古道の大神と犬の姫 五ノ六 -傾奇者 新兵衛-

 翌日
山水画の景色を再現したような立派な庭の中心
門へと向かう石畳を歩く、新兵衛と虎杖の2人
朝顔はもう随分前にしぼんでしまったが、桔梗や水連、向日葵など夏の花々が見送る
そんないつもの、長閑な庭園を歩きながら
(今なれば・・・
 化野原から溢れた浪人の捕り方であれば・・・)
虎杖は考えていた
(いや、しかし
 この男もかつては同じ元武家の、浪人・・・
 役目を失った同胞、同志をか・・・)
まだ士官話を諦めていなかったようだ
「あまりに酷か・・・」
「んあ?」
「いいや・・・」
「・・・」

 「ツクツクボーシ!ツクツクボーシ!ツクツクボーシ!」
 「ジッジッジッジッジッジッジッジッ・・・」

蝉が、鳴く
(・・・夏の間は良いが・・・年々厳しくなる冬を、どう・・・・・)
虎杖は、新兵衛の顔を見上げ
「・・・やはり、道場で剣術指南役などはどうじゃい?」
「いゃぁ・・・」
「・・・おぬし程の腕で浪人は・・・惜しい
 丁度、我が殿も諸國に習って藩校を設ける予定
 興味は、ないか?」
「・・・・・」
「今なれば、金狼を打った功績も名も通ろう
 それにワシも喜んで推挙しよう
 どうじゃ?藩校で、後進の為に尽くしてはくれぬか?」
「ぃゃ・・・」
「・・・それでは退屈か?
 では、狼狩奉行の役が空いているだろう
 そこに」「なぁ虎杖爺よぉ・・・」
「ん?」
「これからの世に、剣は必要なんかい?」
「・・・」
「オレ等みたいに人殺しの技を磨いて、何になるよ?」
「それは・・・」
「何処でそれを生かす?」
「・・・」
「何の為に?誰の為に?」
「然り・・・」
「道場で稽古して・・・それで?
 道場の中で終わんのかい?
 武芸を見世物にして、それを楽しみに生きろと?」
「ぬしの言う通りじゃ
 昨晩も何度も話したように、それについて、ワシは答えを持たぬ・・・」
「・・・」
「城でも、誰もな・・・」
新兵衛を見上げる虎杖
その横顔を見て
「だが・・・
 おぬしのような型破りが、この変革の世を変える力になればと思うのじゃが・・・」
「・・・・・」

 新兵衛、この男
ただの浪人、傾奇者かと思っていたがしかと今の世を感じている
虎杖はそこも、気に入ったのだった・・・
そして諭すように続けた
「しかし、おぬしの求めるようなモノはもう、この泰平の世にはあるまい・・・
 仕える主君を探して・・・」
「探して・・・?」
「・・・」
「で・・・?」
「ぅむぅ・・・・・」
「虎杖爺
 オレはな、役人じゃなくて侍をやりてぇんだ」
「・・・それは分かったが、しかし・・・」
「それに、いるんだよ」
「?」
「まだ仕える主君様がよぉ」
「そうか・・・」
「あぁ」
「そうか・・・
 そうであったか・・・」
「まだ若くて頼りねぇけどよっ」
そう言ってニッと、虎杖に笑みを見える新兵衛
呆気に取られながら、虎杖
大笑い
「ガッハハッ!
 であるならば早ぅ教えんかい!」
そして
 バチンッ!
と、尻を下から叩き上げる
「ッてェ!」
「ガハハハハッ・・・」
「ハハハハハハッ・・・」



 出口
門が近い
高い白壁に囲まれた虎杖邸に構える番所付の長屋門
誰もが腰が低くなるような立派な門が構えて、向かう先に待っている
「大した門だなぁ・・・」
「ガハハハッ
 先代の頃より、その人殺しの技を振るって賜った門じゃ」
「ヘヘッ
 そうみてぇだな
 鯱張って古いと分かる」
「ガハハハハッ!
 これでも簡素になったもんじゃわい!」
「・・・それも時代だろ?」
「んっ?」
「贅沢禁止ってやつさ」
「それは・・・・・」
「・・・・・」
「・・・ガッハッハッ!
 その傾いた派手な身なりで申すか!返す言葉も無いわい!」
「ヘッ!
 銭や身分だけで、オレを雇えると思いなさんなや」
「?」
「オレは、心で動く」
「・・・」
「そう決めたんだ」
「それは・・・・・らしいのぅ」
「ヘヘッ・・・」
そう笑いながら、門をくぐると振り返って
「白猫さんとの狼狩は楽しかった・・・
 あぁ、楽しかった・・・」
「うむ
 久方ぶりに血が滾ったわい」
「ヘッヘッヘッ」
「ガッハッハッ」
「でもよぉ・・・
 白猫の旦那ら猟師を見ていると、楽しんでやるもんでもねぇなぁと・・・・・」
「・・・」
「だろ?」
「然り」
「それにあれ以来、犬畜生を見ると何かもーーームズムズすんでぃ!」
「ほぅ・・・」
「狼狩も、御免だ」
「うーん・・・」
「でもよぉ」
「んん!?」
「いーい酒だった!」
「何じゃい!また酒の話か!」
「ヘヘヘッ!
 また酒、飲みに来るぜ」
「あぁ」
「そしたら会いに行こうぜ
 白猫の旦那に」
「ん?」
「興味ありそうにオレの話、聞いてたじゃねぇか」
「あぁ・・・
 大神と、お犬の神社か・・・
 冥途の土産に良いかもしれんな!」
「へへっ!またなー」
そう言って新兵衛は背中を向けて去って行った
腰には大中小を差し、背中に虎を背負って
「・・・達者でのぅ」

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