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『続グッド・バイ』清算(ニ)

 田島は、アツ子との面会場所として、新宿の場末にある、わざと人目に付きにくい、古びた二階建ての喫茶店を指定した。人目を避けたのは、もちろん、キヌ子という「切り札」を、彼の華やかな交友関係から遠ざけておくためである。田島は、キヌ子に、手紙で指定した通り、薄汚れた着物、擦り切れた帯、そして足元には古風な下駄という、徹底した貧困の装いを命じていた。
 田島が喫茶店の二階に腰を下ろし、キヌ子と無言で待つこと十五分。階段を上ってくる、ゆっくりとした足音が聞こえた。
「田島さん…」
 アツ子の声は、不安と、どこか諦めを含んだ響きを持っていた。彼女は、田島とキヌ子の姿を一瞥すると、一瞬、その場に立ち尽くした。田島は、アツ子がこの二人の姿から受けた衝撃を、肌で感じ取った。
 アツ子は、田島が想像していたような華美な装いではなかった。黒の地味な洋服に、化粧も薄い。それは、彼女がカフェーでの華やかな生活の裏側で、自立と孤独の間で日々を送っていた証だった。しかし、その服装をもってしても、キヌ子の極度の清貧と並べば、アツ子の生活はいかにも贅沢なものに見えてしまう。
「まさか、これが本当の…」
 アツ子は、田島の向かいの椅子に腰掛け、力なく呟いた。その視線は、田島ではなく、田島の横で微動だにせず、窓の外の雲を見つめているキヌ子に向けられていた。アツ子の表情は、怒りよりも、深く冷たい悲しみに覆われていた。
 田島は、キヌ子の横顔を見た。キヌ子は、相変わらず無関心な美貌を保ちながら、その視線で「貧しさの虚構」を完璧に演じ切っていた。彼女の存在は、アツ子の心に、田島が書いた手紙の内容(すべてを失ったこと)が真実であると、有無を言わせず刻みつけていた。
【続】

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【原作】
太宰治『グッド・バイ』(新潮文庫、1972年)
【小説/画像】
Geminiで生成しました。
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