そのものがロールプレイングゲームみたいなもんだ。
経験値を積むために残業して、ゴールドの代わりに給料と信用を集めて、スキルという武器や肩書という防具を手に入れて、クエストみたいに案件をこなしていく。
その途中で、理不尽なクレームというイベントに襲われたり、方向性の見えないトラブルというダンジョンに放り込まれたりする。
そうやって、俺たちは毎日、いくつものロールを演じることで、なんとか日常を回している。
でもさ。
そのロールを全部剥ぎ取ったときに、最後に残る「どうしても嫌いになれない自分の芯」って、あんたのそれはどんな形をしていると思う?
父でも夫でも部下でも上司でもなく。
システムエンジニアでも、プロジェクトマネージャでも、TRPGのゲームマスターでも、noteの書き手でもない。
肩書も立場も全部剥ぎ取られたあとに、それでも残ってしまう「これだけは譲りたくねぇ」と思う自分の一部。
俺はそれを、ずっと「スキのコア」と呼んできた。
うまく言葉にならないけれど、追い詰められたときにふと顔を出す、あの頑固さみたいなやつ。
「ここで折れたら、自分のことを嫌いになりそうだ」と感じるライン。
そのラインの向こう側にある何か。
それが、あんたのスキのコアだ。
この本は、単なる趣味探しの本じゃあない。
もっと切実な生き残り戦略の本だ。
そのスキのコアと、俺たちが日々着替えているロールとの距離を、もう一度見直してみるための話だ。
何?そんな当たり前のことをなんでいまさら見直すんだって?
いいか、よく聞けよ?
今という時代は、ヒトという生き物が経験したことがないほど「個」の力が大きくなっているんだ。
SNSを始めとして俺たちは「言葉」という武器を手にしてしまっている。
そのことに無自覚なのは危険極まりない。
「言葉」はたった一言でヒトの命を奪うことだってあるんだ。
それだけの剣をあんたも俺も持っちまってんだ。
その自分の「個の力」ってのを把握していないと、その力がとんでもない方向に飛び出しかねないからな。
それは大人として避けなければならない。
そうしなけりゃ、守りたいものも守れない。
だから見直さなきゃならない。
「今」「ここで」だ。
ロールに振り回されていないか
役割や肩書は便利だ。
「部長です」「エンジニアです」「火消し担当です」と名乗れば、相手は勝手にある程度の期待値をセットしてくれる。
その期待に乗っかって、仕事も人間関係も高速で組み上がっていく。
でも、そのロールに真面目に応えようとすればするほど、いつの間にかロールに振り回されていることがある。
本当はこう言いたいけれど、「上司としては言えない」と飲み込む。
本当は帰りたいけれど、「リーダーとしては最後まで残るべきだ」と残業を選ぶ。
本当は別の仕事の方が燃えるのに、「この部署のエースだから」と言われて、やりたい仕事を後回しにする。
そうやって、「ロールにふさわしい自分」であろうとするうちに、どこかで「なんか違う」という違和感だけが積もっていく。
気がつけば、毎日のTODOリストは「急ぐけれど、大して大切じゃないこと」で埋め尽くされる。
「急がないけど、本当は大切だったこと」が、リストの端っこでカピカピに乾いている。
書いた時は「うし!やっつけてやっか!」と意気込んでいた時の輝きはもうそこにはない。
子どもとじっくり話す時間。
将来のための勉強や、書きたいと思っていた文章。
自分の心と体を整えるための習慣。
そういう「急がないけど大切なこと」が、後回しにされ続ける。
それが、「ロールに振り回されている状態」だとしたら、あんたはどう思う?
この本でやりたいこと
と言いながら、この本でやりたいのは、「ロールを全部捨てて自由になろうぜ」という話じゃない。
役割は、なくては困る。
役割があるからこそ、俺たちは毎回ゼロから探り合いをしなくても、そこそこスムーズに他人と関われる。
「先生」「お客さん」「店員」「先輩」「後輩」といった肩書は、人間関係のコストを下げてくれている。
問題は、「役割から逃げるか」「役割に従うか」の二択しかないように感じてしまうことだ。
本当は、もう少し選択肢があるはずだ。
ロールを“選び直す”。
ロールの“距離感”を変える。
ロールの“責任の持ち方”を設計し直す。
そして、スキのコアとの“接点があるロール”に、ちゃんとエネルギーを残す。
この本では、そんな「ロールの取捨選択」と「スキのコアとの距離」の話を、俺自身の経験をぐるっと回収しながら考えていく。
題材にするのは、だいたいこんなあたりだ。
学生時代に夢中になっていたテーブルトークRPGの話。
新人エンジニアとして壁一面のマニュアルと格闘していた頃の話。
2年かかる仕事を1年でやれと言われた現場の話。
TRIGUNやガンパレード・マーチ、進撃の巨人に救われた(あるいは呪われた)セリフたち。
原作を知らないあんたでも、その「祈り」のようなセリフはあんたが動き出す理由をくれるはずだ。noteで「香坂兼人」として書き続けている今の話。
どれも大した成功談じゃない。
むしろ、失敗や後悔や、「あれ、本当に良かったのか?」というモヤモヤに満ちたエピソードばかりだ。
でも、そのモヤモヤの底をかき回してみると、必ず「スキのコア」の断片が顔を出してくる。
そこに光を当てることで、「どのロールを残し、どのロールをそっと降りるか」という判断が、少しだけあんたの「スキのコア」の輝きを取り戻せるんじゃないか──。
そんな期待を込めて、この本を書いている。
この本の地図
ざっくり言えば、この本の流れはこんな感じだ。
第1章では、「夢中になっていたあの頃」と「今の仕事」の間にある共通点を探しながら、スキのコアの“種”を見つけにいく。
第2章では、「スキでも守りきれないライン」と、「仕事のしんどさとの折り合い」の話をする。スキは盾でもあるが、「ここから先は壊れる」というサインでもある。
第3章では、noteという場所で「香坂兼人」というロールをどう使っているかを題材に、「書くことで自分のロールを編集し直す」という話をする。
第4章では、「茨の道」と「自分で選んだ苦しさ」に焦点をあてる。TRPGで村人四十人分の人生を組み立てて全滅させた話を通して、「選ばないことの最悪さ」と「自分で選んだ茨の意味」を考える。
第5章では、「役割=プロトコル」「行間を読み合う人間関係」「ロールを降りることの意味」といったテーマをまとめて扱い、ロールを取捨選択する視点を整理する。
終章では、「すべてのロールを剥ぎ取った状態で、一枚だけ名刺を渡されたとしたら、あんたはそこにどんなロール名を書くか」という問いを投げかける。
それぞれの章の最後には、ちょっとした問いやワークを用意してある。
「自己啓発のワーク」と聞くと身構えるかもしれないが、やってみると意外と単純だ。
夢中だった瞬間を一つ思い出してみる。
「しんどいけど嫌いじゃない仕事」と「スキの皮をかぶった消耗仕事」を仕分けてみる。
今、自分はどんな“役”でnoteやSNSを書いているか考えてみる。
あえてしんどい方を選んだ経験を一つ挙げて、そのときどんなロールを演じていたか言葉にしてみる。
今のロールの中で、「降りてもいいロール」と「最後までMPを残しておきたいロール」を選ぶ。
全部やる必要はない。
どれか一つでも、手を動かして書き出してみてくれたら、それだけでこの本の役目の半分は果たせたと思う。
ちっと、あんたのスキのコアも覗いてみないか
ここまで読んで、「なんかちょっと面倒くさそうだな」と思ったかもしれない。
正直、その感覚は正しい。
自分のスキのコアなんて、普段は意識しなくてもそこそこ生きていける。
ロールに身を任せて、目の前の案件を片付け、気づけば一日が終わっている。
その繰り返しでも、生活は回る。
ただ、その生活がふとした瞬間に「なんか自分じゃない人生を生きている気がする」と感じるなら。
TODOリストの端っこで、ずっと同じ“大切なこと”が未完のまま残り続けているなら。
「このまま全部のロールに引っ張られていった先に、『あんたの人生でした』と言われて納得できるか?」という問いに、どこかで引っかかるなら。
一度くらい、自分のスキのコアの顔を覗き込んでみても、損はないと思う。
なあ、あんたはどうだい。
このままロールに振り回され続ける毎日と、
ロールを選び直しながら、自分のスキのコアにちゃんとMPを残しておく毎日。
あんたはどっちの方が、マシだと思う?
この本は、その「マシな方」を選ぶための、ひとつの物語だ。
俺自身のロールとスキのコアを材料にして、あんたがあんたのロールを選び直すためのヒントを、できるだけ正直に並べていく。
ちっと、付き合ってみてくれよな。
読み終えたあとに、『まあ、ちょっとはマシかもな』と思えたら、それで十分だ。
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