映画感想文【トムボーイ】
2011年フランス製作
監督:リーヌ・シアマ
出演:ゾエ・エラン
<あらすじ>
ある夏休み、家族とともに新しい街に引っ越してきた10歳のロールは、自ら「ミカエル」と名乗り、少女リザをはじめとする新しく知り合った友人たちに、自分を男の子だと思い込ませることに成功する。やがてリザとは2人きりでも遊ぶようになったロールだったが、リザがミカエルとしての自分に好意を抱いていることに気づく。そのことに葛藤しつつも、距離を縮めていく2人。やがて、新学期の始まりでもある夏の終わりが近づき……。
ハラハラさせられる危うさと、むず痒い共感の得られる映画だった。
引っ越しで環境が一変、友人関係も新しく構築しなければならない。しかしそれは新しい自分を作るチャンスでもある。
今までの自分、特に失敗や恥ずかしい記憶は全部捨てて、理想の自分を作り直したい。
高校デビューなんて言葉がある通り、その心境は広く想像出来るものだろう。
主人公の少女・ロールは自分をミカエルという名前の男の子だと偽る。
おそらくはそれ以前から男の子のように振る舞い、一度ならず「自分が男の子だったら良いのに」と考えたことがあるからだろうが、さほどに深刻な心境や覚悟があっての行動だとは見えない。
子供時代の「ウチって本当は〇〇なんだ」とちょっとした変身願望でついた嘘と、それが思わぬ大事になってしまった失敗。
きっと誰もが多かれ少なかれ共感して、更にはほろ苦い思い出を蘇らせることだろう。
第二次性徴を迎える前の子供はとにかく中性的だから、本人が意図してそう振る舞えば「そう」としか見えない。
全くハンサムで、キュートで、危うくて儚そうで、観るものの視線を釘付けにする魅力を持った主人公だった。
必死に女性性を隠そうとするため、上半身裸の水遊びシーンも出てくる。れっきとした少女の上半身である。
物語を考えれば欠くことは出来ないし、これをカットしては作品が骨抜きになるだろう重要なシーンだが、実行した監督も俳優もなかなか挑戦的だ。多くの人は炎上やら的外れのジェンダー論やらを恐れて作るに躊躇するだろう。
お手製の「男の象徴」を抜けた乳歯と同じ箱にしまい込むところが、なんだかとても上手いなぁと思った。
ごく普通の家庭に育ち、家族仲は非常に良好で、だいそれた嘘をついても結局は穏やかに過ごす一家の様子にホッとするラストではある。
だからむしろ、彼女が今後どんな成長を遂げるのか想像が難しい。
マイノリティであることは咎められることではないが、悩ましいことであることは事実だ。ごく普通の、愛情ある家庭であればなおさら、自分を含め周囲の悩みは深くなるのではなかろうか。

