大陸は地続きだけれど
今日も、いつものように二階のリビングで書いている。
ちょうど国立病院の森の向こうを、イスタンブール空港へ向かう飛行機が、着陸に向けて高度を落としている。夕方のラッシュになると、次々と通っていく。
すぐ真上では、以前の国際空港だったアタテュルク空港へ向かうプライベートジェットが、鳥の鳴き声の間を、大きな音を立てて着陸へと向かう。
ここ最近通っている現場の近くでは、道端のフェンスに絡みついたジャスミンのつたが、一斉に花を咲かせ、あたり一面に香りを放っていた。
この季節に咲くんだぁ。
トルコ語では「ヤーセミン」といっていて、今までジャスミンとなかなか結びつかなかった。
昨日、奥さんが出してくれた、冷やしたジャスミン緑茶を思い出した。最近暑くなってきたこともあって、いろいろなハーブ系のお茶を冷やしている。
今も、隣にクシュブルヌというお茶がある。調べてみると、ローズヒップというらしい。ちょっと酸っぱい香りがする。
そんなジャスミンのフェンスのそばを歩きながら、火曜日のことを思い出した。
来週末、奥さんと二人で、チェコのプラハに二泊三日で行く予定だった。
一か月ほど前、知り合い夫婦から、
「今度プラハで、親同士の婚活パーティーがあるから来ないか」
という誘いがあった。
以前、息子くんが、
「結婚するなら、ブロンドの髪かなぁ」
などと冗談のように言っていたのを思い出して、何かしらのご縁があるかもしれないし、まぁ、二人でプラハを旅行するのも悪くないと思い、参加を決めた。
すぐに航空チケットを取り、奥さんのビザ申請を始めた。
私はビザがいらない。
申請は大使館では受け付けておらず、一手に仲介会社が扱っていて、必要書類と手数料二百ドル近くを払って申請した。
最後に予約制の面談があったが、仲介会社の人も、
「たぶん大丈夫でしょう」
と言っていた。
ところが、ふたを開けてみると、いろいろな理由がつけられ、ビザは下りなかった。
申請前から少しは気になっていたが、トルコからヨーロッパへのビザは、なかなか下りにくい。
八年ほど前にも、オーストリアへ行こうとしたとき、ビザは下りなかった。
仕事から帰って、その話を奥さんから聞いたとき、とても腹立たしくも感じた。
大陸では地続きなのに、何か大きな壁のようなものがあるようにも感じた。
ヨーロッパはキリスト文化、トルコはイスラム文化。
長い歴史を考えれば、なかなか相いれないものもあるのかもしれない。
私も今回のビザの件で、どこか上から見られているような感覚を覚えた。
もちろん、そんなつもりはないのだろう。
けれど、長い歴史の中で築いてきた豊かさや制度への自信が、知らず知らずのうちに、相手との間に小さな距離を作ってしまうこともあるのかもしれない。
一方で、トルコの人たちを見ていると、そうした距離に対して、率直に怒りや悔しさを表す場面にも出会う。
お義母さんも、ヨーロッパやアメリカの話になると、どこか対抗心のようなものを口にすることがある。
きっと、どちらの側にも、それぞれの歴史や誇りがあるのだろう。
イスラム文化とキリスト文化。
どちらかが変わるのではなく、お互いが、自分たちの中にある小さな壁を見つめることを、時代が求めているのかもしれない。
今回、結局私一人だけで、プラハに行くことになった。
チェコの人だけでなく、ヨーロッパ各地からも参加するようだ。
たった二泊三日だけれど、ヨーロッパの人たちと接することで、いろいろなことを感じるだろう。
ましてや、未来の家族になるかもしれない人たちと接するのだから、いいか悪いかは別として、複雑な感情が湧いてくるかもしれない。
それでも、何かしらの壁が、少しでもなくなればと思う。
息子くんが、
「ブロンドの髪かなぁ」
と、ふと言ったことにも、何か意味のようなものがあるのかもしれないなぁ。
それより、どうしようか、英語。
しばらく話していなかったから、どうなることやら。
まぁ、いろんな技術も発達したし、昔ほど困ることはないかな。
ふと、一面のジャスミンの香りの中を仕事に向かいながら、そんなことを思い浮かべていた。
