『続グッド・バイ』清算(三)
「それで、一体どうなさるんですか?」
アツ子は、ようやく口を開いたが、その声はほとんど聞こえぬほど弱々しかった。田島は、この一瞬を待っていた。この無力な問いかけこそ、虚構の最大の効果を示すものだと知っている。彼は、用意しておいた台詞を、低い、悲痛な声で語り始めた。
「私は、もう何もかも失った。財産は尽き、闇の仕事からも足を洗った。これからは、この妻と共に、文字通り、その日その日の暮らしをする。泥水でも啜るつもりだ。」
彼は、キヌ子の汚れた着物、アツ子の地味な洋服、そして己の背広とを対比させた。そして、最も肝心な部分を、ゆっくりと、しかし感情を込めて口にした。
「君との関係を続けるわけにはいかない。君は、私と違ってまだ若い。希望がある。泥の中に引きずり込むことは、私の律儀が許さない。どうか、私のことは忘れて、君の人生をやり直してくれ。」
アツ子は、俯いたまま、膝の上で手をきつく握りしめている。田島は、彼女がすぐに泣き出すか、あるいは金銭的な援助を求めるかと予想していた。しかし、アツ子は、ふいに顔を上げた。彼女の目は、泣いてはいなかった。その眼差しは、冷たく、そして田島を貫くように真っ直ぐであった。
「田島さん、そうやって私のことを『泥の中に引きずり込む』などと、あなたはひどい言葉を使いますね。あなたは、私がそんなに弱く、汚い人間だと思っていらしたのですか?」
アツ子は、田島の虚構の言葉を、田島自身の道徳的な自罰として受け取った。彼女は、隣に座るキヌ子をもう一度見て、静かに問いかけた。
「…この方が、あなたの新しい妻。あなたが、新しく選ばれた、清い生活の象徴なのですね。」
【続】
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【原作】
太宰治『グッド・バイ』(新潮文庫、1972年)
【小説/画像】
Geminiで生成しました。
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