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【映画感想】愛無き冷酷な「バッド・アロマンティック・アセクシュアル」が映画『そばかす』を観て思ったこと

「恋愛をしたことがない、そういう感情もない。 だけど楽しく生きていける―」 それが私だと思っていた。

私・蘇畑佳純(そばた・かすみ)、30歳。
チェリストになる夢を諦めて実家にもどってはや数年。
コールセンターで働きながら単調な毎日を過ごしている。
妹は結婚して妊娠中。 救急救命士の父は鬱気味で休職中。
バツ3の祖母は思ったことをなんでも口にして妹と口喧嘩が絶えない。
そして母は、私に恋人がいないことを嘆き、
勝手にお見合いをセッティングする。
私は恋愛したいと言う気持ちが湧かない。
だからって寂しくないし、ひとりでも十分幸せだ。
でも、周りはそれを信じてくれない。
恋する気持ちは知らないけど、ひとりぼっちじゃない。
大変なこともあるけれど、きっと、ずっと、大丈夫。
進め、自分。

公式サイトより

恋愛感情がなく、性欲も無い主人公を描いた作品。
知ったきっかけはAスペクトラム関係の集まりで、教えていただいて。
ちょっとしんどい内容らしい…という前情報をいただいていたので、寝かせておきましたが漸く観ました。
ちなみに作中には「アロマンティック」や「アセクシュアル」という言葉は出てきません。

「なんか人間って、ずっとセックスの話してるよね」
「わかる」

朝井リョウ『正欲』




■「恋愛結婚繁殖教団」から排除されないために--マジョリティのつらさ

これ、Aスペクトラム当事者の方はどういう感想持つんだろうな。
結婚と繁殖(こういう言い方しか出来なくて少し申し訳ないけれど、この言葉が人間を生物学上で特別視したくない自分の価値観に合うので使っています)がすべての男女の常識である、それが達成されなければ不幸になるという宗教から、「異端者」である主人公がボコボコに叩かれている内容。

当事者サイドとしてみるとまあ確かにしんどい。
でもなんか同じくらい、私はこの「恋愛結婚繁殖教団」の信徒のみなさんのしんどさも可哀そうだなと思った。
作中で驚いたのが、主人公の父が「母さんは他の男が好きだったけど別の人と結婚した(だから自分と結婚した)」という告白。
え、そこまでして結婚を?と思ったけれども、「恋愛結婚繁殖教」に入信しないと排除され、疎外される圧力が強かった時代に、自分の思うようにふるまえなかったら一体どうなるのか。
みんなそうしてるからというだけの理由で「望まない結婚、繁殖」をし、自分にとってベストだったかもしれない選択を逃した、自分の人生を奪われたと思い続けることは、きっととてもつらい事なのかも。
例えば件の母親の若いころ、「好きな人と結婚できなかったから、それなら一人でもいっか!」と思える時代だったらば、我が子にこんな、良く言えば心配、悪く言えば過干渉とコントロールをしようとするかな。
そうするしかなかったという圧力って、しんどいものですよ。挫折感と後悔が少なからず残る。

「恋愛結婚繁殖教」を信じられない新しい世代の人に、「そう、あなたはそうなのですね」とふるまえる聡明な人格者の方が、よほど少ない。
自分が何かしらで大きな不利益を被ってきた場合、同じ目に遭わせないとアンフェアと思ってしまうのがきっとマジョリティなんです。
生活保護受給者叩きとか、同種だと思う。
「狡い」ってなっちゃうんでしょうね。
近代以降に恋愛とかいうおしゃれなパッケージで誤魔化すようになったとしても、その実目的は交尾だもんね。
義務としての婚姻と交尾。これはつらい。

マジョリティであるって、こういう見方をするとしんどいことだろうなと、少し物事を俯瞰して見る気持ちが高まった。

■この作品にも「私」は居なかった

それにしても、この主人公は人格的になんら問題が無いなぁ。
とても優しく、思いやり深く、人見知りでも社交嫌いでもない。おだやかで、感じよくていい人だ。
まあ恋愛/結婚のことでもめてるけど、家族関係も良好。
「優等生」だなあ、と、自分の中の性格の悪い部分がそう直感的に思わせた。
更に言うと、こういうキャラクター像の方が人に受け入れられやすいという戦略もあるんだろうなと推察する(Aスペクトラム関係のコンテンツを見るときにいつもこう思っている)。
性格悪くてみんなから嫌われてるアロマンティック・アセクシュアルなんて、セクシュアリティと人格否定が結びつく危険もありそうだし。
まあ、ただでさえ弱い立場にあるAスペクトラムのネガティヴ・イメージなんてリスクか。

自分のように機能不全家庭で虐待を受けて様々な精神の問題を抱え、認知の歪みから社会に適応することが困難で、性格の悪い、人間が苦手なアロマンティック・アセクシュアルから見ると、『そばかす』の主人公みたいな人は眩しい。
まあ、善良で家族仲も良い人間であるからこその苦しみがあるというのも勉強になるわけですが(自分は毒親と絶縁しているのでカミングアウトという難題は免除されているし)。

主人公が音大卒業した後、音楽の道でやっていけず、地元に帰って非正規でコールセンターで働いているという設定。
美大崩れで就活失敗し大した職に就けず、ほとんど非正規雇用で転職を繰り返し、しかもマジョリティ側の妹もいるという事でかなり共通点はありそうなもので期待していたのですがね。
Aスペクトラムの中に位置するという共通点があったとしても、全然違う。
しかし全然違ったとしても、例えばAスペクトラム当事者のコミュニティで恋愛伴侶規範や性愛規範について「マジ意味わからん」と共感しあうことはとても有効。
少なくとも、私の精神の炎症を起こしている一部分に、作用しているのを感じる。
人と喋っていると「自分はこの場において迷惑な存在だ」と信じてしまう認知の歪みがあるため人付き合いは相変わらず苦手だけれど、これからもちょくちょくそういう場には足を運びたい。
例え、劣等感に苛まれたとしても。
それ以外の課題は、自分で地道に取り組んでいくしかないな。

■『そばかす』の主人公は優しすぎる

ちょっと自分の話の比重多すぎたので、最後にもう少し作品の細かい部分の話。
仲良くなった男性とホテルの部屋で酒飲んでたら、急に恋愛ムーブ出してきたの気持ち悪すぎてゾワッとした。個人的にはこれが本当に気持ち悪くて。過去のいろいろを思い出してオエッ。
しかもこれすごく悲しいのが、主人公が、フラれて勝手に傷心してる男に対して「私が自分の部屋に入れるって言わなきゃよかったのかな」「ごめんなさい」と謝ってたシーン。
男サイド…というか、恋愛/性愛規範側から見ると、主人公の態度っておそらく「おもわせぶり」とか言われるやつなんだろうな。
「暗黙の了解」みたいなのが本当によろしくない。この場合は、女が自分の部屋に男を招いたならヤッてもオッケーみたいなあれですよ。意味分からん。
言葉話せるなら会話をしろよと。
普通に仲良くしてただけなのにね。こんな優しい人にこういう言い方させてしまうんだったら、やはり恋愛/性愛規範ってトキシックだ。
精神的に人間として仲がいいんだったらそれでいいじゃんと思うけど、世の大半はセックス(繁殖)がゴールだもんなあ。

「恋愛するのは人として当たり前であり、それ以外は在り得ない」という大前提からくる言葉もありましたね。
主人公が「子供の時告白されたけど、恋愛感情が分からなかった」とゲイの同僚に言っても「それくらいの年のころはそういうもんでしょ」と言われてしまったり。
妹に「お姉ちゃんが男とデートしたり結婚しないの、レズビアンだからなんでしょ」とか家族の前で言われたり。
こういう言葉を食らうと、「ああ、何を言っても無駄だな」という気持ちが強化されていく。

あとあれ、紙芝居一緒に作った元同級生の結婚のくだり。
急にルームシェア解消したって「元カレとよりを戻して結婚することになった」んなら、許されるっていう考えは、謝りつつもあの元同級生にはあったと思う。優先順位をつけたという事実を、主人公に対して、直接的に言葉にしなくとも暴露している。
それに「おめでとう」と祝福する主人公の優しさに、やるせなくなった。
結婚を「おめでとう」と言うのって、「恋愛結婚繁殖教団」の言語なのにね。その言語に合わせてあげるだなんて、しんどいな。
もし自分が同じ状況になったとしても、「結婚おめでとう」は言わないな。
自分には結婚・出産=おめでたいことという「恋愛結婚繁殖教団」の信条には一切共感しないから。

まあ自分ならせいぜい「そうだったんだね。正直もうちょっと早く言ってほしかったけども、それだけ言いづらかったんだね。話してくれてありがとう。わかりました。」という返答になるかな。

とまあ、ひねくれ者の性格悪いアロマンティック・アセクシュアル当事者の『そばかす』感想でした。
観なくてもよかった感じの内容だけど、ま、当事者間での話のネタには出来るかな。
最後のあの、「発信したら、同じような悩みを持ってる人に届いて、良い影響がある」というのは希望だった。
自分の発信がそのようなものになれるかは不明だけど、複合マイノリティかつ「性格の悪いアロマンティック・アセクシュアル当事者」(笑)としてこれからも実在している事実はnoteに書き残していこう、、、


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