古道の大神と犬の姫 五ノ四 -噂-

 城下のとある居酒屋でのことです
店主と客が噂話を楽しんでおります
勿論話題は、今一番盛り上がる狼狩の噂です

「それで、とうとう死者は百を超えたって話ですわ」
「本当かい!?
 そりゃぁ、恐ろしいことだねぇ
 南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏・・・」
「あぁ
 まだまだ殿も、お若いからねぇ・・・」
「まだ二十と二だったか?」
「ええ
 先君が早くに亡くなってから随分と気張っちゃいるようですが、家中も相当荒れてるって話ですわ」
「それは老中景山様の御子の神隠しの話だろ?
 その、オオカミとかいう化け物にやられちまったとか・・・・・
 誰かが巻き狩りに乗じて・・・って話・・・」
「おいおい
 滅多なことを店で、口にしねぇで下せぇよ・・・」
そう言って辺りを見回すと・・・
のれんをくぐって、誰かが
「おうおぅ
 また巻き狩りの話かい?」
「おっ!いらっしゃーい!」
「お、寅か!
 また何か面白いの仕入れたかい?」
「へっへっへー
 とっておきがあらぃ」
そして隣に座ると
「旦那、いつもの頼む!」
「はいよー!」
「で、なんでい?
 とっておきってのは?」
「それがよぉ・・・
 ワシが昨晩仕入れた話によればな?今回の巻き狩りを指揮したオオカミ奉行役とやら
 何でもお武家様ではなかったらしい」
「そうなのか!?」
「へぇ・・・
 そんなこともあるんですねぇ・・・」
「あぁ
 何でもリンゴという怪しげな神社の神主だそうだ」
「え?怪しいって・・・
 その林狗ってぇのはー、若殿の乳母役じゃありませんか?」
「そうなんかい?」
「ええ
 徳川様の世の以前から藩主様と代々親しい間柄って話ですわ」
「あぁっ!思い出した!
 以前白犬の五つ子と"何とかの大神"とやらで噂になったあの神社の神主してるって、あれだい!」
「それはあの・・・
 山犬を神様だなんっつて祀ってる神社かい?」
「ん?そうなんかい?」
「そうらしいですぜ
 行った方がお客にもいますがね、何でも犬だらけの村だって話ですわ」
「へぇ・・・」
「なんだい店主?おもしろそうじゃねぇか!
 もう少し聞かせてくれよ」
「あぁ・・・
 その"古道の大神"の名はこの店に来た参拝者からも話を聞きましたからねぇ・・・
 何でも山犬を、その大神ってのを祀ってるって話ですわ」
「へぇ・・・
 それで今回オオカミの、巻き狩りの指揮をしてたんかい?」
「さぁねぇ
 どうなんでしょうかねぇ」
「・・・」「・・・」
「単に若殿に近しかったからって、お武家様は不満を漏らしてるって話もありますからねぇ・・・」
「そりゃーひでぇな・・・」
「・・・おい、お二人さん・・・・・」
そう言った寅という男
前かがみになって、耳元で続けた
「そのオオカミ狩奉行のリンゴ、おっ死んじまったっらしい・・・」
「なんだい?大将がやられちまったんかい!」
「そりゃまた、散々だねぇ」
「あぁ
 しかもそのリンゴの村にいた幸運をもたらすとされて拝まれた白犬だが、今は全身が黒く恐ろしい化け物に育ったとの話、知ってるかい?」
「はぁ?
 何で白いのが黒くなるんでい?」
「不吉ですぁねぇ」
「ああ
 いい知らせでは、無いねぇ・・・」
「しかもな?
 そのリンゴってのは天下の将軍様にもお仕えしていて、怪しげな妖術を使うって話もある・・・」
「・・・」「・・・」
「つまり、そういうこった」
「祟りか・・・」
「いやー、おっかねぇ・・・」
静まりかえる店内・・・
「なーんってな!ハハハハッ!
 噂さ、うーわーさっ!」
「へっへっへっ・・・」
大笑いする寅と店主
しかしもう1人は笑わずに、戸惑って
「いや、でも店主?
 人喰いのオオカミってーのがまだ生き残っているのも、その神社があるのも本当だろう?」
「あっしは見ていませんからねぇ・・・
 何とも」
「でもさっき、参拝者から聞いたって・・・」
「あぁ・・・
 まぁ、こういった話はには尾ひれが付くもんですわ」
「そうそう
 面白がってりゃいいんだよぉ!
 おめぇさんは人が良いのか、信じすぎでぃ!」
「いゃぁ・・・・・ワシは文字も読めんしなぁ」
「・・・」「・・・」
「頭も、悪いからのぅ・・・」
「いやいや
 おめぇさんはまだ謙虚で良い方だぜ?」
「そ、そうかい?」
「あぁ」
「そうですよ
 見てもいねぇのに、噂ってのは恐ろしいもんですよ
 あっしもこんな商売してると良く噂話が耳に入ってきますがね、昨日の話が翌日にはもう変わってるもんですわ」
「へぇー・・・」
「その"古道の大大神"ってのもね?
 最初聞いた時は六尺(180センチメートル)でしたが、今は九尺(270センチメートル)だって話になってますわ」
「ははっ
 そういうもんですか・・・」
「・・・でもまぁ、人喰いのオオカミってー山犬みたいのが生き残ってるのは、本当らしいからなぁ・・・」
「全く、嫌だねぇ・・・」
「・・・」
すると突然

 「その神社も犬の村も、確かにあるぜぇ・・・」

店の隅から、男の声

 「人喰い狼も、いらぃ・・・」

「おぉあんたぁ、起きてたんかい・・・」

 「ぁ・・・ぅんん、さっき起きた・・・・・
 ここは・・・どこでぃ?」

「・・・」
「・・・店主、誰なんでい?」
「あぁ・・・
 昨日、店の前で倒れててねぇ
 生類憐れめとのお達しもあって、店の中に入れといたんですわ・・・」
そして店主は水を椀に汲むと・・・
その男の元へ




「おいあんた、大丈夫かい?」
「あぁ、すまねぇ・・・」
そう言って水を飲む男
それはあの傾奇者、新兵衛だ
「あぁ‶ぁ‶ぁ‶ぁ‶ー!水がうめぇ!」
「はははっ・・・」
「ふぃーーー!」
刀も差さずに、まだ眠そうな新兵衛である
それを見ていた寅は聞いた
「おいあんた!
 さっき犬の村があるって言ったか?」
「あぁ?あぁ・・・
 随分前に行ったこたぁあるぜ」
「行ったのか!?そりゃいい!
 こっちに来て話聞かせてくれよ!今その話をしてたとこさっ」
「あぁ?あぁ・・・・・」
「・・・」
「・・・ん?」
「おい・・・」
「あぁ?・・・あぁ・・・・・」
二日酔い
新兵衛はまたいつものように飲み明かしていたようだ
「おいおいあんた笑
 酒でも奢るからよぉ?」
「おっつ!そうかい!
 ぃぃぃよーーーっとい!」
そう言って店の椅子を頼りに立ち上がる
フラフラとおぼつかない足元
しかし、その姿
「・・・あんた随分と、なんだい・・・・・
 立派な体、してんなぁ・・・」
「あぁ
 それに、その傷・・・」
立ち上がれば180センチメートル弱の大男、新兵衛
そして全身の包帯
「・・・ね?放っちゃおけねぇでしょう?」
と店主
すると

 「おぉおぬし!ここにおったかー!
 やっと見つけたわい・・・」

「あぁ?」
店ののれんをくぐって虎杖が現れる
今日は立派な着物に刀の大小を揃える
その虎杖を見た店主
嬉しそうに
「おぉぉ!これはこれは虎杖様!
 お知り合いですかい?」
「まぁそうじゃのう
 腐れ縁じゃが」
「それは助かったぁ!
 どこの誰だか知れず、どうしようかと思っていたところでしたので」

 「・・・ャッ!・・・ヤッベェ!」

突然、新兵衛はそう言うと慌てた、店の外に駆け出す

 「ぉお!?
 ぉ、おい!新兵衛!待たぬかッ!!」

あまりに突然のことで出遅れる虎杖
まさか逃げられるとは予想していなかった

 「おい!あやつを捕まえろ!」

と従者に頼むが

 「オ‶ォ‶ォ‶ォ‶ォ‶ヴェェェェ!・・・ヴェェ!」

外から聞こえてくる、穢れた音・・・
「・・・・・」
困る従者
「・・・あの、虎杖様・・・・・」
「その必要は、無いようじゃな・・・
 見張っていてくれ」
「は、はい・・・」
「ふぅ・・・」
ため息
そして店主に聞く
「・・・あの者は、いつからここへ?」
「あぁ
 今朝起きたら、店の前に倒れておりまして・・・」
「ガッハッハッハッハッ!相変わらずじゃのぅ
 また牢屋に戻りたいのか?」
と、外にいる新兵衛に聞くも

 「・・・ヴェ・・・カハッ!ガハッ!・・・ウェェ・・・」

苦しんでいる新兵衛
「牢屋!?」
「牢屋って・・・」
「ぁ、あの、虎杖様?」
「ガッハッハッ!安心せい
 少々傾いてはおるが、此度の狼狩で人喰いの、一番の大物を仕留めたのはこの漢よ」
「へぇ・・・」
「そうは見えねぇが・・・・・なぁ?」
「あぁ・・・」
「フッハッ・・・
 店主、迷惑を掛けたのぅ」
そう言って虎杖
店主の目を見て、右腕を掴んで引き寄せる
そして少しの心付けを手の平に置いて、握らせ
「天も、将軍様も、その行いを喜んでおろう
 そして武家の醜態を許してほしい」
「あっ、これはこれは・・・
 いつもありがとうございます」
「ふむ
 この男、引き取らせてもうぞ」
そうして新兵衛は虎杖の従者に担がれて、虎杖邸へと連行されたのであった

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