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"EQを意識すること"のすすめ

社会に出れば仕事を通じて様々な機会が拓けると同時に困難にも直面する。私生活でも一生の伴侶と出会い家族を持つことも視野に入る。仕事でチームの一員として好機を活かし困難を克服し成果を拡げるために、また私生活でもいろいろな人との良き繋がりを結ぶために必要なのが感情の知性、"EQ"である。学生時代は主にIQによって評価されたがEQは試されていない未知の能力である。自己のEQについて理解を深め、人との関わりの中で感情の知性を発揮するために『EQ~こころの知能指数』をおすすめする。

学校の秀才、必ずしも企業の秀才ならず

私が新人研修を受けたときの話です。講師の次のような講義が印象に残っています。
「君たちは、これまでの成績はペーパーテストで評価されてきた。学校ではIQがものを言う。IQは"Ability"、すなわち独りで発揮される能力の典型である。これからはむしろ"Competence"が問われる、これは人との関わりの中で発揮される能力である。」
「学生時代はカンニング御法度であるが、むしろこれからはカンニング能力が大事、自分独りで1週間かけて問題を解決するよりも、他人の力を上手に借りて1日で解決するほうがはるかに価値が高い。」
「学校の秀才、必ずしも企業の秀才ならず」

実際その通りで新人時代から中堅、管理者と経験を重ねる中、仕事で社内外の多くの人とうまく関わり、他人の力を借りることの重要性への確信を深めました。

対照的な二人の新人

そうして会社勤めも10年を過ぎた頃のことです。会社の新人研修のトレーナーを務めることになりました。初めての経験ということもあり、私が受け持ったチームの中で対照的な二人の新人のことが強く印象に残っています。

仮にA君、B君としておきましょう。

A君は国内有数の難関国立大学卒。いわゆるIQが高く、研修内容の飲み込みが早く、やる気に満ちあふれ研修に取り組む姿勢も非常に熱心でした。ただ人間関係の構築はあまり得意でなく、同じグループのメンバーとも明るく接してはいたものの、どこかちぐはぐなコミュニケーションでした。

B君はある地方の私立大学卒。講義内容の知的理解はやや心もとない面がありましたが、やはり研修に積極的に取り組むことに変わりはありません。彼は一言で表すと「熱い男」、とにかく声が大きく熱血漢でグループ・メンバーとの関わりも人なつっこく明るい人物で存在感があります。

やがて新人研修も終え、両君とも希望に燃えて営業部門に配属されましたが、仕事ぶりや業績ははっきりと明暗が分かれていきました。

B君は配属早々から営業成績を上げ、お客様からの信頼も厚く順風満帆でしたが、A君はさっぱり業績が上がらないどころか、たびたびお客様とトラブルを起こしクレームが頻発する事態となりました。意欲は高いのですが、どうもやる気が空回りするらしく、お客様の心の機微を汲み取るのが苦手なようでした。

対人コミュニケーション能力は研修でも体験学習で学び、先輩や上司もOJTに努めましたが、その甲斐なくA君はお客様との対面コミュニケーションのない部署へと配置替えとなりました。異動はA君としては不本意なものであり、力になれなかったことを今でも申し訳なく思っています。

二人の対照的な姿を比べた場合、IQ的な知的"Ability"、すなわち独りで発揮される能力では明らかにA君が優っているのですが、人との関わりの中で発揮される能力である"Competence"が決め手となり、B君に軍配が上がった結果と言う他有りません。

優れたリーダーの共通点

鉄鋼王カーネギーの自負

特に新人のうちは自分独りでできることは限られており、教えを請う、相談する、助力を得る等、上司や先輩の力をうまく借りることが必須の能力です。
人の力を借りる天才という点では、鉄鋼王カーネギーは学ぶべき先人です。カーネギーの名は、今日カーネギー・ホール等の存在でも広く知られていますが、彼の自負は優秀な人間を自らの下に集めて力を発揮させることでした。

"鉄鋼王アンドリュー・カーネギーが自らの墓碑銘に刻ませた「おのれよりも優れた者に働いてもらう方法を知る男、ここに眠る」との言葉ほど大きな自慢はな い。 成果をあげるための優れた処方はない。"(注*)

P.F.ドラッカー著 , 上田 惇生 訳『経営者の条件』2006,p.104

カーネギーは他にも多くの人の力を借りることの重要性を説いた名言を遺しています。

"すべてを自分でやりたがり、すべてを自分の手柄にしたがる人は、偉大なリーダーにはなれない。"
"他人と最もうまく協力できる人が最大の成功を収めることになる。"
"成功の秘訣は、自分で仕事をするのではなく、仕事をさせる適材を見つけることだ。"
"人間は、優れた仕事をするためには、自分一人でやるよりも、他人の助けを借りるほうが良いものだと悟ったとき、偉大なる成長を遂げる。"
"家族や友人や同僚のやる気を起こさせる唯一の方法は、協力したいと思わせることだ。そして、感謝して正当に評価することと、心から励ますことなのである。"

『名言の響き』名言の響き編集部https://meigen-hibiki.net/andrew-carnegie/

開発チーム・リーダーに必要な条件

かつて、あるメーカーのご依頼で「開発チーム・リーダーに求められる能力・行動特性(Competncies)」を調査したことがあります。
多くの開発部門の方々にご協力をいただき「優秀な業績を上げている開発リーダー(ハイパフォーマー)」のモデルを作成しましたが、そこで明らかとなった能力・行動特性(Competncies)は意外なものでした。
調査の前、素朴に開発部門のリーダーだから、やはり創造性、アイディアの発想力は不可欠かなあなどと思っていましたが、実際に優秀な業績を上げている開発リーダー(ハイパフォーマー)は、そういう能力は特に秀でてはいなかったのです。
調査で明らかになった、高業績を上げている優秀な開発部門のリーダーの能力・行動特性(Competncies)は以下のような項目でした。

  • メンバーの話をよく聴く傾聴力

  • メンバーをアイディアを引き出し勇気づける力

  • チーム内の意見交換、議論を活発にするファシリテーション力

開発部門の欠くべからざる機能である創造性はというと、確かに創造性あふれるリーダーも少なからず存在したものの、自らの創造的能力にこだわりが強すぎるリーダーは、むしろそれが弊害となる面もあり安定して高業績を上げている人は存在しなかったのです。

個人として創造性が高いと自他共に認めるが、業績を上げていないリーダーには次のような特徴がありました。

  • メンバーの意見を即断しアイディアを殺して部下の感情を傷つける

  • メンバーへの評価が低く、自己の考えに固執し異なる意見を排除する

  • 会議は指示、メンバーからの報告に終始し、メンバー相互の議論が乏しい

このように開発部門のリーダーでさえ、カーネギーの言う「おのれよりも優れた者に働いてもらう方法を知る」人間が優れたパフォーマンスを発揮することを示す証左と言えるでしょう。

あなたの未知の力"EQ"の自覚と活用のすすめ

私も中堅、管理者とキャリアを進めるにつれ、これらの人と関わり人の力を引き出す力は一層求められるようになり、その過程で感情の果たす役割の大きさも痛感しました。
どちらかというと感情表現が控え目だった私は、ときとして冷たい印象を与えることに気づかされたのです。研修や多くの失敗経験から学び、お客様や部下とのコミュニケーション等、相手の気持ちへの感受性を敏感に働かせること、意識的に感情表出を豊かにすることを心がけたつもりです。

会社づとめも10年を過ぎた頃の1996年に
『EQ~こころの知能指数』という本が翻訳、出版され、日本でもベストセラーになり、今では"EQ"という言葉は日本でも定着した観があります。

『EQ~こころの知能指数』という本は新社会人の皆さんが、これまであまり評価を受ける機会が無く、従って自覚も希薄であったかもしれない「感情に関する知性」に目を向けさせてくれます。

もし仕事を辞めたくなったら

社会に出れば仕事を通じて様々な機会が拓けると同時に、多くの困難にも直面します。私は仕事柄いろんな会社のトップやリーダー的ポジションの方々にお目にかかる機会をいただいてきましたが「会社を辞めようと思ったことがある」という経験のない方には一度もお会いしたことはありません。

縁起でもない話をするようですが、多分新社会人の皆さんもそういう困難な場面にも一度ならず直面すると思います。常に楽観的展望を持つと同時に、最悪のリスクを想定し予め備えを怠らないことが仕事においては肝要なことです。

情動の奴隷でなく感情の御者となる

もし「仕事を辞めたい!」という気持ちになったとき、この"EQ"という概念を理解し、自己の「感情」をメタ認知(自分の思考や行動、感情などを客観的に捉えて理解する能力する)する知性を発揮することが役に立ちます。
せっかく自ら選んだ仕事や会社を、一時の感情の爆発で衝動的に辞めるのは本当に惜しいことです。

これは何も石の上にも三年、ひたすら我慢しろということではありません。むしろ不公正な処遇を受け改善の見込みがないとか、明らかに自分の適性がないとか、他にどうしてもやりたいことが見つかった場合等は、いたずらに躊躇せず辞めるべきと考えます。

しかし一生の仕事と思い定めた仕事の機会を、一時の怒りや悲しみで衝動的に「辞めてやる!」ということは思いとどまってほしいのです。

一時の情動の奴隷となるのではなく自己の感情を上手にコントロールする御者となってほしいということです。

私生活に"EQ"を活かす

私生活でも個人によりますが、一生の伴侶と出会い家族を持つことも視野に入ってきます。私生活でもいろいろな人との良き繋がりを結ぶために必要なのが感情の知性、"EQ"です。とりわけパートナーをはじめとする家族と良き関係をつくるには、仕事以上に感情の知性を発揮することは重要です。

"EQ"の発揮により家族との良好な関係を育み、私生活の充実させることは幸福感を高め、仕事の生産性やメンタルヘルスとも相関が強く、私生活と仕事とWin-Winのスパイラルを構築し総合的な幸福度を高めることが期待できます。

影響力を発揮するために"EQ"を活かす

新人のうちは、まず仕事のチームの一員として良きフォロワーとなることが必要となるでしょう。しかしやがては組織のリーダーになったり、個人として社会的、経済的、分化的影響力を発揮する立場となることを視野に置くことは素晴らしいことです。

その際も影響力を発揮するために"EQ"を活かすことは重要な能力です。私の知り合いでも個人として素晴らしい能力を持っているのに、それを発揮する機会になかなか恵まれない人が少なくありません。むしろそういう人の方が多いと言っても過言ではないのが現実です。

他人と積極的に関係を結び、影響力を発揮する上で"EQ"は欠かせない能力です。ぜひ『EQ~こころの知能指数』を手にお読みになることをおすすめします。

(注*)カーネギーの実際の墓碑銘には刻まれていない。
以下カーネギー・ホールのHPより引用。
In a 1901 speech in Hoboken, in which he presented the Stevens Institute of Technology—where he was a trustee—with a new engineering laboratory, Carnegie stated that he wished to have his tombstone inscribed with the words, “Here lies a man who knew how to enlist in his service better men than himself.” This did not happen; instead, chiseled into the base of a simple Celtic cross is the following inscription:
https://www.carnegiehall.org/explore/articles/2020/08/11/here-lies-a-man

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