行動指針「先にGiveする」の原点とは?
企業のバリューや行動指針は、ときに「正しいこと」が並ぶだけの言葉になってしまうことがあります。立派ではあるものの、日常の判断とは少し距離がある。そんな印象を持ったことがある人も多いのではないでしょうか。
EDEYANS の行動指針のひとつにある「先に Give する」
この言葉は、会議室で生まれた理念ではありません。
現場で拒絶され、戸惑い、試行錯誤する中で、身体感覚として立ち上がってきた価値観です。
今回は、客室清掃を起点にホテルのバックヤード全体をマネジメントする AI SaaS「Jtas」の立ち上げを牽引し、ミッション・ビジョン・バリュー(以下、MVV)の策定にも深く関わった執行役員・舞原さんに、その原点を聞きました。

舞原 勇雅 執行役員:Jtas 事業本部 カスタマーサクセス部 部長 / PdM 大学在学中に東京で民泊清掃事業を立ち上げ、関西展開を機に現代表・片山と出会う。 卒業後はアクセンチュアにてメディア・通信系の基幹システム刷新プロジェクトに従事。 2021 年 EDEYANS 参画後は、清掃現場のリアルとエンタープライズ IT の知見を武器に、ホテルのバックヤードを支える AI SaaS「Jtas」の立ち上げを牽引。現在は、顧客の成功とプロダクトの進化を横断的に統括している。
「使ってください」が、まったく届かなかった現場で
ーー 今回フォーカスする行動指針は「先に Give する」ですが、これは舞原さんにとって、かなり原体験に近いものだと聞きました。
そうですね。かなり生々しい体験から来ています。
MVV を策定していた頃、ちょうど「Jtas」がローンチされ、初めてお客様への提供が始まりました。最初に向き合ったのは、比較的若いスタッフや外国籍メンバーも多く、デジタルへの抵抗感が少ない客室清掃の現場です。
正直、導入は想像以上にスムーズでした。
「こういうものなんだ」と、こちらも少し安心していたと思います。

ただ、2 件目に「Jtas」を導入していただいた現場では、まったく違う壁にぶつかりました。そこは、長年にわたって同じ清掃スタッフが働き続けてきた、歴史のある現場でした。60 代以上の方が多く、20〜30 年もの間、客室清掃を続けてきた方も少なくありません。
そこで象徴的だったのが、「ログインができない」という問題です。
理由を聞くと、返ってきたのは「自分のメールアドレスが分からない」という答えでした。自分のメールアドレスであればさすがに分かるだろうと思い、ログイン ID をメールアドレスにしていたのですが、そこがハードルになっていたのです。
ーー それは、想定していたオンボーディングとはかなり違う状況でしたよね。
そうなんです。この時点で、「Jtas を使ってください」と言い続けても、何も変わらないだろうなと直感的に思いました。ログイン以前のところで、完全に止まってしまっていた。正直、どう前に進めばいいのか、一瞬わからなくなった感覚もありましたね。
今振り返ると、こちらの傲慢さもあったと思います。
僕らは後から入ってきた立場なのに、
「デジタル化する方が便利だから」
「生産性を上げれば、現場はもっと良くなるはずだから」
といった、自分たちが描いていた “正しさ” を、相手の背景を十分に理解しないまま差し出してしまっていたような気がします。
関係性を築くことから、すべてをやり直した。遠回りのような正解
ーー そこから、どうやって状況を変えていったんですか。
清掃の現場を起点に、この業界のあり方そのものを前に進めたい。
その思いがあって、EDEYANS は「Jtas」を開発しました。
だからこそ、「使われないままにする」という選択肢はありませんでした。
一方で、このまま「正しいはずの変化」を一方的に届け続けても、現場には届かない。
そう強く感じたんです。
そこで、一度やり方を根本から変えることにしました。
システムを説明する前に、まずは同じ現場に立ち、相手の仕事を理解するところから始めよう、と。
実際に、僕自身も清掃スタッフの方々と一緒に客室清掃に入りました。
「やり方を教えてください」「一緒にやらせてください」と声をかけながら。

ベッドメイクひとつをとっても、ベテランの清掃スタッフの方々の技術は、本当に高い。
自分でやってみると全然うまくできなくて、「どうやったら、こんなに早く、しかもきれいに仕上げられるんですか?」と、素直に教えてもらっていました。
客室清掃に入るという行為自体も、人手が足りない現場では一つの助けになります。
結果的にそれは、「先に Give する」という行動になっていたのだと思います。
ーー 反応は、変わっていきましたか。
かなり変わりました。
年齢的には2周り以上離れていたので、だんだん息子みたいに接してくれるようになって!毎日顔を合わせて、一緒に清掃に入って、他愛のない話をする。そういう時間が少しずつ増えていったんです。
清掃の仕事は、基本的には一人で黙々と進める時間が長いので、だからこそ「話し相手がいること自体が嬉しい」という声を想像以上にたくさんいただきました。
そうやって、日常の会話が当たり前になってから、作業が終わったタイミングで、ふと「実は、こういうシステムがあって……」と話すと、「それぐらいなら、やってみますね」と、自然に返ってくるようになったんです。
「先に Give する」に込めた、ビジネスとしての覚悟
ーー 「Give する」はよく聞く言葉ですが、EDEYANS は「先に」がついていますよね。
EDEYANS が目指すのは、単にプロダクトを広げることではありません。
清掃の現場を起点に、この業界のあり方そのものを、少しずつでも前に進めていくことです。
そのためには、僕らの正しさを先に通すのではなく、まず相手の世界に入る必要がある。現場での経験を通じて、そう強く感じるようになりました。
もちろん、ビジネスとして続けていく以上、プロダクトが使われ、価値を感じてもらうことは前提になります。でも、その順番を間違えると、どんなに良い仕組みでも、現場には届かない。
DX も、プロダクトも、現場に受け入れてもらえて初めて意味を持つ。
だから EDEYANS にとっての「先に Give する」は、きれいごとではなく、信じている変化を、現場と一緒に実現するための姿勢なんです。

ーー ここまでの話を聞いていて、改めて伺いたいのですが、なぜ今このタイミングで、バリューを記事として残そうと思ったのでしょうか。
一番大きいのは、組織のフェーズが大きく変わったことだと思っています。MVV を策定していた頃は、正社員も 20 名ほどの組織でした。それが今では、全社で 120 名を超えています。
仲間が増えていくこと自体は、本当に嬉しいですし、EDEYANS が前に進んでいる実感もあります。
その一方で、MVV が生まれたときの背景や、その言葉に込めた思いが伝わり切っていないメンバーも増える可能性があります。
オンボーディングや研修を通じて MVV を伝えることはできても、「なぜこの言葉になったのか」「どんな迷いや葛藤があったのか」までは、なかなか伝えきれないな、と感じるようになりました。
当時の空気感や、現場での原体験を知っている立場として、それを自分の中だけに留めておくのではなく、きちんと言葉として残しておく必要がある。
そう思ったのが、今回このテーマを取り上げようと思ったきっかけです。
さいごに:相手の立場で考え、先に動けるか
ーー 今の EDEYANS だからこそ、「先に Give する」をどんな姿勢として受け取ってほしいですか。
「先に Give する」という行動指針を、特別な行動や美徳として受け取ってほしいわけではありません。
今の EDEYANS は、仲間も増えて、プロダクトも広がってきています。だからこそ、自分たちの正しさやスピードを優先してしまいそうになる場面も、正直あると思います。
そんなときに、一度立ち止まって、
「相手はいま、何に困っているんだろう」
「自分たちが先に差し出せるものは何だろう」
と考えられるかどうか。
それを頭の中で考えるだけじゃなく、きちんと行動に移せる姿勢として受け取ってほしいと思っています。
僕らが大切にしている「現場主義」も、単に業務を理解するためのものではありません。
現場で働く方たちを、ちゃんと尊重できているか。
その姿勢が、自然と行動に表れるかどうかだと思っています。
「先に Give する」は、いい人でいよう、という話ではなくて、信じている変化を、現場と一緒に実現していくための姿勢。
今の EDEYANS だからこそ、そこを大事にしていきたいと思います。
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