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読書記録:天才女優の幼馴染と、キスシーンを演じることになった 1 (HJ文庫) 著 雨宮むぎ

【かつての約束プロミスたがえぬために、最高のシーンを共に刻もう】



【あらすじ】

かつて幼馴染の少女である水沢みずさわ玲奈れなと交わした約束のため、どんな端役はやくでも努力を惜しまない高校生俳優である天野海斗あまの かいと
そんな彼のクラスに大人気女優にして、絶世の美少女に成長した玲奈が、歳月を経て転校してくる。

あらすじ要約
登場人物紹介


共にビッグな俳優になって再会しようと誓いを立てた海斗と玲奈が、時を経て新作ドラマの主演に抜擢される物語。


ドラマや映画を観ていると、まるではまり役みたいな演技をする役者アクターがいる。
まるで、そのキャラクターのすべてを具現化したかのような。
無造作に何気ない、そういった演技も弛まない努力の末に編み出されたものである。
ただ、演技とはあくまでも演じることであって、そこに本気や本物が宿ったときにどうなるのか。
よく、見たものしか書けない漫画家や小説家も存在するけれど。
本物を自然に演じるには、じかにやはり体験しないといけないものなのだろうか?

      

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役に没入して、いわゆるキャラクターに憑依することで、天性の演技を披露する玲奈。
一方で全体を俯瞰して、共演者の魅力を引き出すことに長けている海斗。
自らの努力値ステータスによって、台本理解の深さとスピード、登場人物の何気ない仕草を見逃さない観察力、何よりも黒子のように他の俳優の魅力を存分に引き立てる力が秀でていたからこそ、そのクレバーな技術は現場で 重宝 ユーティリティとされていた。

それぞれが、それぞれで映画やドラマといった物語のなかではなくてはならない存在。
だから、互いのスタイルや価値観をけして否定することはない。
いつか、とんでもない 大物 ビッグスターに急成長を遂げて、夢の舞台ドリームステージで再会しよう。
そんな互いが過去に交わした約束を忘れることなく、努力の汗と血の滲む自己研鑽を積み重ねて、それぞれの俳優の道を歩んで来た二人。
そんな積み重ねが結実けつじつして、再びあいまみえて、同じドラマの出演に漕ぎ着ける。

しかし、世俗や運命の評価とは、斯くも残酷なものなのか。
やはり、天才と凡才を比較するのならば、人々は天才が起こす奇跡を見たいと願ってしまうのだ。
いわば、宝くじを引くために、その人の夢の価値をお金で買っているようなもの。
海斗の周りを引き立てる演技も悪くはない。
されど、眼の肥えた視聴者たちは、もっとその先の予想を裏切るような奇跡ミラクルが見たい。
特に、役に完全に憑依する玲奈は、物語の世界観を上手く自分のなかで消化して醸し出すので、使う側からすれば安定感があって都合が良くて、その解釈の一致は視聴者には、確かな納得感と安心感を与えていた。

その才能ギフテッドが監督に認められて、玲奈は、ドラマに主役メインのヒロインとして抜擢される。
ドラマのタイトルは「初恋の季節」
まるで、今の二人の関係をなぞらえたようなおあつらえ向きな、旬なドラマである。
しかし、憑依型ゆえに、本物の経験や体験を実践しておらず、すべては頭のなかの絵空事であり、異性との付き合いはおろか、キスもしたことがない玲奈。
やはり、自分でリアルで体験したことでないと、演技に深みが生まれない。

それは、他の熟練ベテラン役者の演技を見ていても、つくづく感じていた。
役作りに苦戦する彼女を海斗が、もろ手を振って助けていく。
休み時間の台本読み合わせやドラマのためのデートを重ねては、その物語の解像度を上げていく、答えアンサー正解コレクトというものがない、途方もない時間を費やす作業。
果ては、ドラマの宣伝活動のために、一緒に様々な地上波放送のバラエティ番組に引っ張りだこになっていく。

もはや、二人には互いに対して、プライベートとパブリックの境目がなくなっていた。
二人で過ごす時間だけが、濃密に深まっていく。
ただ、二人は互いに普通とは欠けている感覚と部分を持っていることも自覚していたから。
傍にいると不思議と波長があって、その他の人にはない新鮮な居心地の良さを気に入っていた。
しかし、ドラマ終盤のクライマックスシーンのキースシーンだけが、何度重ねてもどうにもうまくいかない。

「役者」としてキスシーンに臨んだ二人だったが、公私と関わりを深めすぎたせいで、二人にとって、このシーンのハイライトが「役者」としてではないことに思い知らされてしまう。
それは自分という「個人」のなかで生まれてしまった感情パトス
どうしても、そのやり場のなき感情が上乗せされてしまう。

されども、今までの積み重ねがようやく、正当に評価されたうえで降ってきたビッグチャンスなのだ。
けして、無為にして終わらせたくない。
共に最高のドラマを創り出すために、さらに演技の創意工夫と試行錯誤を繰り返すなかで。
最終的に、練習の場として行き着いた遊園地にて、ドラマにだいぶ近いシチュエーションを生で体験することになる。
そこで演技開始アクションする、やり直しリテイクなしの、ぶっつけ本番ファーストテイク
瞬きすら許されない全集中する瞬間。
正念場を乗り切った玲奈は、ようやく本物の恋愛するという感覚を、肌身で実感することが叶う。

見る人が見れば、彼らのやりとりは、ベタベタのテンプレートありきで、甘ったるくて吐き気を覚えるかもしれない。
されど、逆接的に視点を変えたのならば。
だからこそ、恋愛に対してウブで純情で、世俗にまみれてスレていないからこそ。
その見たままに、感じたままに、余計なヴァイアスすらなく、素直に自らの感情に忠実に従って、演じることが出来る強みがある。

それは、もはや演じるという感覚よりも、むしろ素のままの自分の感覚に近い。
それ故に視聴者は、そのギリギリまで引き込まれるリアリスティックな躍動感と真に迫ったドラマチックな展開に酔いしれることが出来る。
どこまでも、役に対して真面目に真摯に取り組む姿勢をみせる二人だからこそ、成せる技量テクニックであった。

しかし、この仕事を真摯に貫いたところで、この業界では明確なゴールというものがない。
漠然とした先の不安のなかで、彼らは互いの存在だけがモチベーションを保つキーとなる。
ただ、仕事柄の関係である以上、私情を持ち込んでしまうと実に厄介なことも起きると自覚している。

マスコミ、メディア、スキャンダル。
そういった他人の幸福や不幸をおもしろおかしく脚色してははやし立てる、ハエやハイエナのような連中もゴロゴロいる。
しかし、今この瞬間を駆け抜ける彼らにとって、他人の仕事や遊びのケツを追っかけることに夢中になるような、そういった自分というものがない人たちに興味関心はない。
本懐ほんかい叶えたキスシーンを終えた後で、玲奈は海斗とまともに目を合わせることも出来ず、視線を地面へ落とす。
今までの心地の良かった相棒バディという関係性は消え去った。
これからの自分達の未来の可能性と、先行きの不透明さ極まるこの職業ジョブの、その明暗に期待と不安とが、胸中で激しく揺れまどう。

けれど、そんなためらいや葛藤さえもこう思ってしまうのだ。
「これは、誰にやらされたことでもない」
「すべて、自分から始めたんだ、全部自分で選んだことなんだ」

演技を越えた本物の恋が芽生えてしまった二人は、この先この職業とどう向き合っていくのだろうか?



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