『続グッド・バイ』未練(三)
ハルミは、床にへたり込んだまま、もう叫びもせず、ただ顔を覆ってむせび泣き続けていた。その泣き声は、洋服店の閑散とした空間に響き渡り、田島の耳には、彼が過去にハルミへ注いだ愛、そしてその愛が今、いかに無残に裏切られているかという責め苛む残響のように聞こえた。
田島は、これ以上この場に留まることが、ハルミの苦しみを長引かせ、自分の罪を重くするだけだと悟っていた。しかし、彼は、ハルミのそばに寄り添うことも、優しい言葉をかけることもできない。彼の使命は、別れること、そして別れを成就させるためにキヌ子の「美」を最大限に利用することだった。
田島は、キヌ子の腕を掴み、小声で促した。
「キヌ子さん、行こう。」
キヌ子は、まるで田島の言葉を聞いていなかったかのように、しかし、常に彼の動きの一瞬後に、静かに足を動かす。二人は、泣き崩れるハルミの前を、無言のまま通り過ぎた。
その時、ハルミは、顔を上げず、しかし、はっきりと聞き取れる声で、田島に最後の言葉を投げつけた。
「田島さん!あなたは、過去を棄てるのね!私との、あの楽しかったすべての時間を、なかったことにするのね!」
田島の背中に、重い鉄の塊が打ちつけられたような衝撃が走った。そうだ、彼がキヌ子という「過去を否定する美」を連れてきたのは、まさにその「過去の抹殺」のためである。しかし、その行為が、どれほど残酷で、人間として許されない行為であるかを、ハルミの呪いのような問いかけによって、彼は初めて突きつけられた。
田島は、振り返らなかった。振り返れば、彼の虚勢は完全に崩壊し、彼は再びハルミの泥沼のような愛に引きずり込まれるだろう。彼は、ハルミの叫びを、自らの破滅への代償だと心の中で呟き、キヌ子と共に店を出た。こうして、過去への未練を断ち切るという、最も痛ましい別れが完了した。
【続】
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【原作】
太宰治『グッド・バイ』(新潮文庫、1972年)
【小説/画像】
Geminiで生成しました。
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