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『続グッド・バイ』告発(ニ)

 ミヨとハツは、一通りの話が済んだ後、二人きりになれる場所へ移動した。この奇妙な共通の被害者意識は、互いの素性や立場を超えた強い連帯感を生んでいた。
「これで、私たち二人が、田島さんが同じ筋書きで関係を終わらせようとしている愛人だと確定しました。ですが、あの人がこれだけで済むはずがない。まさか、私たち二人以外にも、同じように終わらせようとしている人がいるんじゃないかしら?」
 ハツの言うことに、ミヨも同意した。
「そうなのよ。私もそう思っている。私たちだけが馬鹿にされたんじゃないって、あの人に思い知らせてやりたいわ。」
 二人が田島について話しているうち、ハツの記憶の底から、ある「言葉」が蘇った。それは、先日田島が酔って寝言のように口ずさんでいた、寂しげな詩の一節だった。

愛(かな)しきは 煙草の煙 天に昇り 我が身は地に 這いつくばるる

「……あの時、田島さんは確かにそう呟きました。私、どこかでこの詩を読んだことがあると思っていました。それは、ある女性詩人が同人誌にひっそりと発表したばかりのものだったのです。」
 ハツは確信を込めて続けた。
「あの田島さんが、有名でもない詩人の、それも発表されたばかりの句を空で覚えているなんて、不自然でしょう? 彼がその店に通い、その女性の言葉を枕元で聞いている以外に、理由は考えられません。」
 ハツは、同人誌には作者の住所が書かれていたことを思い出し、それを調べた。そこに記載されていたのは、銀座の路地裏にある小さなバーの住所だった。
 その女性こそ、八人目の愛人、秋田さんだった。秋田さんは、知的な詩人としての顔を持つ一方で、生活のためにバーのマダムを務めていた。田島とは同い年で、互いの孤独を理解し合っている関係だった。
「ミヨさん、あなたから接触してもらえませんか。あの人は、私たちとは違う、非常に繊細な立場の人間です。あなたなら、その境遇の近さから、秋田さんの心に入り込めるはずです。」
 ミヨはハツの鋭い提案に頷いた。ミヨ自身、不安定な生活基盤を持つ女優であり、秋田さんの「詩人でありながら水商売」という境遇が通じ合うかもしれないと感じたのだ。
 翌日、開店前の昼下がりに、ミヨは秋田さんのバーを訪ねた。突然の訪問者に、秋田さんはマダムとしての冷ややかな警戒心を露わにした。しかし、ミヨが田島の名を口にし、あの「煙草の詩」を静かに暗唱した瞬間、秋田さんの表情が一変した。それは、自分の魂の一部を他人の口から聞かされた動揺だった。
 ミヨは何も弁解しなかった。ただ、田島に翻弄された自身の悲哀を、その詩の響きに乗せて秋田さんに見せただけだった。言葉の裏にある感情を鋭敏に嗅ぎ取る詩人としての本能が、目の前の美しい女性が敵ではないことを告げていた。
「……お入りなさい。お茶でも淹れましょう」
 秋田さんは短くそう言い、鍵を開けた。薄暗い店内で、ミヨは、まだ何も知らぬ秋田さんに向けて、田島がこれから彼女にも突きつけてくるであろう「貧しい妻とやり直す」という筋書きを、慎重に語り始めた。
【続】

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【原作】
太宰治『グッド・バイ』(新潮文庫、1972年)
【小説/画像】
Geminiで生成しました。
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