見出し画像

ボディソープで髪は洗えるのか

2007年の総説ではシャンプーとは汚れを落とすだけでなく、低刺激性・泡・粘性・コンディショニング効果まで含めた髪と頭皮専用の処方であるという事実が示されました。では、ボディソープで代用するとなにが起きるのか。


シャンプーはなぜ専用品なのか

 コーンウォルの2018年のレビューは、シャンプーが汚れ・皮脂の除去だけでなく、すすぎやすさ・頭皮への刺激性・成分の毛幹への吸着性・コンディショニング効果までを統合して設計されることを示しています。この設計思想がボディソープとの根本的な違いです。

 ボディソープは皮膚の比較的広い面積を効率よく洗い流すことを優先しており、毛幹の繊細な表面構造や頭皮の酸性環境への配慮は後退します。トリューブの総説も、髪と頭皮の洗浄剤は洗浄力とマイルドさの両立が求められると強調しており、この条件を体用洗浄料は満たしにくいと整理されています。

pHと摩擦:アルカリ洗浄が髪に与える影響

 ディアスらが2014年に報告したデータによれば、頭皮のpHは約5.5、毛幹はさらに低く約3.67という弱酸性の環境です。アルカリ性の洗浄料を使うと、毛幹表面の負電荷が増大し、毛髪繊維間の摩擦(フリクション)が上がります。結果として、まとまりのなさ(フリズ)や切れ毛リスクが高まります。

 石けん系の洗浄料は特に硬水環境でソープスカム(石けんカス)を形成しやすく、毛幹や頭皮に残留してすすぎにくさやくすみを生むことも報告されています(ジョージとポトラパティ, 2021)。一方、低pH設計のシャンプーはキューティクルを閉じる方向に働き、毛髪のなめらかさと光沢を維持しやすくなります。

脂質の損失と残留の問題

 コデルチらの2023年の研究は、髪の表面脂質(「18-MEA」などの共有結合脂肪酸を含む)が毛幹の保護と感触に不可欠であることを示しています。1回のシャンプーだけでも抽出可能な脂質の約50%が除去され、繰り返し洗浄では70〜90%に達するという報告があります。

 洗浄力の強いボディソープを使うと、この脂質除去がより過剰になる可能性があります。加えて、ミラノビッチらの2020年の報告では、強い脱脂の繰り返しが頭皮バリア障害や乾燥性刺激皮膚炎の蓄積リスクと関連することが指摘されています。髪と頭皮にとっての洗いすぎは、頻度だけでなく、使う洗浄料の強さによっても決まるのです。

洗う回数より何で洗うか

 ボディソープの使用を避けるべき理由を述べてきましたが、洗髪の頻度そのものは必ずしも問題ではありません。プニャニらが2021年に行った研究では、アジア人集団を対象に高頻度洗髪と低頻度洗髪を比較したところ、高頻度のほうが頭皮・毛髪の状態が良好で、客観的な毛髪の悪化は見られませんでした。

 この結果が示すのは「何回洗うか」より「何で洗うか」が重要という点です。適切なシャンプーを用いた高頻度洗髪は頭皮環境を整える一方、洗浄料の選択を誤ると回数にかかわらず毛幹・頭皮に悪影響が蓄積します。

考察

 ボディソープで髪を洗ってもまったく洗えないわけではないと思います。しかし研究が示すのは、髪と頭皮には弱酸性でマイルド、かつすすぎやすく脂質損失を抑えた処方が求められ、体用洗浄料はその条件を満たしにくいという事実です。

 一方で、旅先や非常時など選択肢がないケースもあります。また、洗浄料の種類よりも頭皮や毛髪の個人差のほうが影響が大きいケースも否定できません。絶対に使ってはいけないと断言するより、「なぜシャンプーが髪用に設計されているのか」を知ることのほうが、自分に合った選択につながるのかもしれません。

参考文献

Coderch, L., Alonso, C., García, M., Pérez, L., & Martí, M. (2023). Hair Lipid Structure: Effect of Surfactants. Cosmetics. https://doi.org/10.3390/cosmetics10040107

Cornwell, P. (2018). A review of shampoo surfactant technology: consumer benefits, raw materials and recent developments. International Journal of Cosmetic Science, 40. https://doi.org/10.1111/ics.12439

Dias, M. G. G., et al. (2014). The Shampoo pH can Affect the Hair: Myth or Reality? International Journal of Trichology, 6, 95-99. https://doi.org/10.4103/0974-7753.139078

George, N., & Potlapati, A. (2021). Shampoo, conditioner and hair washing. International Journal of Research in Dermatology. https://doi.org/10.18203/issn.2455-4529.intjresdermatol20214930

Milanović, I., et al. (2020). Potential irritants and allergens in shampoos-type preparations. https://doi.org/10.33320/maced.pharm.bull.2020.66.03.054

Punyani, S., et al. (2021). The Impact of Shampoo Wash Frequency on Scalp and Hair Conditions. Skin Appendage Disorders, 7, 183-193. https://doi.org/10.1159/000512786

Trüeb, R. (2007). Shampoos: Ingredients, efficacy and adverse effects. JDDG: Journal der Deutschen Dermatologischen Gesellschaft, 5. https://doi.org/10.1111/j.1610-0387.2007.06304.x

#毛髪科学 #ヘアケア #シャンプー #頭皮 #洗髪

いいなと思ったら応援しよう!