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雌阿寒岳のマグマだまり

2025年以降、雌阿寒岳では極小規模な水蒸気噴火や浅い地震活動、微動、地殻変動がたびたび観測されています。

ここで気になるのは、
「今後もっと大きな噴火につながるのか?」
「なぜ雌阿寒岳ではマグマを出す噴火が少ないのか?」
「最近の地震や地殻変動は何を意味しているのか?」
という点だと思います。

そんな中、2026年に、雌阿寒岳を含む阿寒カルデラ地下のマグマ・熱水構造を詳しく調べた比抵抗構造の論文が発表されました。

この研究によって、これまでバラバラに見えていた、
・深部低周波地震
・浅い地震活動
・微動
・地殻変動
・水蒸気噴火
などが、ひとつの地下構造として統一的に理解できるようになってきました。

今回は、
1 雌阿寒岳の地下構造
2 なぜマグマ噴火が起きにくいのか
3 最近の地震活動と地殻変動の解釈
この順番で解説します。


1 雌阿寒岳の地下構造

今回の研究は、Inoue et al. (2026) によるものです。
研究では、MT法(マグネトテルリック法)という手法を用いて、地下30 km程度までの比抵抗構造を推定しています。

比抵抗というのは、「電気の流れにくさ」を表す量です。
一般に、
・高温の流体
・塩分を含む熱水
・部分溶融したマグマ
などが存在すると、電気が流れやすくなり、低比抵抗として観測されます。

つまり、地下の低比抵抗体は、
「マグマや流体が連結して存在している場所」
を示している可能性があります。

今回の研究では、雌阿寒岳の地下に、大きく分けて3つの低比抵抗体があることが示されました。

浅部の流体・熱水領域(C1a)

まず最も浅い場所。
深さ2〜5 km付近に、体積約10 km³の低比抵抗体があります。
論文では、
“volatile-rich zone”
つまり、
「揮発性成分に富む領域」
と解釈されています。

これは、
・熱水
・火山ガス
・浅いマグマ由来流体
などが集まっている場所と考えられます。
現在の噴気活動や水蒸気噴火に直接関係している可能性が高い領域です。


中部の大規模けい長質マグマだまり(C1b)

次に深さ3〜15 km。
ここには、体積約500 km³にも及ぶ巨大な低比抵抗体があります。
論文では、
“mushy dacitic magma reservoir”
つまり、
「けい長質の結晶を多く含んだマグマだまり」
と解釈されています。

ここで重要なのが “mushy” という言葉です。
これは、完全に液体のマグマではなく、
・結晶
・部分溶融マグマ
・流体
が混ざった、半固体状の巨大なマグマ領域を意味しています。

研究では、この領域のメルト率は10〜25%程度と推定されていて、
「巨大ではあるが、基本的にはそのままでは噴火しにくい結晶マッシュ」
と考えられています。


深部の玄武岩質マグマだまり(C1c)

さらに深部。
深さ15〜30 km付近には、体積4500 km³以上という、非常に巨大な低比抵抗体があります。
これは、
“deep basaltic magma reservoir”
つまり、
「深部の玄武岩質マグマ供給源」
と解釈されています。

論文では、この深部マグマだまりから、流体やマグマが上昇し、それが浅部活動を支配していると考えています。


今回の研究の重要性

雌阿寒岳周辺は、地震観測網がそれほど密ではありません。
そのため、これまでは地下の詳細構造がよく分かっていませんでした。
特に重要なのは、
「浅い巨大マグマだまり」
が地震波速度構造では明瞭に見えていなかったことです。

つまり今回、
「雌阿寒岳直下に巨大な結晶マッシュ状マグマだまりが存在する可能性」
が具体的に示されたことは、大きな成果と言えます。


2 なぜマグマ噴火が起きにくいのか

ここが非常に興味深い点です。
雌阿寒岳では、
・水蒸気噴火
・小規模噴火
は比較的多い。

しかし、大規模なマグマ噴火はそれほど頻繁ではありません。
なぜなのか。

東北火山との比較

ここで参考になるのが、
Zellmer et al. (2019)
の研究です。

この研究では、東北地方の火山について、
・噴火頻度
・地下構造
・地質
を比較しています。

その結果、
「浅い場所に大規模な温かいマグマだまりを持つ火山ほど、噴火頻度が低い」
傾向があることを示しました。

一方、
蔵王山のように、
・浅部に冷たい岩盤
・固い上盤
を持つ火山では、噴火頻度が高いことが示されています。


なぜ温かいマグマだまりがあると噴火しにくいのか

今回の雌阿寒岳に当てはめると、
浅部に巨大なけい長質マグマだまりが存在している。
すると、深部から上昇してきたマグマは、
・温かい
・密度が低い
・柔らかい
この領域で止まりやすくなります。

つまり、
「深部マグマが途中でトラップされやすい」
ということです。

その結果、マグマそのものは地表まで来にくい一方で、ガスや熱水だけは上がってくるという状況になりやすい。

これが、
「水蒸気噴火は起きるが、マグマ噴火になりにくい」
という現在の雌阿寒岳の特徴を説明できる可能性があります。


では阿蘇山や桜島は?

ここで疑問が出ます。
「阿蘇山や桜島も大きなマグマだまりがあるのに、なぜ頻繁に噴火するのか?」
これは非常に重要な指摘です。
現時点では明確な答えはありません。

ただし一つ考えられるのが、
応力場の違いです。
九州は、比較的引張場。
つまり、地殻が開きやすい。
一方、
東北や北海道は圧縮場。
つまり、地殻が閉じやすい。

この違いによって、
九州ではマグマが上昇しやすく、
北海道・東北では停留しやすい。
という可能性があります。


3 最近の地震活動と地殻変動の解釈

今回の地下構造モデルは、
最近観測されている、
・浅い地震
・微動
・地殻変動
・深部低周波地震
を非常によく説明できます。

浅い地震活動

現在の浅い地震活動は、深さ1 kmより浅い場所に集中しています。
また、微動源もごく浅部です。

これは、
浅部熱水系の上部で、
・ガス移動
・流体移動
・熱水圧力変化
が起きている可能性を示しています。

つまり、
現在活発なのは、
「マグマそのもの」
というより、
「浅部熱水系」
である可能性が高い。


長期的地殻変動

2025年8月頃から、雌阿寒岳北東側では膨張性変動が観測されています。
過去の類似変動では、圧力源は深さ約6 kmと推定されていました。

これは今回の研究で推定された、
浅部マグマだまりC1bの上部
とほぼ一致しています。

論文でも、
“A sill-shaped pressure source is located at the top of C1b”
と述べられていて、
2016〜2017年の膨張は、
「C1b上部へのマグマ貫入」
と解釈されています。

短期〜中期的地殻変動

さらに、2025年9月以降には、
火口付近が持ち上がるような傾斜変動も見られています。
また、微動発生時にも膨張性変動が観測されています。

重要なのは、
この変動が、火口近傍では大きいが、少し離れると小さいという点です。

つまり、
非常に浅い場所の変動。
これは、
浅部熱水系の圧力変化
と解釈できます。

深部低周波地震

Kurihara and Obara (2021) は、
深部低周波地震と、
・地殻変動
・噴火活動
が、時間的に対応していることを示しました。

また、
Takahashi et al. (2012)
では、
・深部低周波地震増加
・井戸で観測された体積歪減少
の数日後に、
浅い地震群が活発化したことを示しています。

つまり、
深部で流体が動く

圧力変化が浅部へ伝播

浅部熱水系が刺激される
という流れです。

今回の比抵抗構造は、
「深部から浅部まで流体経路が連結している」
という解釈を強く支持しています。


まとめ

今回の研究で、
雌阿寒岳地下には、
・浅部熱水・揮発性流体領域
・巨大なけい長質結晶マッシュ
・さらに深部の玄武岩質マグマ供給源
が存在する可能性が示されました。

そして、
・深部低周波地震
・地殻変動
・浅い地震
・微動
・水蒸気噴火
これらは、深部から浅部へつながる流体系として統一的に理解できる可能性があります。

現時点では、
「すぐに大規模マグマ噴火」
という状況ではないと考えられます。
むしろ、
巨大な浅部マグマだまりが、
マグマを地表へ出にくくしている可能性すらあります。

ただし、
深部から大量のマグマ供給が起きれば、
この巨大結晶マッシュが再活性化し、
大きな噴火につながる可能性もあります。

今後は、
・深部低周波地震
・地殻変動
・熱水活動
・ガス活動
これらを総合的に見ることが、非常に重要になってきます。

本記事の内容の動画

https://youtu.be/PR1FJVfSYBI


参考文献

Inoue, T., Hashimoto, T., Aizawa, K. et al. Dense magnetotelluric imaging of the Akan Caldera (Hokkaido, Japan): insights into its magma plumbing system and caldera-forming reservoir. Earth Planets Space 78, 79 (2026). https://doi.org/10.1186/s40623-026-02398-8

Kurihara, R., & Obara, K. (2021). Spatiotemporal characteristics of relocated deep low-frequency earthquakes beneath 52 volcanic regions in Japan over an analysis period of 14 years and 9 months. Journal of Geophysical Research: SolidEarth, 126, e2021JB022173. https://doi.org/10.1029/2021JB022173

気象庁「雌阿寒岳の火山活動解説資料(令和8年3月)」https://www.data.jma.go.jp/vois/data/report/monthly_v-act_doc/sapporo/26m03/105_26m03.pdf

Takeshi Kuritani, Eiichi Sato, Keiji Wada, Akiko Matsumoto, Mitsuhiro Nakagawa, Dapeng Zhao, Kenji Shimizu, Takayuki Ushikubo,
Conditions of magma generation at the Me-akan volcano, northern Japan,
Journal of Volcanology and Geothermal Research,
Volume 417, 2021, 107323, ISSN 0377-0273, https://doi.org/10.1016/j.jvolgeores.2021.107323.

Hiroaki Takahashi, Tomo Shibata, Teruhiro Yamaguchi, Ryuji Ikeda, Noritoshi Okazaki, Fujio Akita, Volcanic strain change prior to an earthquake swarm observed by groundwater level sensors in Meakan-dake, Hokkaido, Japan,
Journal of Volcanology and Geothermal Research, Volumes 215–216,
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Zellmer AJ, Claisse JT, Williams CM, Schwab S and Pondella II DJ (2019) Predicting Optimal Sites for Ecosystem Restoration Using Stacked-Species Distribution Modeling. Front. Mar. Sci. 6:3. doi: 10.3389/fmars.2019.00003


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