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『続グッド・バイ』虚勢(ニ)

 田島は、キヌ子を連れて、小説家の妻であるサチコが住む堂々とした白い洋館の門をくぐった。サチコが選んだ場所は、郊外の、静かだが隣人たちの眼の多い住宅地である。愛人との密会に、なぜこれほどまで世間体を気にする場所を選ぶのか、田島には理解できなかったが、それが彼女の「虚栄心」そのものなのだろう。
 田島は、玄関先でキヌ子の横顔を見上げた。夕暮れの光を浴びたその輪郭は、彫刻のように美しく、そこに立つだけで周囲の空気が清浄化されるような、近寄りがたい完璧さがあった。キヌ子との対比は、田島をさらに卑屈に見せるが、彼女の美こそが、今日の彼の「虚勢」を成立させる唯一の柱なのだ。
 サチコは、玄関で田島たちを出迎えた。彼女の顔には、突然の訪問と、横に立つ異様な美女への驚きがはっきりと浮かんでいた。彼女は、田島を室内へ招き入れる前に、きょとんとした眼差しでキヌ子を上から下まで値踏みするように見つめた。その表情は、嫉妬というよりも、純粋な好奇心と、自分の生活圏に侵入してきた「異物」への警戒の色が濃かった。
「あら、どなた、この美しい方は?」
 田島は、内心では冷や汗をかきながらも、最大限に声を張って、傲然(ごうぜん)と答えた。
「君に紹介するほどの者ではない。私の一番大切な、新しいパートナーだ。」
 田島は、キヌ子の肩に手を回そうとしたが、彼女の硬い肉体と、そこから発せられる緊張感に気圧(けお)され、その手を引っ込めた。キヌ子は、まるで展示されている美術品のように静かに立っているだけで、田島の一切の感情的な動きを許さない。
 サチコは、その田島の不自然な動きと、キヌ子の完璧な無表情を交互に見て、何かを悟ったようだった。彼女は、それまで見せていた驚きの表情を、一瞬で洗練された無関心に切り替え、二人にサロンへ入るよう促した。
【続】

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【原作】
太宰治『グッド・バイ』(新潮文庫、1972年)
【小説/画像】
Geminiで生成しました。
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