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読書記録:レモンと殺人鬼 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ) 著 くわがきあゆ

【虐げられる運命を捥ぎ取り、辛酸極まる欲望に身を任す】


【あらすじ】

十年前に洋食屋を営んでいた父親が、謎の通り魔に殺されて、一緒に不遇な毎日を送っていた妹の妃奈が遺体で発見されたことを機に、母親も失踪した謎を追う姉の美桜の運命の輪は回りだす。

あらすじ要約

洋食屋を営む父を佐神に殺害され、母が蒸発し、妹の妃奈まで不審死した姉の美桜が、理不尽な運命に抗い、真の自由を手にする物語。

 

不幸なのは自分だけじゃない。
貧困の国やついてなかったネットのつぶやきを見て、ほっと安堵する自分。
この人よりは、まだ自分は幸せ。
不幸を自慢するような生き方は健全ではないけれど。
自分が正しい、正義だと掲げて自信を持つのはどこか危うい。
いつ堕ちてもおかしくないと自分の心のバランスを保つ必要がある。

世の中は、とことん醜悪で不平等だ。
大切な肉親を二度も失ったのにも関わらず、被害者である美桜を興味本位で叩いてくる世間。
身に降りかかる災難は、不幸な星の元で産まれたと諦念する他ないのだろうか?
陰惨な事件の裏で、歪な家族の均衡がさらに崩れる。
見えていた立場が二転三転と入れ代わって、肉親を殺した通り魔であった憎き佐神が、憧憬の対象ととなる。
惨殺された妹の潔白を信じて、その疑いを晴らすべく行動を開始する姉の美桜は、サイコパスばかりの周りの人々に恐怖を抱く。

誰も彼も異常者。
幼い美桜に洋食店で提供する鶏を、屠殺するよう頼む父。
父を殺された恨みから加害者である息子を殺害して、その父親にその事実を突きつける妹。
人を斬ることを夢見て、チャンスを掴んだ佐神の父。
被害者妄想の激しい真凛。
自分以外の者に恐怖されることが許せない恋人の渚。
あらゆる手段を使ってでも、支配という復讐を果たそうとする銅森。

父親を通り魔に殺害されて、バラバラになった姉妹は、その絆まで理不尽に奪われてしまう。
しかも、その妹には生命保険殺人の疑いまでかけられた。
ただ、ラストには自分もなんてことはない、サイコバス側の人間であることを知った美桜。

「やはり妹も私と同じくらい惨めな人生を歩んでいたのだ。同類がいればいくらか薄らぐ」

そんな言葉を残して、新たな人生へと旅立った。
理不尽な痛みも悔しさも、同類がいればいくらか和らぐ。
不幸なのは自分だけじゃないと思えば、気持ちにも置き場所が出来る。
そんな考え方は歪かもしれないが、現代を生きるにはそんな風に物事を捉えた方が、実は楽かもしれない。
不気味に微笑みながら、人生の真理を悟って、歩き始めた美桜。 
佐神が理想的な人生のスタンダード。
彼のあとを追うように、虐げられる側から虐げる側へと転じた彼女。
まるで、後味が酸っぱいレモンのように僅かな苦みを残して、不気味な殺人鬼たちは明るい太陽の下で、悪びれもなく、群衆に擬態して、うごめいていく。

美桜は過去と罪を踏み台にして、自由な人生へ歩み出すのだ。










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