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AIがコードを書く時代、SIerは何を売るのか② | AI駆動開発時代、SIerの役務と収益の組み直し

*自社の知見·技術*

AIがコードを書く時代、SIerはどの仕事で収益を生み出していくのでしょうか。開発生産性が向上する一方で、人月型ビジネスの前提は大きく揺らぎ始めています。本稿では、「判断品質」「責任設計」「業務設計」という3つの視点から、AI時代に求められるSIerの新しい役割と継続的な価値について考察します。


序章:「書ける」では、もう差がつかない

前作で、私たちはひとつの問いを立てた。
コードはAIが書く。では、SIerは何を売るのか
あれから一か月が経ち、その問いへの答えは、思っていたより早く見え始めている。
背景にあるのは、この一か月でAI開発を取り巻く環境が急速に変わったことだ。まずは、その変化をいくつかのデータで見てみよう。

GitHub Copilot を導入した富士通の社内データでは、2,400名の利用者のうち9割超が生産性向上を実感し、年間37.5万時間の作業が圧縮されたという。JUAS の2025年調査では、言語系生成AIを導入した企業の生産性改善幅は16〜30%に達する。Stanford HAIのAI Index 2025によれば、推論コストはこの一年半ほどでおよそ280分の1にまで下がった。
これらが示しているのは、単純な事実だ。
コードを書けること自体は、もう差別化の理由にならない

一方で、AI導入が進めば進むほど、新しい課題も見え始めている。問題は、AIそのものではない。AIを事業として運用する難しさだ。
Gartnerは2025年6月、agentic AIプロジェクトの4割超が2027年末までに中止されると予測した。Writer社の2025年調査では、経営層の多くがAI導入によって部門間の摩擦が増えたと回答している。一方で、Menlo Venturesによれば、エンタープライズの生成AI投資はわずか1年で3.2倍に拡大した。投資は増えている。しかし、成果につながる案件は、まだ限られている。

AIによって開発そのものは、確かに劇的に効率化した。
それでも、期待した成果を出せないプロジェクトは少なくない。
これは矛盾ではない。
価値を生み出す場所が変わったからだ。

前作では、SI契約を支える五つの前提──納品物、工程、責任、品質、費用──が同時に書き換わると論じた。
では、その契約の前提が変わった今、SIerはどの仕事で価値を生み出し、収益を得ればよいのだろうか。
本稿の結論は明快だ。
AI駆動開発時代のSIerは、「作る仕事」から、「動き続ける状態を保証する仕事」へと収益源を移していく。

AI時代、価値はどこへ移るのか

第1章:AIの判断品質をどう守るか

「動く」と「正しく動く」は違う

コード生成AIは、すでに開発現場の当たり前になりつつある。
さらに現在は、コードを書くことだけでなく、テストやデプロイまで一連の作業を担う「AIエージェント」へと進化し始めている。
しかし、それだけで業務が正しく回るとは限らない。AIはモデルの更新や利用環境の変化によって、少しずつ判断を変えていく。昨日まで正しかった答えが、今日も正しいとは限らないのだ。
従来のSIでは、検収が終われば品質保証も一区切りだった。しかしAI時代は、運用開始後も判断精度を監視し続ける必要がある。
この課題は、現場だけの問題ではない。
各国の規制やガイドラインも、「AIは運用し続けること」を前提に整備され始めている。
EU AI Actは、高リスクAIに対して継続的なリスク管理、データガバナンス、人間による監視を義務づけ、2026年8月から段階的に適用が始まる。日本でも、経済産業省・総務省の「AI事業者ガイドライン第1.2版」(2026年3月)が、AI開発者・提供者・利用者それぞれに継続的な点検義務を課している。金融庁の「AIディスカッションペーパー第1.1版」に至っては、金融機関に運用後のモデル劣化検知体制まで求めている。
つまり、これから求められるのは動くシステムではない。正しく動き続けるシステムだ。

SIerは『判断品質の設計者』になる

では、「正しく動き続ける状態」は、誰がどのように設計するのか、そこに、SIerの新しい役割がある。
AIが出力した結果を、人がすべて確認することは現実的ではない。重要なのは、AIの判断そのものを一件ずつ見ることではなく、その判断を評価し続ける仕組みを設計することだ。
もっとも、この役割を顧客だけで担うことは難しい。
顧客は、自社の業務を最もよく知っている。一方で、クラウドベンダーはAI基盤やモデルの専門家だ。しかし、業務を理解し、その業務に合わせてAIを設計・運用できる人材は多くない。
業務とAIをつなぎ、実装まで落とし込めること。そこにSIerの新しい価値がある。
AI時代のSIerが提供するのは、コードではない。AIの判断品質を設計し、その品質を継続的に保証するサービスである。


第2章:AI時代、責任をどう設計するか

AIが判断した結果の責任は、誰が負うのか

AIが開発や運用を担う範囲は、急速に広がっている。その一方で、新しい課題も生まれ始めた。
「誰が責任を負うのか」が見えにくくなることだ。
例えば、AIエージェントが実装を提案し、別のAIがレビューし、最後に人が承認する。こうした開発プロセスは、すでに現実のものとなりつつある。Gartnerは2024年10月、2027年までにソフトウェアエンジニアリングリーダーの70%が「AIを監督する役割」を職務記述に明記すると予測している。AIを使うだけでなく、AIを管理すること自体が、新しい仕事になろうとしているのである。
では、障害が発生したとき、その責任は誰が負うのだろうか。
AIの提案を採用した担当者なのか。運用ルールを決めた管理者なのか。それともAIを設計・構築したSIerなのか。責任の所在が曖昧なままでは、原因究明も再発防止も進められない。
この問題は、失敗したときだけではない。AIによって大きな成果が生まれた場合も同様である。その成果は、顧客の業務知識によるものなのか、SIerの設計によるものなのか、それともAI基盤の性能によるものなのか。価値の帰属をあらかじめ整理しておかなければ、成功したプロジェクトほど利害関係は複雑になる。
だからこそ、AI時代には「誰が何に責任を持つのか」を事前に設計し、状況の変化に合わせて見直し続けることが重要になる。

SIerは「責任を設計する」役割へ

では、こうした責任の整理や見直しは、誰が担うのだろうか。
顧客だけで判断するには、AIやシステムの知識が不足する。一方、AIベンダーは基盤やモデルには詳しくても、個々の業務や組織運営まで把握しているわけではない。
両者の間に立ち、業務・システム・AIを横断して責任の線引きを設計できること。そこに、これからのSIerの新しい役割がある。
もっとも、AI時代の責任は、一度決めれば終わるものではない。AIの能力が進化すれば、人が確認すべき範囲は変わる。法規制が変われば、監査や記録の方法も見直さなければならない。
つまり、責任そのものではなく、「責任の境界」が変化し続ける時代になったということだ。
だからこそSIerに求められるのは、その変化に合わせて責任の線引きを継続的に設計し直すことである。

  • どこまでをAIに任せるのか。

  • どこからを人が判断するのか。

  • 誰が運用コストを負担するのか。

  • 監査ログはどこまで保存するのか。

こうしたルールを顧客と合意し、事業やAIの進化に合わせて更新し続けることが、新しいSIerの役割になる。責任を一度決めて終わるのではなく、変化に合わせて設計し続けること。その継続的な支援こそが、AI時代のSIerが提供する新しい価値である。

契約も、「所有」と「責任」を分けて考える

責任を設計するとなると、もう一つ見直さなければならないものがある。
契約である。
従来のSIでは、システムを納品すれば、ソースコードの所有権は顧客へ移り、その後のSIerの役割は保守契約へ引き継がれるのが一般的だった。
しかし、AI時代はこの考え方だけでは十分ではない。
コードだけでなく、AIへ与える知識、プロンプト、判断ログ、評価データなど、新しい資産が継続的に蓄積されるからだ。
これらの多くは顧客の資産になる。一方で、それらが正しく機能し続けるよう監視し、改善し、運用する責任は、引き続きSIerが担う場面が増えていく。
つまり、AI時代には「所有する人」と「品質を保証する人」は、必ずしも一致しなくなる。
この考え方は、規制の方向性とも一致している。EU AI Actや金融庁のAIディスカッションペーパーでは、判断ログの保存や継続的な管理が求められている。形式上の責任は顧客にあっても、その仕組みを設計し、運用し、品質を維持するには、SIerの継続的な関与が欠かせない。
だから、AI時代のSIerが提供する価値は、システムを納品することではない。品質を保証し、安心して使い続けられる状態を維持することにある。
その価値を継続的に提供するからこそ、運用支援や品質保証は、新しい収益の柱になっていく。
AI時代のSIerは、システムを納品して終わる会社ではない。品質を保証し、安心して使い続けられる状態を維持する会社へ変わっていく。その継続的な価値こそが、AI時代の新しい収益源になる。


第3章:AIと人の仕事をどう設計するか

AIで開発は速くなる。でも利益にはならない

AIによって開発生産性は確実に向上している。しかし、それだけでSIerの利益が増えるわけではない。
人月を前提としたビジネスでは、工数が減るほど売上も減ってしまうからだ。
この構造は、海外の調査にも表れている。McKinseyのState of AI 2025 によれば、AIを業務で利用している組織は世界で88%に達した。一方で、agentic AIを全社レベルまで展開できている組織は23%にとどまる。
AIは、人月というビジネスモデルの矛盾を一気に表面化させた。
なぜなら、開発が速くなればなるほど、売上が減るからだ。熟練者ほど損をする。
これは、「残業した人ほど評価される」制度と、本質的には同じ構造である。

SIerは「AIと人の仕事」を設計する

では、AI時代のSIerは、何を価値として提供すればよいのだろうか。
答えは、AIと人、それぞれが担う仕事を設計することである。
AIに任せるべき仕事と、人が担うべき仕事は同じではない。AIは大量の情報処理や定型的な判断を得意とする。一方、人には例外対応や最終的な意思決定、顧客との信頼関係を築く役割が残る。
だからこそ、まず業務を分解し、AIに任せられる作業を切り出す。次に、人が担うべき判断や例外対応を整理する。そして両者をつなぐ業務フローやKPIを設計し、継続的に改善していく。
ここで設計するのは、システムではない。仕事の進め方そのものである。
その意味では、従来のシステム開発よりも、事業の運営を設計する仕事に近い。しかし、業務とシステムの両方を理解し、それを実装まで落とし込めるSIerだからこそ担える役割でもある。
AIがコードを書く時代だからこそ、SIerの価値は「システムを作ること」ではなく、AIと人が成果を出せる仕事の仕組みを設計し、実装し、改善し続けることへ移っていく。


第4章:三つの役割が、新しいSIサービスになる

ここまで、AI時代のSIerに求められる三つの役割を見てきた。
一つ目は、AIの判断品質を設計し、継続的に維持すること。
二つ目は、人とAIの責任を整理し、その境界を設計し続けること。
三つ目は、AIと人、それぞれが力を発揮できる仕事の進め方を設計すること。
一見すると、それぞれ別の役割に見える。しかし実際には、一つの循環としてつながっている。
判断品質を見直せば、人とAIの役割分担も変わる。役割分担が変われば、責任の持ち方も見直さなければならない。そして責任が変われば、業務の進め方や評価指標も変わる。その変化は再び判断品質へと反映され、AIはより良い形へ育っていく。
つまり、AI時代のSIサービスとは、システムを一度納品して終わる仕事ではない。
この循環を、事業とともに回し続ける仕事である。
実際に、AIの利用が広がるにつれ、運用コストを継続的に管理・最適化する動きも加速している。FinOps Foundationの2025年調査では、AIコストの可視化と最適化を体系化する「AI FinOps」の導入率は63%となり、前年のおよそ2倍へ伸びた。
AI時代の運用は、ユーザー企業だけで管理し続けられる規模を超えつつある。この継続的な最適化を支えることも、SIerに求められる自然な役割である。

AI時代のSIサービスは、3つの設計が循環する

結章:「稼げる仕事」とは、変化を支え続ける仕事

最初の問いに戻ろう。
AIがコードを書く時代、SIerはどの仕事で収益を生み出すのか。
ここまで見てきた答えは、シンプルである。
SIerの価値は、「システムを作ること」から、「AIが動き続ける状態を支え続けること」へ移っていく
コードを書くこと、テストをすること、設計を行うこと。これらは今後、ますますAIが担うようになるだろう。
しかし、AIが正しく判断し続けるよう品質を維持し、人とAIの責任を整理し、業務そのものを改善し続ける仕事は、AIだけでは完結しない。
だから本稿では、AI時代のSIerに求められる役割を三つに整理した。

  • 判断品質を設計すること

  • 責任を設計すること

  • AIと人の仕事を設計すること

重要なのは、この三つを個別のサービスとして提供することではない。企業の変化に合わせて、この三つを継続的に回し続けること。これこそが、AI時代の新しいSIサービスである。コードを書ける人材は、これからも増えていくだろう。一方で、企業がAIを安心して使い続けられる仕組みを設計し、その変化を支え続けられる人材は、まだ多くない。ここに、これからのSIerが選ばれる理由がある。

AI時代、SIreの収益はどこから生まれるのか

前作では、「AI時代、SIerは何を売るのか」を考えた。
本稿では、「AI時代、どの仕事で収益を生み出すのか」を考えた。
そして、次に考えるべき問いは、そのさらに先にある。
AI時代、SIerは何によって選ばれるのか。
次回は、この問いに真正面から向き合いたい。

会社概要

会社名:株式会社イー・ビジネス
所在地:〒105-6405 東京都港区虎ノ門1丁目17番1号 虎ノ門ヒルズビジネスタワー5階
設立:2007年6月12日
社員数:333名(2026年2月現在)
コーポレートサイト:https://www.e-business.co.jp/

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