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古道の大神と犬の姫 七ノ一 -銀狼狩、一行-

 一行は、お仙を先頭にして村へと戻る
墓石が積み上げられたような岩場を登って、白黒の世界を抜け出して

 お仙のすぐ後ろを歩く新兵衛
いつもの何食わぬ顔と様子で、白い布で丁重にくるまれた銀狼の亡骸を担いでいる

 その後ろを歩く犬目付阿部
最早疲労の具合を隠せず
それでも顔には出すまいと努めて、一行を率いようと疲れを隠して丸太のように重くなった足を上げる

 その後ろには三浦と、その肩を借りて歩く佐竹
山間育ちの三浦の健脚を頼りに、重くなった体と頭を半分委ねて歩く
精魂共に、疲弊しきっていた

 その後ろを歩くのは定岡
黒岩の山を登る途中、体調不良を訴えて阿部達から離れて唯一戻って来れたその男
魂はここにあらず
一行の、特に佐竹の異変を恐れながら、今は唯々皆の無事を祈って歩いた

 その後ろを並んで歩く大岡とお七
"古道の杜"を離れ白黒の世界を抜け出すと、途端に頭痛が止んだ大岡
後ろから全体を見渡しながら、靄が消えて明快になった頭でさっきまで起きていた事を振り返りながら、歩いていた
 お七はもちろん、その後ろを、最後尾を歩くお万を心配して近くを歩く
とぼとぼと、下を向い歩くお万を時折、振り返りながら・・・



 一行を、お天道様は出迎えてはくれなかった
空が涙を流す訳では無い
しかし空も、色も、空気も・・・
全てが重く、暗く、淀んでいるような・・・
まるで皆の心の模様を絵に描いて表現したかのような、空の模様でいる



 一行の多くが、噂の"古道の杜"のその僅か手前の空間で、同じモノを見て、肌で其れ等を感じたいたはず
しかし誰も、何も口にしない
それ等が何だったのか?
それ等が現実に起きた出来事だったのか?
それ等の判断は、正しかったのか?
頭の中の整理が付かずに、各々が、次の足を置く場所に注意を払いながら朧な記憶の中で思考を巡らせる



 目に見えて確かなのは、一行は目的の銀狼を仕留め、その成果を誰しもが見れる形で納められそうなこと
15人で向かい、今は8人だけが歩いて戻っていること
そして今、一行が距離を空けずに離れず一つの群れのようになって固まって、何かを警戒ながら、怯えるようにして歩いて村へと戻っていること・・・・

 一行は、身も心も"古道の杜"に喰われたような・・・
そんな気分だった

 そんな中
「ありがとよ・・・」
お七が静かに、口を開く
即座に全員が耳を傾けた
その言葉は一体、誰に向けられたものなのかと・・・・・
次の言葉は
「きっと皆が、誰かがやらなきゃなんねぇって・・・
 思ったろうからさ・・・・・」
その言葉
皆が誰に向けられた言葉で、何の話をしているのかを理解する

 ザッ、サッ、ザッ・・・
 ザッ、サッ、ザッ・・・

 皆が、お七の意図を理解して、お七が言葉を掛けた相手の返事を待った
しかし言葉は帰って来ないままで、森の中を歩く音だけが響いて・・・

 ザッ、サッ、ザッ・・・
 ザッ、サッ、ザッ・・・

するとまた、お七が言った
「ありがとう・・・」
そのお七の口から出た、しおらしい言葉
誰しもが、その言葉の意味を理解する
しかし、受け止め方はぞれぞれに・・・
後悔
葛藤
未練
弔い
無念
責務
忠義
そして、それぞれに・・・お七の心の内を察した・・・

 しばらくすると、お七が感謝を伝えた相手が呟くように言った
「・・・郎党も教え子も、友も・・・・・」
「・・・?」
「主君さえも、もう・・・・・慣れちまってなぁ・・・・・」
「ぇっ・・・」
「・・・お前は、こっちに来んなよ」
「・・・・・」
「ろくなもんじゃねぇぞ
 一方的に、命を奪うってこたぁなぁ・・・・・」
「お前・・・」
お七は、その男の大きな背中から感じたことの無い何かが香ってくるような・・・・・
(これが・・・・・哀愁の、香り・・・?)
そんな気がして・・・



 悩んで、想って・・・
言葉を選んでいると、また大きな背中から聞こえてくる
「・・・どうしたらいい?」
その問いかけは、誰に、何を問いかけたのか・・・
あるいは只の独り言なのだろうか・・・

 一行はその問いかけに、その日の己の行動を振り返る
そして、その言葉の行方を見守って・・・
またしばらくして
「・・・人喰いの狼を生まない為には・・・どうすりゃいいんだ?」
男は、問いかけた・・・
「・・・・・」

 ザッ、サッ、ザッ・・・

その問いは、根源を問いかけて・・・

 ザッ、サッ、ザッ・・・

その問いは、答えがあったとしても、恐らく誰も解決できないでいて・・・
「どうすりゃいいんだよ・・・」
自問するように言った、その男・・・

 その男が誰に問いかけたかは明確では無い
しかし殆どの者が、唯一答えを持っていそうな、お仙の声を期待する・・・・・

 ザッ、サッ、ザッ・・・
 ザッ、サッ、ザッ・・・

歩みは、止めずに・・・

 ザッ、サッ、ザッ・・・
 ザッ、サッ、ザッ・・・

揺れる長い髪を見ながら、そんなモノがあるのかと・・・返事を期待する・・・
「・・・・・」
しかしその先頭を歩く細くて小さな背中は、何も言葉を返さない
一切の疲れも、涙を見せた悲壮感も感じさせない背中
いつものように軽やかに、草木を掻き分け、皆を導く・・・

 すると、また大きな背中が
「気分が悪りぃ・・
 二度と、御免だ・・・・・」
吐露した・・・

 お七は、その男の大きな背中をしばらく見た
優しく、温かな瞳で・・・

 そしてそれが、役目を見事に果たして村へと戻る一行の、唯一のまともな会話となった

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