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【フォトレジスト連載 第3回】g線・i線・KrF・ArF・EUV――露光波長の進化史

半導体の微細化は、しばしば「より短い波長の光を使う歴史」と説明されます。


露光光源は、主に次の順番で進化してきました。


g線:436nm i線:365nm KrF:248nm ArF:193nm EUV:13.5nm


436nmから13.5nmまで、波長は約32分の1になりました。


ただし、短い波長へ切り替えるだけで微細化が実現したわけではありません。


光源が変わるたびに、露光装置、レンズ、ミラー、マスク、フォトレジスト、現像液、下層膜、計測技術まで作り直す必要がありました。


今回は、露光波長の進化をフォトレジスト材料の視点から見ていきます。


なぜ波長を短くすると微細な回路を描けるのか


光学リソグラフィの解像度は、一般にレイリーの式を使って説明されます。


CD=k₁ × λ ÷ NA


CDは形成できるパターン寸法、λは露光波長、NAは投影光学系の開口数、k₁はプロセスや照明条件などを反映する係数です。


式だけを見ると、微細なパターンを形成する方法は三つあります。


  • 波長λを短くする

  • 開口数NAを高くする

  • プロセス技術によってk₁を小さくする


露光波長を短くすることは解像度向上に直結しますが、光源、光学材料、レジストなどを全面的に変更する必要があります。




第1世代:g線――青い可視光で回路を描く


g線は、水銀ランプから得られる波長436nmの青色光です。


初期の縮小投影露光装置では、このg線が使われました。


g線用レジスト


g線と後述するi線では、ノボラック樹脂とDNQ系感光剤を組み合わせたポジ型レジストが代表的です。


未露光状態ではDNQがノボラック樹脂のアルカリ溶解を抑え、露光するとDNQの光反応によって露光部分が現像液へ溶けるようになります。


ノボラック・DNQ系は、g線・i線時代を支えた成熟度の高いレジスト材料です。


g線の現在


g線は先端ロジックの最微細層には使用されませんが、古い技術として完全に消滅したわけではありません。


主要フォトレジストメーカーは現在もg線・i線対応製品を展開しており、成熟プロセスや非最先端用途を支えています。




第2世代:i線――紫外線領域へ


g線の次に広がったのが、波長365nmのi線です。


i線も水銀ランプを使用しますが、g線より短い紫外線領域の光を利用します。


i線が長く使われる理由


i線は光源、装置、フォトレジスト、現像、計測の技術が成熟しています。


最先端の微細層には向きませんが、次のような分野では、必ずしも最短波長が必要とは限りません。


  • 半導体パッケージ

  • バンプ・再配線層

  • MEMS

  • センサー

  • パワー半導体

  • 一部の成熟ノード

  • 厚膜フォトレジスト工程


例えば、厚膜形成では最高解像度よりも、膜厚、側壁形状、めっき耐性、低コストなどが優先される場合があります。


露光波長は、常に短ければよいわけではありません。


工程に必要な解像度を満たすなら、成熟した装置と材料を使う方が、生産性やコスト面で有利になることがあります。




第3世代:KrF――深紫外線時代の始まり


KrFは、クリプトンとフッ素を使ったエキシマレーザーです。


露光波長は248nmで、ここから本格的なDUV、深紫外線リソグラフィの時代に入ります。


KrF最大の材料革新:化学増幅


248nmへ進む際、レジストには高い感度が必要になりました。


そこで大きな役割を果たしたのが化学増幅型レジストです。


IBMが1980年に考案した化学増幅では、露光によって光酸発生剤から酸を発生させ、その酸を触媒として多数の分子反応を進めます。


一つの光反応を一つの化学変化で終わらせず、酸触媒によって反応を増幅するため、少ない露光量でも大きな溶解性変化を得られます。


化学増幅型レジストはKrF用材料として発展し、その基本概念はArFやEUVにも受け継がれました。


KrFは現在も重要


KrFはArFやEUVに置き換えられて消滅したわけではありません。


半導体チップには、最微細層だけでなく、比較的大きな配線、コンタクト、周辺回路など多数の層があります。


すべての層に高価なEUVを使用する必要はありません。


これは、一つのチップ製造ラインで複数世代の露光方式が役割分担していることを示しています。




第4世代:ArF――193nmと液浸技術


ArFは、アルゴンとフッ素を使ったエキシマレーザーで、波長は193nmです。


しかし、248nmから193nmへ移行すると、レジスト材料にも大きな問題が生じます。


248nm用レジストをそのまま使えない


ある材料が248nmで透明でも、193nmでは光を強く吸収する場合があります。


レジスト膜の上部で光が吸収されすぎると、膜の底まで十分な露光量が届きません。


そのためArF用レジストでは、193nmでの光学特性、アルカリ現像性、エッチング耐性などを両立する新しいポリマー設計が必要になりました。


KrF用化学増幅技術はArFにも引き継がれましたが、ポリマー骨格は193nmへの対応を目的に再設計されています。


ArF液浸


ArFの波長を193nmより短くせずに解像度を向上させたのが、液浸露光です。


投影レンズとウェハの間を水などの液体で満たすことで、実効的な開口数NAを高めます。


さらに、同じ層を複数回に分けて形成するダブルパターニングやマルチパターニングによって、193nm露光の限界を押し広げました。


ただし工程数が増えるため、次のような負担も大きくなります。


  • マスク枚数の増加

  • 成膜・エッチング工程の追加

  • 重ね合わせ誤差の管理

  • 製造時間の増加

  • コストの上昇

  • 欠陥発生機会の増加


ArF液浸は、光源だけでなく、材料、装置、プロセスを組み合わせて限界を延ばした技術です。




第5世代:EUV――13.5nmという大転換


EUVの露光波長は13.5nmです。


193nmのArFと比較すると、波長は14分の1以下です。


ただし、EUVは単なる「さらに短い紫外線」ではありません。


13.5nmの光は多くの物質に強く吸収されるため、従来の透過レンズを使用できません。


EUV装置では光を反射させる多層膜ミラーが使われ、光路は真空環境に置かれます。


EUVでは光化学反応の考え方も変わる


193nmや248nmでは、光子が光酸発生剤などの分子反応に直接関与します。


一方、13.5nmのEUV光子は約92eVという高いエネルギーを持ちます。


EUV光子がレジストに吸収されると、光電子や二次電子が発生し、それらが周辺分子と相互作用することで、光酸発生や溶解性変化につながります。


この反応は確率的です。


限られた数の光子と電子が、ナノメートル領域でランダムに反応するため、次のような欠陥が発生します。


  • コンタクトホールの欠落

  • 隣接パターンの接続

  • ラインの断線

  • 穴寸法のばらつき

  • ラインエッジラフネス


EUVレジストでは、単に感度を高めればよいわけではありません。


解像度、感度、粗さ、吸収、酸拡散、確率的欠陥を同時に制御する必要があります。


EUVの量産移行


EUVは長期にわたる開発を経て、2019年前後に商用半導体の量産工程へ本格的に入りました。


EUVの導入は、ArFを直ちに置き換えるものではありません。


最も微細な一部の重要層をEUVで形成し、その他の多数の層をArF、KrF、i線で処理する役割分担が続いています。




露光波長とレジスト材料の変化

露光方式波長主な光源代表的な材料課題 g線436nm水銀ランプ感光性、アルカリ現像性 i線365nm水銀ランプ高解像度化、厚膜対応 KrF248nmエキシマレーザー高感度化、化学増幅 ArF193nmエキシマレーザー193nm透明性、エッチング耐性 ArF液浸193nmエキシマレーザー+液浸撥水性、液浸欠陥、溶出抑制 EUV13.5nmスズプラズマ光子効率、二次電子、確率的欠陥

波長が変わるたびに、フォトレジストは単なる改良ではなく、分子骨格から再設計されてきました。




「7nm半導体」は7nmの光で作るわけではない


半導体の「7nm」「5nm」「3nm」といった名称と、露光波長は別のものです。


EUVの波長は13.5nmですが、EUVを使って3nm世代などと呼ばれる半導体が製造されます。


また、193nmのArFでも、液浸、位相シフト、計算機補正、マルチパターニングを組み合わせることで、波長よりはるかに小さなパターンを形成できます。


半導体の世代名は、特定の一寸法をそのまま示す物理値ではなく、トランジスタ密度や性能、メーカーの技術世代を表す名称として使われています。


したがって、


露光波長=最小回路寸法


ではありません。


微細化は、波長、NA、マスク、照明、レジスト、現像、エッチング、計算リソグラフィを組み合わせた結果です。




新技術が登場しても旧技術が消えない理由


半導体工場では、最先端技術が登場しても旧世代装置が直ちに廃棄されるわけではありません。


主な理由は次のとおりです。


  • 層によって必要な解像度が異なる

  • 成熟した装置は生産性が高い

  • 既存材料と工程が認定済み

  • 高価なEUVを全層へ使う必要がない

  • パワー半導体やセンサーでは最先端寸法を必要としない

  • 既存ラインの設備投資を回収する必要がある


露光技術の歴史は、単純な世代交代ではありません。


新しい技術が最微細層を担当し、成熟した技術がその他の層を支える、積み重ね型の進化です。




まとめ


露光波長は、次のように短くなってきました。


436nm → 365nm → 248nm → 193nm → 13.5nm


しかし、この進化を可能にしたのは光源だけではありません。


  • g線・i線ではノボラック・DNQ系レジスト

  • KrFでは化学増幅型レジスト

  • ArFでは193nm対応ポリマーと液浸技術

  • EUVでは二次電子と確率的反応を制御する材料


というように、フォトレジストも露光方式と一体で進化してきました。


波長が短くなるほど、描けるパターンは小さくなります。


一方で、光の発生、制御、吸収、化学反応は急激に難しくなります。


そのため半導体の微細化競争は、単なる光学装置の競争ではありません。


光を発生させる装置と、その光を受け止める材料の共同開発競争である。


次回は、KrF以降の微細化を可能にした重要技術である「化学増幅型レジスト」について、光酸発生剤、脱保護反応、酸拡散、感度向上の仕組みまで詳しく解説します。


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