台湾育ちの白先勇 : ジョイスに匹敵する短編の名手


“A Touch of Green”
この作品は、台湾育ちの作家、白先勇(パイシエンユー、1937~)の短編集『台北人(Taipei People)』の中の一編 。枚数にして20頁ほど。私は英語版で読んだので、タイトルが日本語ではどう訳されているかは分からない。中国が日本軍に攻撃されていた時期の中国、南京に本拠地を置く空軍のパイロットたちとその妻たちの話である。日本軍が去り戦争が終わったと思う間も無く、内戦(共産党と国民党の戦い)が始まる。すでに日本軍との空中戦で何人ものパイロットが帰らぬ人となっているため、妻たち(国民党側の空軍関係者の官舎に住む)は心が休まらない。短編は編成隊の長を務める指揮官の妻を語り手に、才能豊かで魅力的な若いパイロットと結婚するも、すぐ夫が内戦で死亡してしまう口数の少ない若い妻の様子と、共産化した中国を離れ台湾に移った後、語り手が偶然再会した、その女性の変貌に驚く、というストーリーになっている。

作者の白先勇は有名な国民党の将校の息子で、台湾に逃れた後、アメリカに移住。作家たちの「道場」とも言えるアイオワ大学の文学ワークショップで学び、作家活動とともにカリフォルニア大サンタバーバラ校で中国文学を教えた。アメリカでは『台北人』を彼の代表作として扱い、モダニストのジョイス(James Joyce) の “Dubliners (ダブリン市民)”と比べられる傑作としている。短編の切れ味の良さも素晴らしいが、とにかく登場人物がすべて、心に沁みてくるように描かれていて、これなら「小説の肝は人物描写」と言われる庄野潤三さんも「いいね」したのでは、と思わせる。

この短編を基にした同名のドラマシリーズもネットフリックスで見たが、面白かった。31話からなる長いシリーズで、パイロットや妻たちの日常の暮らしぶりが詳しく語られる。短編にはない人物も加えられているが、それぞれ異なる三組の夫婦あるいは恋人たちに焦点を当て、時に心を揺さぶられる展開になっている。台湾で数々の賞を取っているのも納得できる。

(『台北人』というタイトルの岩波現代文庫版が、日本アマゾンにありました)

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