【連載第3回】形而上/形而下【すごい語彙・言の葉たちの詰め合わせ】
0003:形而上/形而下
1,最近あまり使わない?
「形而上」と「形而下」という言葉は、特定の分野においては、欠かせない重要語である。
なぜこの2つの対義語が重要なのか。
ある企業のトラブルと絡めて言葉の意味を考えてみたい。
2,じつは「形而下」から定義すると、すごくわかりやすい。
「形而下(けいじか)」とは英語で「フィジカル」のことだ。
ただし、注意が必要だ。我々が普段「フィジカル」という言葉を使うときは「肉体」や「筋肉」や「体力」といった意味合いで用いられることが多いけれども、実は多義語である。
私は『英語語義語源辞典』(小島義郎他 三省堂)を愛用しているので、そちらから「physical」の解説を引用する。
【一般義】精神的とは対照的な肉体の、身体の。【その他】道徳的とは対照的な肉欲の、肉欲にふける、肉体的欲求の。[形式ばった語]本来の自然(界)の、自然の法則に従ったという意味から、物質の、物質的な、物理的なの意。また自然科学の、特に物理学(physics)の。(以下略)
いろいろ書いてあるけれど、日本人からすれば「肉欲」と「物理学」を同じ言葉に閉じ込める感覚は理解できないだろう。教科としての体育を「physical education」というが、「物理教育」や「肉欲教育」とは決して訳さない。
英語における「フィジカル」をわかりやすくイメージすると、
目で見えて、手で触れることのできるもの。
と捉えるとよい。目に見えない素粒子なども「物理的なもの」であるけれど、そういう例外的な細かいところは気にせずいうと「目に見えて、触れられるもの」と解しておくのがよいのだ。
会社に例えれば、社屋やオフィスや一緒に働く仲間、商品や備品、売上高や経費も、これらは全部「形而下」のものだ。
3、さて「形而上」のお話。今回のキモ。
では対義語となる「形而上(けいじじょう)」といえば、形而下の反対をイメージすればよい。
肉体的、物理的な意味合いと、対を成す。
ところが「精神的」=「mental」ではない。
英語では「metaphysical」という。
「メタ認知」の「メタ」だ。メタフィジカル。
ギリシア語の接頭辞「meta」は「~を超えた」と訳す。
厳密にいえば、メンタルは、実はフィジカルの対義語として使えない。
たとえば「メンタルの不調」を「精神的疲労」という言い方もするけれど、
実際には脳の疲労や炎症によって起こる物質的な反応なのだ。本来はフィジカルの問題として捉えるべきで、だから精神科という医療の専門分野がある。
脳内の疲労や炎症は、まだまだこれからの研究分野で、わかっていないことが多すぎる。よって便宜上「精神的なもの」として扱っているに過ぎない。
形而上とは、これらとはまた次元が違う。
「物質的なものを超えた」
とはどういう事なのだろうか。
具体例があるとわかりやすい。
会社の場合はひとつには「理念」だ。例を挙げる。
「すしに真っすぐ!」
これは「スシロー」が最近打ち出している理念である。理念とはなんぞやということはまた別の記事で。え?スローガンじゃないのって?そう。スローガンとは、理念を短いフレーズで言い表したもので、これもスローガンだといえる。
お店の待合にいると、「すしに真っすぐ!」というフレーズが男性の声で何度も流れてくる。
その割にデザートメニューが充実していたり、有名ラーメン店とコラボしていたり、形而下では真逆のことをやっているようにも受け止められる。
「すしに真っすぐ!」
という言葉は、具体性が無く、勢いが先行した、前向きな雰囲気だけの、あいまいな表現だと解釈されるかも知れない。
ただ、これまでの事故・事件・トラブル・やらかし等からの学びがあって、そこからこの言葉が出てきた経緯がある。
・サイドメニューにも「お寿司屋さんのメニューであること」にこだわりがあって、例えばウイスキーひとつとっても、サントリーの「角」なのだが、これ、「一般に流通している角」ではなく「スシローのお寿司に合う用にカスタマイズされた角」でハイボールをつくっている。
・水産資源の確保だけでなく「保護」にも非常に力を入れている。
・厳重に定められた基準が数多くある(ある水産加工会社の人が「品質基準はスシローさんがダントツで厳しい!エグい!」と言っていたのを直接聞きもした)。
・マグロの解凍の手順ひとつとっても、おそらく他が真似できないレベルで細かい。温度管理をはじめ品質管理は本当に厳しい。賞味期限もそこまでやるかという位に徹底的にチェックを行う。
これらの企業努力を照らし合わせると、この「すしに真っすぐ!」という言葉が、俄然説得力を帯びてくる。
なぜ私がスシローに詳しいかというと、株主であると同時に、中をよく知っているからだ。手洗いの厳しさはたぶん業界一だし、シャリの温度にまで徹底的にこだわって、ものすごい手間暇・コストをかけている。商品にもよるけれど、1皿あたりの利益はきっと、どこよりも低いだろう。
これらの形而下の徹底ぶりは、形而上の「ものさし」が強くあるからだ。
4,いちばんたいせつなことは、目に見えない
『星の王子様』という作品がある。フランスの飛行機乗りでもあったサン=テグジュペリの作品で、もう解説なんて必要ないだろう。
私は恥ずかしい事に9歳のときに初めて手に取ってから最後まで読み切ったのが51歳だった。
でもだからこそ、人生を歩んできた中で得た様々な経験、教訓、学びが、この作品をよりカラフルなものにしてくれた気がする。
あまりにも有名なセリフがある。
いちばんたいせつなことは、目に見えない
これがどういうことなのか、子どもが受け取る意味合いと、人生経験を重ねた大人が受け取る意味合いと、やはり変わってくるものだ。
私は決して、形而下を軽視し、形而上を重視すべきだなんて思わない。どちらが重要か、という話ではないのだ。
理念を伴わないサービスや「儲かればいい」という相手より、私自身が共感できる理念を伴ったサービスを受けたいと思うし、同じお金と時間を費やすのであれば、その理念ごと味わいたい。
だいたい「ブランド」とは、形而上の何かが突出していて、そこに裏付けられた形而下の素晴らしい品質があって、はじめて成り立つ。「ブランディング」という言葉がたいそう軽くなった今でも忘れてはならないのは、この点である。
「哲学」と呼んでもいい。「形而上学」といえば、「哲学」の伝統的領域なのだから。
さて、話題はもうひとつの全国チェーン店に移る。
なぜ、すき家で、ネズミが混入したり、ゴキブリが混入したりするのだろう。
お店をキレイにすれば済む話なのだろうか。新店みたいにピカピカだと喜びの声を聞く。これはいわゆる「対処療法」であって、問題の根本的な解決とはならない。そりゃ会社がいちばんわかっていることだろう。
以前はワンオペの過酷な労働実態が問題になっていた。それで「改善した」とされていたけれど、ウチの近所のすき家では、ワンオペは普通にあるとワンオペの店員さんが教えてくれた。「喉元過ぎれば熱さを忘れる」という額縁を社長室に飾っておいて欲しい。
どんな商品を、どんな価格で、どう提供するかは、形而下の問題。安心・安全をどう維持・管理していくかも、形而下の問題。これらを軽視してよいわけがない。
ただ、いくら目先のことを変えたところで、根っこが変わらなければ、また事故は起こる。
その根っことは、形而上の問題なのだ。
「ゼンショー」とは「全勝」が由来だそうだ。
何に勝つのか。誰に勝つのか。
それは「お店に来るお客様と、そこで働く人たち、両方の笑顔、安心、満足」で、ナンバー1を勝ち取って欲しい。
ただ目先の数字ばかり追いかけているから、こうなるんだ!って経営陣わかってるよな!?な?
世界の飢餓と貧困を撲滅するという理念は素晴らしいけれど、それを現場のワンオペで疲弊し切っているアルバイトスタッフとどう共有するというのだ。高らかにお題目を掲げても、現場に形而上の理念が浸透していかないと、ただの文字でしかない。
ところで、
牛すき鍋をレギュラーメニューにして下さい<(_ _)>
参考資料
Feloのエージェント機能で資料を作ってもらった。分量が多いのでpdfにした。Claude3.7 Sonnetでまず原稿を作成し、GPT-4oで仕上げる手順を取ってくれる。平気で間違うし、粗削りなところもあるけれど、「考えるヒント」をもらえるという点で、月2千円くらいで毎日飽きずに付き合ってくれる、こんな素敵な相棒は中々いない。
お時間が許せばどうぞご参照ください<(_ _)>
第4話につづきます_(:3 」∠)_←実は4月なのに風邪ひいてダウン中
いいなと思ったら応援しよう!
よろしければ応援お願いします<(_ _)> いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます<(_ _)><(_ _)>