フラクタルとは何か?──コッホ曲線から雪の結晶へ
みなさんはフラクタル図形という言葉をご存知ですか?
フラクタルとは、ざっくり言うと
一部分を拡大しても、全体と似た雰囲気の形がまた現れる
(細部にも“同じような複雑さ”が続く)
という特徴をもつ図形・パターンのことです。
たとえば「ギザギザの線」を拡大したら、そこにもまたギザギザが現れる──
この “拡大しても終わらない複雑さ” が、フラクタルの特徴です。
そして実は、こうした構造は自然界でもよく見られます。
雲の輪郭、海岸線、木の枝分かれ……そして今回の主役である雪の結晶もその一つです。
そこで本記事では、まずフラクタルの典型例として知られる コッホ曲線を取り上げ、
「フラクタルとは何か」「なぜ単純なルールで複雑な形が生まれるのか」を解説します。
そのうえで、自然界で似た構造をもつ例として雪の結晶に話を移し、コンピュータ上で 物理モデルに基づいて結晶構造を作ってみます。
1. コッホ曲線
1-1. 出発点は「1本の線」
コッホ曲線(Koch curve)は、フラクタル入門としてとても有名な図形です。
理由は簡単で、作り方が驚くほど単純なのに、繰り返すだけでどんどん複雑な形になっていくからです。
出発点は、一本の線分です。

ここから先は「同じ変形」を何度も繰り返していきます。
1-2. 変形ルールは1つだけ(1本を4本に置き換える)
コッホ曲線のルールは次の通りです。
1. 線分を 3等分します
2. 真ん中の 1/3 を「山型」に置き換えます
• 正三角形の突起を作るイメージです
3. 結果として、元の1本の線分は
長さが1/3の線分が4本つながった折れ線に置き換わります
つまり、
• 1本 → 4本に増える
• でも1本あたりは 短くなる(1/3)
という変形です。

1-3. “反復”が本体:できた線すべてに同じ操作
1回変形すると、線は4本になります。
2回目は、その4本すべてに、まったく同じ変形を行います。
すると線分の本数は
• 0回目:1本
• 1回目:4本
• 2回目:16本
• 3回目:64本
…と、毎回4倍に増えていきます。
回数を増やすほど、ギザギザは細かくなり、細部が増えていきます。




1-4. 拡大しても同じ構造
コッホ曲線の一番大事なポイントはここです。
どこか一部分を拡大すると、
「全体で見たギザギザ」と似た形がまた現れる
なぜなら、曲線のどの部分も「同じ変形ルール」を反復して作られているからです。
全体の中に「小さな同じ構造」が埋め込まれ、さらにその中にも「もっと小さな同じ構造」が…
という 入れ子構造になっていきます。

難しい言葉を使うなら「自己相似性」ですが、ここでは
“拡大しても同じ構造になる” と覚えれば十分です。
そして何より面白いのはこの操作を無限回繰り返すと面積は有限なのに長さが無限大になります!

自然界ではリアス式海岸なども同じような構造を持っています。これは海岸線のパラドックスと呼ばれ、フラクタルの生みの親であるフランスの数学者ブノワ・マンデルブロにより提唱されました。
海岸線の長さを測ろうとすると、実は「正しい長さ」がひとつに定まりません。
なぜなら、海岸線は滑らかな曲線ではなく、入り江や岩場の凹凸が連なったギザギザの集まりだからです。
• 大きい物差し(粗い尺度)で測ると、細かい凹凸を無視するので短く測れます
• 小さい物差し(細かい尺度)で測ると、凹凸を拾うので長く測れます
つまり、
物差しを細かくするほど、海岸線は長く見積もられていくということが起きます。
これが海岸線のパラドックスです。
2. 自然界にもあるフラクタル:雪の結晶
コッホ曲線は「人間が決めたルールの反復」でした。
では雪の結晶の形成過程では、何が反復しているのでしょう?
2-1. 雪の結晶の反復は「成長」
自然界でよくあるのは、次のような反復です。
• 何か(分子など)が 漂ってやって来て
• 表面で くっついて成長し
• 形が変わることで、次に当たりやすい場所が変わり
• さらに成長の仕方が変わる
つまり「形が変わる→当たり方が変わる→さらに形が変わる」という反復です。
この反復が、枝分かれやフラクタルっぽい複雑さを育てます。
雪の結晶は、これがとても分かりやすい例です。

2-2. 雪の結晶の基本構造
氷は分子の並び方(結晶の構造)の都合で、60°刻みの対称性を持つ。そのため雪は六角形のような形になります。
また、枝分かれして“フラクタルっぽく”なるのはなぜか?
雪の成長を直感で言うと、こうです。
• 分子が空気中を漂う
• 氷に当たって付着する
• 突き出した先端は当たりやすくなる
• 先端が伸び、さらに当たりやすくなる
つまり 先端が有利 になりやすい。
この正のフィードバックが、枝分かれを増やしていきます。
3. 雪の結晶をコンピュータで作ってみる
雪の結晶の生成のために、DLA(拡散律速凝集) と呼ばれるモデルを採用します。
DLAとは
• 粒子がランダムに歩き回る(漂う)
• 塊に触れたら、ある確率でくっつく
• それを大量に繰り返す
この「漂って、当たって、くっつく」の反復が、雪っぽい枝分かれ(フラクタル感)を作ります。
3-1. 対称性を仮定
ただし、このモデルはランダム性が強いので、普通に作ると左右がズレて「歪」に見えがちです。
一方、写真でよく見る美しい雪結晶は
• 60°回転で同じ(6回回転対称)
• 腕の中でも左右が揃って見える(鏡映対称)
がよく見られます。
そこで今回は対称性をきれいに見せるために、
腕の“型紙”を1枚だけ作って、鏡に映して、くるくる回して全体を作るという方法を取りました。ざっくり言うと万華鏡と同じ仕組みです。
具体的には「30°ぶんだけ計算して、鏡映+回転で全体を構成する」イメージです。
4. 結晶構造の作成例
雪の結晶は落下経路の気温や湿度の違いにより、"一つとして同じ構造がない"と言われるほど多様性があります。
本記事では次の2つを変数にしてシミュレーションしました。
• stick:当たった瞬間に、くっつきやすい度
• m:偶然の一発をどれだけ無視するか(ノイズを抑制)
1) Baseline(stick=1.0, m=1)

当たったら付く、いちばん素直な設定です。
見え方:枝分かれが自然に出て、中心部に全体と似た構造を持つフラクタル感ある形に
2) Delicate(stick=0.45, m=1)

付着しにくくした設定です。
粒子が表面近くを漂う時間が増え、細かい枝が育ちやすくなります。
見え方:繊細でモサモサした側枝が出やすい。
3) Smoother / Plate-ish(stick=0.9, m=5)

偶然の一発で形が決まりすぎないように、ノイズを抑える方向の設定です。
見え方:ガタつきが減って、面が埋まり“板っぽい”雰囲気に
5. おわりに
• コッホ曲線は、単純な反復操作が自己相似性を産む
• 雪の結晶も、拡散と付着の反復で枝分かれが育ち、フラクタルっぽさが形成されます。
• 雪の結晶の形成シミュレーションで対称性を揃え、設定差で構造が変わることを示しました。
フラクタルは単純な仕組みが繰り返されると驚くほど複雑で多様な形が生まれます。
この記事でその面白さが少しでも伝わったら嬉しいです。
