古道の大神と犬の姫 四ノ十二 -狼狩-

 お万が灰色の狼の遠吠えで起きるよりも前のこと
まだまだお天道様も出ていない真っ暗闇の中
狼狩が、動き出す

「あぁーあっ、眠っみ!」
大きなあくびをする新兵衛
槍を担いで、少々の荷物を背負って、闇夜の森の中を歩く
新兵衛は一時的に投獄を解かれ、巻き狩りに参加させられていた
「ガッハッハッ
 そなた、昨晩夕食を食ってたらすぐに寝ておったろう」
「酒もねぇから寝つきが悪いんだよぉ」
「困った男じゃわい笑」
「ところで爺さん、狩りは?」
「・・・先代の、まだ鷹狩が禁止されていなかった頃には良くお供した」
「へぇーえ
 しっかし、その年でこんな早くから駆り出されるたぁなぁ
 もっと生類憐れんでくれってなぁ!」
「ガッハッハッ!」
「ヘヘッ・・・
 でも爺さんもっ、楽しそうじゃねえか」
「うむ
 そうだな・・・・・
 戦の世が終わり、武功を上げる場を失ってワシも不満が無いわけでは無いからのぅ・・・」
「へぇ・・・」
「不本意な形ではあるが、山犬を討ち取ってあの若殿の為に奉公できるのであれば、それは誉よ」

 不本意な形での参加となったこの男
御犬に刀を抜いた罪で投獄され、獄中で新兵衛と知り合ったあの男である
身長は150センチメートル弱
髪型は武士らしいちょん髷を結わえているわけでもなく、むしろ新兵衛に近い髪型
後頭部で髪を束ねるだけで荒々しい
顔はシワの深い土色の肌と、口の周りから耳までつながる白髭
まるで令和のサンタクロースのような立派な白髭である
 もう引退して隠居生活であった翁であったが、密かに心を燃やしていた

「ハハハッ、オレも楽しみだ!
 今や武家など只の役人!
 武芸の腕の見せ場など殆ど無いからな!」
「役人か・・・
 誠にな
 しかしおぬしはここの國の者では無かろうに」
「ん?そうだが?」
「何か、殿に恩義でも?」
「いや!オレの楽しみだ!!」
「ふっ、全く
 しかしそれも良かろう」
そこに

 「これ、そこの二人!
 あまり大きな声を出すな!」

馬上から指揮役が静かに制して、駆け寄る
「あぁ?・・・眠くてよぉー」
「ガハハッ」
「ん?その声・・・」
と言って、馬上の男が暗がりの翁の顔を覗き込むように見る
「・・・これはこれはまさか、御用人の虎杖様で御座いますか?」
「あぁそうじゃ」
「あいや失礼!
 暗闇故、お姿が確かではありませんで・・・」
「構わんよ
 もう御用人も過去の事
 そして此度は一人足に過ぎんでのぅ」
「それはそれは・・・
 本日は、宜しくお願い致します!!」
「うむ
 共に励もうぞ」
「はっ!!」
そう言って指揮役は少し慌てるように速足で馬を進めて、先の闇に消えた・・・

 新兵衛が聞く
「・・・じゃあんた、ここの殿様の、元側用人ってことかい?」
「昔の話じゃ」
「ハハッ!そりゃぁいいねぇ!
 しかし、側用人まで投獄とはなぁ」
「殿は身分や位など気にはせん
 成らぬ物は成らぬ!と、周りにも、自身にも厳しい御方じゃ」
「へぇ・・・」
「ワシはそういったとこも好きでのぅ・・・」
「・・・」
「若いが、高い志も必要じゃ」
「高い志ねぇ・・・」
「うむ」
「・・・じゃぁよ!どっちが狼を多く狩るか、腕比べといこう!」
「ガッハッハッ!
 良いのう!気持ちの良い漢じゃ!!」
 やがて、少しずつお天道様が顔を出し、お互いの顔が分かるようになって来た・・・

 新兵衛達は目的の化野原のおおよそ西側に位置する村で前日から一泊していた
その村に集められた黒や茶色や深緑の装束をまとった男達、約三百
主に槍で武装する

 各地各所、同じように化野原の四方八方を囲むようにして集められた総数七千と二百
多くは近隣の村から集まった農民であった
狼害に合った者はもちろん、化野原に因縁のある者の数は想像以上に多く、数は容易に集まった
中には化野原に稚児の頃に捨てられて運良く生き延びたような者も・・・
想いは、それぞれである



 化野原のおおよそ南側
若殿も鷹狩りの装いではなく、しかと鎧兜姿で現れ前線で指揮を執る
 当然鎧兜など無用の長物
しかしそれは大乱の世の中で化野原の野へと還った者達への敬意の現れ
そして大乱の世に生んでしまった悪習を終わらせる、覚悟の現れであった



 そしておおよそ東側
森で囲まれた化野原を見渡せる標高の高い尾根に構えるのが狼狩奉行、お万の父
左右には二柱の白い御犬様
凛として、狛犬のように構える
そして背中には富士の頂と、御神域の杜、"古道の杜"を背負う

 風も、良い
山百合の薫りが尾根を駆け上がり、様々な花の香りを内に秘めて甘く、心地よく聞こえてくる・・・
(さぁ・・・
 今日も一日が始まる・・・)
闇を晴らすように、見渡す先が光で照らされてゆく・・・
お天道様が、背中から顔を出した
振り返れば、たちまち視界を奪われるだろう眩い光
それを確認すると、合図を送る

 ドゥゥゥン!ドゥゥゥン!ドゥゥゥン!

 太鼓が低く太く、重く、一帯に鳴り響く
それは化野原の中心部へ向けての行進の合図
横一列になって壁を作り、四方八方から押しつぶすように行進する
 しかしそこは山の中
道無き道
当然隊列が乱れ隙間も空く
それを埋めるように、そして先導約として、山に慣れた犬飼や猟師が猟犬達を進める

 ドゥゥゥン!ドゥゥゥン!ドゥゥゥン!

太鼓の音

 「ワンワン!ワン!」「アウ!アウ!」

猟犬の声

 ザッザッザッザッザッ・・・

人の壁に、無数の足音の壁

 「ピィィィーーーーーーュ!」 

そして、上空には御鷹の眼
化野原は包囲された



 お万の父は大御神神社伝統の白い千早に白衣、そして瑠璃色の袴姿
そして目をつむって、お腹の辺りで両手を組んで・・・・・
時折、顔を上下に動かす
「・・・それは、何かのまじないですかな?」
ここにも鎧兜に身を包んだ男が一人
男の名は、大岡
天和の白い五柱の子供によって起きた参拝ブームの際に、嫡子を失った武家の者であった
息子の仇討ちにと最前線で指揮を執ると申し出たが、このような場所に配置された
しかも息子の命を奪った原因を作っただろう怪しげな、神社の神主と共に・・・
大岡は、大いに不満だった
「・・・これは御犬様への、狼への敬意です」
「祈れば叶うか・・・
 人が相手の戦ではない畜生の狩りは、楽で良いな」
「・・・」
(心を澄ませるまでもありませんね・・・
 憎悪、嫌悪・・・
 殿も、面白いことをなさる・・・)
確かにこの狼奉行は白青の神主装束に烏帽子
そして武器といえば、腰に帯びた装飾された脇差のような小刀のみ
戦場にらしからぬ出で立ちである
 まだ話続ける大岡
「・・・狼狩奉行殿?
 本当に、このように構えているだけで良いのか?」
「えぇ
 先日もお話したように、この前の斜面や崖へと狼を追い込みますのでそれに備えて下されば」
「その・・・祈りで狼を、追い込むと・・・?」
「はい」
「・・・妖術で、ですかな?」
「はい
 そのように評される方も、いらっしゃいます」
目をつぶって、眉一つ動かさずにそう返す父
その左右に座る白い犬も目をつぶって、微動だにしない
「・・・フンッ!」
と、父に聞こえるように言う大岡



 そうこう大岡の相手をしながら、少しの時間が過ぎる
背中が、温かくなって来た・・・
振り向けばお天道様の神々しさに目を奪われるだろう
 そして四方八方から聞こえる動物の声

 「オォォーーーーーーーーン」
 「ピィィーーーユッ!」
 「ワンワンッ!ワンワンワンワンッ!」
 「ピャッ!」
 「オーイ!」

森がかき乱されている
大分騒がしくなって来た

 しかしそれより目立つ、相変わらず煩い大岡
「本当にたかが犬畜生がこの目の前の急斜面や崖を上がるのか、見ものだな」
その憎悪は、お万の父には想定外で、想像以上だった
「早く見せてほしいものじゃわい」
「・・・」
(このままでは、狩りに支障が出ますね・・・)
止む無しと
そして良い算段が聞こえたと、父は目を開け口を開く
「・・・それでは、妖術と呼ばれるその正体を明かしましょう」
「ほう
 是非聞いておきたいものだ
 次はワシが執り行なおう」
「はい
 是非、次は」
そう言って微笑み返す父
(この田舎の神主風情が・・・
 嫌味も利かぬのか・・・)
散々に言ってやったつもりだが、動じない父にイライラが積もる・・・

 お万の父は、大岡から武家とそれ以外の人々とを明確に身分で分ける意識を感じていた
そこに、不確かな占いや占星術などへの嫌悪感も加わっている・・・
"生類憐み"の政策以前だったら、この大岡は刀を抜いて自分を手打ちにしていたかもしれない
(困ったものです・・・)
父は続けた
「それは妖術などといった大層なモノではございません
 それは我が神社、我が村の猟師達に伝わる伝統が、技が成すモノにございます」
「シビトの村に?どのような?」
「私共の村の者は、3日前からこの近辺に餌をまき、徐々に徐々に、餌を中央へと寄せ、化野原中央に人喰いの狼や野犬を誘導してございます」
「ほぉ
 そのような事が可能なのか?」
「はい
 狼は新鮮な餌を、特に臓物を好みます
 違和感を与えぬよう獲物を捕っては罠を仕掛けて、捕っては罠を仕掛け・・・
 気配を気取られぬように、しかし時には気配を見せてと、誘導して参りました
 殿の名に恥じぬよう、御奉仕させて頂いているつもりです」
「・・・その努力、実ることを願おう
 殿の為にな」
「はい
 殿の為に」
そう言って・・・
また目を閉じて言う
「そしてもうすぐ、成果をお見せできるでしょう」
「何だと?」
「鉄砲の、用意は万全でしょうか?」
「ん?・・・あぁ・・・」
またしても、お腹の辺りで両手を組んで、時折、顔を上下に動かす
「・・・」
大岡にはそれは、祈っているようにしか見えない
「・・・先ほどから、そのような祈りが何になります?」
「・・・・・」
「折角立派な拵えの刀を腰に携えておいでだ
 その両側に構える畜生と共に、自分の足で狩に出向いてはいかがか?」
「申し訳ありませんが、お静かに・・・」
そうギリギリ大岡に聞こえるような小声で言うと
 チッ!
と、大岡は大きく舌打ちを返す

 「ピィーッ!」
 「ワンワンッ!」「ギャンッ!」「ワンワンワンッ!」

あれから数秒
変わらず騒がしい山の中・・・
お万の父の声が上がる

 「五ノ道、来ます!」

「は?」
「大岡様、ご指示を」
「なぜだ?」
「・・・すでにお話したはずにございます
 ご指示を、頂けませんか?」
「意味が分からぬ・・・・・
 どこにおるのだ?」
そう言うと大岡は、下の急斜面や崖を見渡して、その奥の森までを見渡す
「おらぬぞ?」
「・・・」
 その大岡の反応を見た父
「失礼・・・」
と大岡に言ってから、およそ200メートル先の北の尾根
その東側の傾斜に待機する五ノ道の鉄砲隊に向けて叫ぶ

 「五ノの方々ー!火縄の用意をー!」

予め、決められたルートを十と二決めて、その先で鉄砲隊を待機させていた
指示されたのは五ノ道
多くは武家の者で構成されている
当然、"古道の大大神"の名や、殿様の乳母役であり怪しい妖術を使う林狗、お万の父の名も知られている
父に向けられた目は、大岡と似たような偏見に満ちたものだ
 しかし殿に任ぜられた狼狩奉行の言葉ならばと、用意を済ませる五ノ道の鉄砲隊
狼狩奉行は尾根の西の急斜面を狼が駆け上がって来る手筈だと言っていた
その反対の、尾根の東側に身を潜める鉄砲隊
一番高い尾根の切り立った凸部を挟んで、駆け上がる狼と鉄砲隊は互いに見えない位置にいる
 鉄砲隊は、岩の隙間から狼が見える位置まで東の傾斜を登る・・・
ジリジリと・・・
なるべく音を立てないように・・・
「・・・」「・・・」「・・・」
そして、西の急斜面を駆け上がって来る手筈の狼に分からぬようにと地面に伏せたまま・・・岩の隙間から銃口を伸ばし、目を出して、覗けば・・・

 「・・・おぉ!」
 「ぉっ、おるぞ!駆け上がって来ておる!」

思わず声が上がる
目の前の急斜面を、狼達が登って来る!
一気に緊張感が走る

 「速い!あれが狼か!」
 「うぬぅ!
 岩と同じような色ではないか!」

目にした者達が次々に声を上げている
木の無い見通しの良い地形
土や砂利の上に大きな岩が複雑に転がり、所々に大きな岩が墓石のように立って絶壁を作る
その地形を狼達は難なく駆けて

 ザッ!ザッ!ザッザッ!

登って来る!
その姿は右に左に軽く3、4メートルは岩を跳ねる
加えて上下の動きがまでもが加わる

 「狙いが・・・!」
 「あぁ!
 これでは定まらぬ!」



 耳の良いお万の父
(やはりか・・・)
その現場の声を、動揺を捉えていた
しかし今から何か出来ることは無い
事前に狼を撃つ為の知恵は惜しみなく伝えた
武家の者には、それを全く聞かぬ者もいたが・・・
後は若殿を、信じるより無い

 父の隣の大岡
その場で、呆然としていた
そして
「本当に来た・・・」
呟いた
ようやく目の前の急斜面を高速で移動する豆粒が狼だと認識できたようだ
 猛烈な勢いで斜面を駆け上がる狼達
横から見るその一群・・・
坂道を駆けているのが嘘かのように速い!
「まるで野原を走っているのと変わらないではないか・・・」
急斜面や岩で、もたついている間に仕留めれば良いとくくっていた大岡
事前に打ち合わせた合図の方法を無視して、たまらず大声で指示を出す

 「四、六!用意!五ォーーー・・・撃てェーーー!」

 ダダダダーン!ダーン!ダーン!ダーン!・・・ダーン!

「七、損じた」
誰よりも早く、その鉛玉を避けた狼を分ける父
8のうち7を損じる
まだ距離がある
想定よりも良い
「ぐうッ・・・」
遅れて大岡もまだ動いている影に気付いて

 「次の列!撃てーーー!」

 ダーン!ダッ!ダダダダン!ン!ダーン!ダーン!

「まだです
 残り五」
また父が素早く見分ける
狼と鉄砲隊の距離は50メートル程
良い距離
次が勝負
しかし、鉄砲と人の存在を察して引き返す狼も!
「ぐッ!」
大岡には狼の姿は豆粒程にしか見えないが、その怪しげな神主の残り五との言葉を信じるより他無かった

 ダーン!

「なに!?」
慌てた鉄砲隊が討ったのだろう
「何をしておるッ」
動揺が伝わる
空かさず、五ノ道の両脇に構える四ノ道と六ノ道の鉄砲隊も準備は整ったはずと

 「次の列!討てーーー!
 四、六もー!側面より撃てぇーーー!」

 ダダダダダダダッダダン!ダダーンッ!ダーン!ダダーン!ダーン!・・・ダダーン!

総数50近くの銃口が一斉に火を噴いた
辺り一帯に銃声が響き渡る
お万の父にすら、最早、狼の悲鳴すら聞こえない程に・・・

 ダーン、ダーン・・・ダーン・・・・・ダー・・・・・

余韻と、こだまする音・・・

「仕留めたろう・・・」
「いえ、まだです」
「どこだッ!?」

 ピューイィ!

父は口笛を吹くと、刹那

 ダーン!
 「キャウゥゥー!」

 「何!?何処からだッ!?・・・・・狼も、どこにいた!?」

驚く大岡
銃声と共に、茶黒い狼が岩の上を血にまみれて

 ドッ・・・ドッ・・・ドドッ・・・

転がってゆく・・・
それを悲しそうに見ながら・・・お万の父
「下で、狼を五ノ道に追いやった私の村の者です
 狼は、あの岩陰に」
「何だと!?」
と言って、一瞬大岡は父を見ると、また狼に目を向ける
勢いがついて急斜面を落下するその亡骸
手毬のように、岩場を跳ね

 ドッ・・・ドッドッ・・・・・トッ・・・

全身を強く打ち付けて
血を吐いて
無残に
そしてまた、豆粒のように小さくなって・・・
深い崖の窪みに飲み込まれて・・・・・
消えていった・・・
「・・・」「・・・」「・・・」
その場にいた全ての人が、その様子を見て、見送った・・・



 「ワンワンッ!ワンワンッ!」
 「ワォォーーーーーン」
 「アオォォォォーーーー!」

 まだ始まったばかり
犬やら狼やらの声が森のいたるところから上がり、静かに命を看取ることもできない・・・
大岡も次の為にと、重くなった口を開いた
「・・・先ほど、崖の下から村の者が仕留めたと言ったか?」
「はい
 確かに」
「ありえぬ!
 崖の下まで三町(約327メートル)近くは離れておろう!?ワシもこの目で見てきたが鉄砲の距離では無い!!」
「それは・・・今のお侍様の都合です」
「・・・確かか!?」
「はい」
「・・・・・」
黙る大岡
しかし村では普通のこと
だが、それを言ったらまた角が立つだろう
父は静かに頷くだけにした
そして話す
「・・・手負いとはいえ万が一、逃がして尾根にまで駆け上がられますと、皆に危険が及びます故、お許しを・・・」
「ぁ、あぁ・・・・・
 異論無い」



 大岡は、生きて駆ける山犬を・・・狼を、初めて見た
噂では聞いていたものの、あのような急斜面を
垂直な崖さえも素早く、飛ぶように駆けるのは初めて見た
しかも、あのいかにも滑りそうな岩の上を・・・
「あれが山に住む犬・・・
 山犬か・・・・・」
そう言って、およそ200メートル先に小さく見える、岩の上に血を吹き転がる狼達を、見つめて・・・
(部下や仲間を危険に晒すところであった・・・)

 少し冷静になった大岡
しかし、気になるのはそれだけではない
この男
この林狗と呼ばれる怪しげな神社の神主は、あの森から狼が飛び出して、五ノ道の前に駆け上がって来るのを事前に知っていたのだ
大岡は恐る恐る・・・
聞いた
「どのようにして、その・・・
 五ノ道に追いやった村の者と通じたのだ?」
「と、申されますと?」
「いや
 どのようにして崖の下にいる村の者は、おぬしに五ノ道に狼を追い込むと伝えたのだ?」
「それは・・・
 そのようは事は、必要ございません」
「・・・はぁ?」
「?」
首をかしげる父
「では、この空を飛ぶ御鷹か何かか?」
「・・・あぁ!それは・・・・・」
「それは?」
「それは、妖術のようなモノにございます」
「はぁ・・・」
「目で見えるモノだけが、全てでは御座いません故・・・」
そう言うと、また目をつむってお腹の辺りで両手を組んで、祈るような所作をする父
「・・・・・」
(この者は、誠に妖術使い・・・
 あるいは、神の遣いかとでもいうのか・・・・・?)
大岡は不審に思った
しかし同時に、自分の仕える主が、殿が信頼する男だということも理解した
祈りであろうが妖術であろうが、狼に気付かれずに五ノ道に、準備された鉄砲隊の前に群れを誘い込んだのだ
それは自分には出来ぬこと
大岡は、目の前の男を畏れた



 そうしてお万の父の顔を見ながら、大岡が色々と、思考をしていると・・・
「しばし、安心な様子・・・」
と言って目を開けて、大岡を見ながら
「さぁ
 今のうちに、狼の亡骸の回収と、そして鉄砲隊の配置について再考いたしましょう」
「あ、あぁ・・・」
そう言って、大岡は兜を取った

 父の目線は、狼の亡骸へと向けられる・・・
そして、つぶやいた
「大大神よ・・・
 すまない・・・・・」

いいなと思ったら応援しよう!