『続グッド・バイ』未練(ニ)
ハルミは、郊外の一角で、小さな洋服店を営んでいた。田島との関係が始まったのは、彼が「オベリスク」の仕事でハルミの店に立ち寄ったのがきっかけだった。当時は、彼女の控えめな商売ぶりと、内に秘めた情熱に惹かれたものだが、今ではその情熱が、田島を捕らえて離さない泥沼と化していた。
田島は、キヌ子を連れて、日曜日の開店直後の店を訪れた。
店の奥で作業をしていたハルミは、田島と、その隣に立つキヌ子を認めるなり、その場に釘付けになった。彼女の顔は、一瞬にして血の気が引き、次に激しい怒りと動揺の赤色に染まった。それは、サチコが見せたような洗練された無関心ではなく、田島に対する剥き出しの裏切りへの反応だった。
「あ、あなた、誰を連れてきたの!」
ハルミは、洋服を裁(た)つための鋏(はさみ)をカウンターに叩きつけ、半狂乱の声で田島を詰った。
田島は、この激情こそが、自分の計画に必要だと確信した。彼は、キヌ子の任務を思い出し、冷徹な仮面を貼りつけた。
「この方は、私の一番大切な人だ。君とはもう、別れたいのだ。」
ハルミは、田島の言葉をほとんど聞いていなかった。彼女の視線は、全てキヌ子に集中していた。彼女は、キヌ子の完璧な美しさ、そしてその存在が、田島との過去の愛をまるで「存在しなかったこと」に塗り替えてしまうことを本能的に悟っていた。
ハルミは、キヌ子の前に歩み寄り、その顔を間近で見つめた。そして、まるで自分の運命を否定するように、キヌ子の美しさに抗うべく、震える声で尋ねた。
「この方が、私より素敵だというの? この方が、私より、貴方のことを深く愛しているというの?」
田島は、ハルミの瞳の中に、過去の愛の日々のすべてが焼き尽くされようとしているのを見た。キヌ子は、相変わらず無表情で、ハルミの問いかけに、無言のままその完璧な美を晒していた。
【続】
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【原作】
太宰治『グッド・バイ』(新潮文庫、1972年)
【小説/画像】
Geminiで生成しました。
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