AIと一緒にSlack Botを作って、チームの「伝達ミス」をゼロにした話
はじめに
スタッフが増えると、口頭の依頼やチャットの伝言が抜け漏れる。
「○○の件、お願いします」とSlackに書いたのに、相手は気づいていない。Excelで管理しようとすると二重管理になる。誰が何をいつ依頼して、どこまで終わったのか、一覧で見えない——少人数のチームなら、どこでも起きている問題だと思います。
私は東京で税理士事務所を運営しています。スタッフ7名の小さなチームです。
確定申告期になると、1日に何十件もの電子申告を処理します。スタッフが申告書を作成し、私が e-Tax で電子送信する。この「送信依頼→送信完了」の管理が、ずっと課題でした。
そして同じ問題は電子申告だけではありませんでした。請求書の作成依頼も、電話の伝言も、すべてチャットのテキストで流れていく。「あの件、見ましたか?」「すみません、見落としてました」——この会話が毎週のように繰り返されていました。
この問題を、Claude(AI)と一緒にSlack Botを作ることで解決しました。
何を作ったか
Slack上で動く「チーム内の依頼管理Bot」です。/依頼 とコマンドを打つと、3つの種別から選べます。
📩 業務処理の依頼(うちの場合:電子申告送信)
スタッフがフォームで顧客・処理内容・オプションを選択して依頼。顧客は事務所のkintone(顧客管理アプリ)から150件超をリアルタイム検索できます。依頼はチャンネルに自動投稿され、管理者のホームタブにはダッシュボードで未処理一覧が表示されます。処理が終わったら「✅ 完了」ボタンをワンクリック。依頼したスタッフにはDMで自動通知が届きます。
繁忙期向けに一括依頼機能も用意しました。
1001【A社 代表者】所得税
1002【B社 代表者】所得税 消費税
1003【C社 代表者】所得税 消費税
この形式でまとめて入力すれば、一度に数十件の依頼を投稿できます。
📝 社内の作業依頼(うちの場合:請求書作成)
顧客・内容・金額・税区分をフォームで入力して依頼。担当者が「✅ 完了」を押すと依頼者に自動通知。関連システムのURLも貼り付けられるので、情報への導線も一本化できます。
📞 電話伝言
電話を受けたスタッフが、相手の名前・電話番号・伝言先・折り返し要否・伝言内容をフォームで入力。投稿と同時に伝言先のスタッフにDMで自動通知が届くので、チャンネルを見ていなくても伝言が届きます。
🔔 メンション見落とし防止
もう一つ解決したかった問題がありました。業務連絡チャンネルで自分宛にメンションが来ても、移動中や他の作業に集中しているときに見落とすことがある。スタッフは仕方なくDMで再連絡してくる。
そこで、監視対象チャンネルで自分宛のメンションのうち、リアクションも返信もしていないものを1日2回DMでリマインドする機能を追加しました。通知時刻の変更や一時停止もSlack上から操作できます。
なぜ自作したのか
「タスク管理なら既存のツールでいいじゃないか」と思われるかもしれません。
たしかに汎用ツールでもできます。でも、どんな職場にも自分たちの業務に固有の項目があります。うちの場合は税目や納付方法の選択肢。電話伝言にしても、「折り返し要否」と「緊急度」が構造化されているだけで、後の対応スピードがまったく違います。
フォームの選択肢に自社固有の項目を入れられるのは、自作だからこそです。そして、Slackの中で完結するので、スタッフに新しいツールを覚えてもらう必要がありません。
AIとの開発プロセス
開発はClaudeとの対話で進めました。コードは1行も自分で書いていません。
最初にやったのは、事務所のSlackチャンネルでの実際のやり取り(約2,500行分)をClaudeに読み込ませることです。「こんな感じでテキストベースの運用をしている。これを構造化したい」と。
AIはメッセージのパターンを分析し、電話伝言のフォーム項目や作業依頼の典型パターンを実データから推定してくれました。現場の運用をそのままシステムに落とし込めたので、スタッフにとっては「今までチャットで書いていたことをフォームに入れるだけ」という感覚で使えています。
v1からv5まで、2週間で進化させた
面白いのは、最初から完成形を作ったわけではないということです。
v1:最小限の依頼フォーム。まずこれを実際にデプロイして使い始めた
v2:顧客管理システムと連携。150件超の顧客をリアルタイム検索可能に
v3:繁忙期に備えて連続入力機能を追加。前回の入力値を残して次の依頼へ
v4:DM通知の不具合を修正
v5:作業依頼・電話伝言を追加して統一コマンド化。メンション未対応リマインド
v1を動かし始めてからv5が稼働するまで約2週間。毎回、Claudeに「こういう機能がほしい」「ここが使いにくい」と伝えるだけで、数十分で新しいバージョンが生成されました。
デプロイでつまずいた話
もちろん、すべてがスムーズだったわけではありません。
最初は事務所のNASでDockerを使おうとしましたが、エントリーモデル(ARM系CPU)でDockerが使えませんでした。結局、別の場所に置いてあるNAS(Intel系CPU)のDockerで動かしています。
ちなみに、BotはPython(Slack Bolt フレームワーク)で書かれています。ただし、私自身はPythonのコードを読み書きしたわけではありません。AIが生成したコードをDockerコンテナに入れて起動するだけ。Dockerのおかげで「Pythonのバージョンが合わない」「ライブラリが入らない」といった環境構築の悩みがなく、コードをフォルダに置いて docker compose up と打てば動きました。プログラミング言語を意識しなくてもシステムが動く——これはDockerとAIの組み合わせならではの体験です。
Slack APIの設定で、パラメータに空文字を入れるとエラーになる、表示名に日本語が使えない、という罠にもハマりました。Docker Composeの設定ではテキストエディタの文字コード問題で環境変数が読めなくなったり。これらもすべてClaudeとの対話で解決しました。
技術的なトラブルシューティングも含めてAIに任せられるのは、非エンジニアにとって大きな安心感です。
導入してどうなったか
2026年3月の確定申告期から実運用を開始しました。
業務処理の依頼管理:繁忙期に約80件を処理。チェックリストへの転記が不要になり、4〜7時間分の作業を削減
電話伝言:電話番号や折り返し要否の記載漏れがゼロに。伝言先へのDM自動通知で「見てなかった」事故がなくなった
作業依頼:テキストの自由記述から構造化フォームに移行し、確認の往復が激減
メンション見落とし:リマインド導入後、スタッフからの「DMで再連絡」がほぼなくなった
数字以上に大きいのは、「ちゃんと伝わっているだろうか」「見落としていないだろうか」という不安がなくなったことです。チーム全体のコミュニケーションの質が上がった実感があります。
月額コストはゼロ
手持ちのNAS上のDockerコンテナとして稼働しているので、サーバー費用はかかっていません。Slack APIも無料枠の範囲内。kintone連携のAPIも追加費用なし。
NASが再起動しても restart: always の設定で自動復旧します。月額コストゼロで運用できるのは、小さなチームにとって大きなメリットです。
小さなチームこそ仕組み化が効く
人数が少ないからこそ、一つの伝達ミスが全体に影響します。そして人数が少ないからこそ、大がかりなシステムは導入しづらい。
今回のSlack Botは小さな一歩ですが、「AIと一緒に自分の業務を改善できる」という体験は、次のステップにつながると確信しています。
プログラミングの経験がなくても、自分の業務を一番理解しているのは自分です。AIが「どう作るか」を担い、人間が「何を作るか」を判断する。この役割分担さえ間違えなければ、業務システムは誰でも作れる時代が来ています。
同じような課題を抱えている方——士業事務所でも、少人数の会社でも——の参考になれば幸いです。
鎌原輝明税理士事務所
