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『続グッド・バイ』清算(一)

 キヌ子という「完全兵器」をもって、田島は、青木さんの諦念、ケイ子の兄の障害、サチコの社交上の体裁、ハルミの熱情の絡みの四つを乗り越えた。しかし、次に待ち受ける「清算」の難関は、これまでで最も根深く、彼自身の道徳的な律儀と、過去の放蕩の清算を迫るものだった。
 五人目の愛人は、アツ子という、銀座のカフェーの女給であった。彼女は、頼りにしてきた男と共に田舎から上京したものの、その関係に破れ、都会で孤独に溺れていた。田島は、カフェーで彼女の身の上話を聞き、その寂しさに共感(あるいは利用)する形で、愛人関係を持った。
 アツ子との関係は、田島が最も深く熱を上げ、そして最も多額の金銭を投じたものだった。田島は、闇商売から足を洗うことを決意し、妻との落ち着いた生活へ回帰しようという意図が芽生えた今、このアツ子との関係が最大の過去の罪であり、彼女の生活を援助するという自身の道徳的な義務(律儀)が重くのしかかった。彼は、無責任な行動によってアツ子を極度の窮地に追いやったという罪の重さが頭から離れない。
 彼は、キヌ子という「新しい美」が、この金銭の重さと、己の無責任さの清算まで果たしてくれるとは、到底思えなかった。
 田島は、アツ子を呼び出すための手紙を書いた。別れの口実として、彼は、自分はすべてを失い、キヌ子という「新しい妻」と極貧の生活を始めるのだ、という虚構を記した。アツ子は、傷ついた心を抱えながらも、孤独を紛らわし自立した生活を送るためにカフェーという働き場所を選んだ女性である。貧困という虚構を突きつければ、必ず別れを受け入れるだろう。田島がキヌ子に求めたのは、ただ一つ、「できる限りみすぼらしい格好」でいることだった。
【続】

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【原作】
太宰治『グッド・バイ』(新潮文庫、1972年)
【小説/画像】
Geminiで生成しました。
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