短編「向日葵」丨#風まかせ文芸部
「おーい、いつまで寝てるの。」
時刻は正午を回っている。
「もう少しだけ。」
俺の意思に反し、無抵抗にカーテンは開けられる。
今だけはその無抵抗さを恨んだ。
「たまにはしっかり太陽の光を浴びようよ。」
目をつぶったまま背筋を伸ばし、光射す方を振り向く。
「あはは。向日葵みたい。」
手荒に起こされた午後。
その割に特に予定はないのはいつものことだった。
念の為、カレンダーを眺める。
空白と、二桁の数字が目に入った。
季節は十一月だった。
「向日葵かあ。」
呟いた声はどこか弱々しかった。
そういえば、今年はまだ見に行っていなかったか。
期待はしていないが、手元にあったスマホで検索してみることにする。
すると、予想外の検索結果が出てきた。
この時期にでも観られる向日葵があるらしい。
渡りに船とはおそらくこのことか。
独りでに納得し、彼女に話しかけてみる。
「向日葵の話なんだけどさ」
「ん?どうしたの」
「この季節に観れるひまわりがあるんだって。
車で一時間。意外と近いけど、どう?」
答えは自ずと決まっているようなものだった。
「ほんとに?行きたい。」
そう高らかに返事をする彼女の瞳は輝いていた。
向日葵か。
向日葵は太陽の方を向く、誰もが知っている有名な話だ。
ただ実際は、光が当たらない茎に成長ホルモンが集まっていて、その成長を促進させているらしい。
まるで彼女に出会うまでの俺のようだ。
俺は女性が苦手だった。
酒に逃げ、暴れる母を見てきたからか。
旦那がいる相手と関係を持ったことがあるからか。
女性と上手く信頼関係を構築できた試しがなかった。
何となく付き合っては別れることを繰り返し、傷つけるのにも、傷つけられるのにも飽きていた。
そんな日々の中、彼女と出会った。
細身で幸薄そうな表情、穏やかな声。
少し気が抜けていて、純粋。
なのにどこか芯があって、
だらしのない俺としっかり向き合ってくれる。
この人だけは傷つけてはいけない。
いつの間にか、そう思っていた。
軽く食事を済ませてから、片道一時間ほどかけて目的地の向日葵畑に到着した。
「うわあ、凄いね。」
辺り一帯、目に入る景色が黄色一色で、まるで大きな一枚の絨毯が敷かれているようだ。
向日葵畑へと踏み込み、
彼女と共に、その絨毯の柄の一部になる。
「来れて良かった。」
嬉しそうにはしゃぐ彼女をみていると、俺の中にある光の当たらなかった日々など、そもそも初めからなかったかのような気にさえなる。
いや、その日々があったからこそ、今こうして彼女と過ごしていられるのか。
ここに咲いた向日葵たちは、夏の向日葵たちに少し遅れて太陽を見つけられたらしい。
それは俺も同じだった。
「太陽みっけ。」
少し冷たい風が悪戯に邪魔をする。
「え?」
そうだ。
この人の方を向いて咲いていれば、きっと大丈夫。
俺が向日葵なら、俺にとっての太陽の方を。
一面に、黄色が広がる。
季節外れの向日葵は、秋の高い空に浮かぶ太陽に向かって真っ直ぐに伸びていた。
↑企画に参加させて頂きました。
お題に感謝します。
最初の数回の投稿は挨拶がなく、失礼致しました。
今回もよろしくお願い致します。
