(連作短編)みつば荘の住人 第十三話 「その日への備え。」
令和8年熊本地震により被災された皆さまへ、心よりお見舞い申し上げます。
一日も早く安心して暮らせる日常が戻ること、そして被災された皆さまの安全と、一日も早い復旧・復興を、秋田の地から心よりお祈りしております。
秋田で、地域づくりやワイナリーのお手伝いをしながら暮らしているJack Kate Yeohです。
夕方のみつば荘。
共有スペースのテレビでは、令和八年熊本地震の被害を伝えるニュースが流れていた。倒壊した建物、断水が続く住宅街、避難所の映像…。部屋の空気は自然と静かになる。
修一がテレビから目を離さずに口を開いた。
「十年前の熊本城の石垣が崩れた映像も衝撃だったけど、今回も言葉が出ないなぁ……。」
少し間を置いて、ふと思い出したように正治へ向き直る。
「別のニュースでやってたけどさ、工事現場で使う発電機って家庭では使えないの?お肉屋さんだったかな、業務用冷蔵庫は何とか電源をつないでたけど、家電は駄目だって言ってた。」
正治はうなずいた。
「使えないわけじゃないけど、注意が必要なんだ。インバーター発電機なら家庭用の電気製品にも使えるはずだよ。波形が違うんだ。災害時にスマートフォンやパソコンなんかを使うなら、百ボルト出力対応のインバーター発電機じゃないと安心できないね。」
「そうなんですね。」
美月は少し驚いた表情を見せる。
「工事現場で見かける発電機なら、どれでも家庭で使えるものだと思っていました。」
「そう思う人、多いんじゃないかな。」
正治が笑う。
修一はニュースを見ながら静かに続けた。
「被災した人のインタビューを見てると、まずは水。それから車中泊するためのガソリン。少し落ち着いてくると、今度は電源の確保って話になるんだよな。」
「秋田は大きな地震は少ないけど、水害もあるし、大雪だって災害だからな。」
その言葉に美月もうなずく。
「そうですよね。鷹巣神社例大祭の山車も、大雪で壊れてしまったんですものね。」
「そうそう。」
修一は共有スペースを見渡した。
「ここは普段はみんなが集まる場所だけど、もしもの時は地域の人も集まる場所になるかもしれない。前から、少し備えがあればいいなって思ってたんだ。」
「今度、大家さんに相談してみましょう。」
美月が明るく言う。
修一も笑顔になる。
「ガソリンじゃなくて、カセットボンベで動く発電機もあるみたいだしね。今度みんなで調べよう。それと飲み水、ラジオ、モバイルバッテリーなんかも、最低限そろえておきたいよな。」
「一人で備えるより、みんなで知恵を出したほうが安心ですね。」
美月の一言に、その場のみんなが静かにうなずいた。
テレビでは、全国から支援物資が被災地へ向かう映像が映し出されていた。
災害は、いつ起こるか分からない。
だからこそ、大切なのは特別な準備ではなく、自分たちの暮らしに合った小さな備えを少しずつ積み重ねていくこと。
そして、その備えを一人ではなく、地域のみんなで考えられる場所があること。
今日も、みつば荘の共有スペースには、未来の安心へつながる小さな会話が流れていた。
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