天才・坂口安吾の「桜の森の満開の下」
都心から少し遅れて、八王子にも桜の季節がやってきました。
桜を観ていつも脳裏に浮かぶのは、坂口安吾の最高傑作(だと私が思っている)の短編小説「桜の森の満開の下」です。
主人公の山賊は常軌を逸した信じがたい猟奇的殺人鬼です。しかし読み進めているうちに、読者である私がいつのまにか山賊と同化しているように思えてきます。親しみを抱くほどです。想像を絶するほどのとことん残忍なところとへ堕ちた人間が、実は真のありふれた人間そのものであり、絶対的な孤独の中にいるのです。
女房となった美しい京女も、常軌を逸した残忍な人間で、人の道をはるかに誤っています。許されるなら狂人、狂女という言葉を使ってしまいたくなります。しかし狂っている度合いが激しいければ激しいほど、狂女はより美しいのです。ここでも倫理的に堕ちきった人間は最も美しく、孤独であり、最も人間らしい人間だと思えてきます。
桜はなぜ美しく、なぜ恐ろしいのか。この小説は、美しいということは恐ろしく、かつ極めて人間的なことだと教えてくれます。残忍さや寂しさ、さらには孤独を突き詰めたところにこそ、美しさは存在するのです。これは天才たる坂口安吾によってこそ、皆様に伝わるものだと思らずにはいられません。
これ以上内容に触れるとネタバレになってしまいます。ぜひ日頃美しさを希求する活動をしている皆様にこそ、この小説をお読みいただきたいのです。著作権が切れているので、青空文庫で全文が読めます。まだこの小説を読んでいない方は、ぜひご一読をお勧めいたします。

https://www.aozora.gr.jp/cards/001095/files/42618_21410.html
冒頭の写真は1946年(昭和21年)12月の自宅2階の書斎。撮影者の写真家: 林忠彦は、2年ほど掃除をしたことのない「書斎を一目見て、これだ!と叫んだ」といいます。
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