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シュレーディンガー / Schrödinger(SDGR)決算分析|創薬売上+107%で倍増、Novartis大型契約が示すAI創薬の現在地【2025年10-K 日本語解説】

この記事は、SEC EDGAR(米国版の有価証券報告書データベース)に提出された10-K(本決算報告書)を日本語訳・分析したものです。決算速報よりはタイムラグがありますが、より詳しい財務情報が記載されており、企業の実態を深く知ることができます。

2025年、AI活用は製薬業界の研究開発で一段と現実味を帯び、大手製薬企業が計算分子設計への投資を拡大しました。NovartisやEli Lillyといった世界的な大手製薬企業が、AIを活用した分子設計に数百億円規模の資金を投じています。その恩恵を最も受けている企業の一つがSchrödinger(SDGR)です。株価は52週高値の27.63ドルから約12.74ドルへ下落し、時価総額は約9.4億ドル(約1,476億円、2026年3月7日時点)。しかしその裏で、Novartisとは最大22.7億ドル規模の条件付きライセンス契約を締結し、営業損失も前年比20%改善しています。「物理学ベース+AI」で分子設計を変革するこのプラットフォームは、果たして収益化への道を歩めるのでしょうか。


今回決算のまとめ(3行)

・創薬事業が前年比+107%と倍増し、ソフトウェアもクラウド型が+28%成長で全社売上を押し上げ

・リストラ(約60名削減)と自社臨床開発凍結を決断、年間約7,000万ドル(約110億円)のコスト削減に着手

・Novartisから初期前払い1.5億ドル(約236億円)を受領、Bristol Myers SquibbやEli Lillyとの協業も拡大


会社概要

一言でいうと、「物理学ベースの計算シミュレーション+AI(人工知能)で、薬の分子設計を根本から変える」会社です。1990年にニューヨークで設立され、NASDAQ上場。従業員数は約891名です。

事業は大きく2つに分かれます。ソフトウェア事業では、製薬企業・材料メーカー・学術機関に分子設計プラットフォームを提供し、売上の約78%を占めます。創薬事業では、Bristol Myers Squibb、Novartis、Eli Lillyなどの大手製薬と共同で新薬候補を開発し、マイルストーン報酬とロイヤリティ収入を目指しています。


今期のポイント3点

ポイント1:売上2.56億ドルで前年比+23%、コスト改革も始動


売上高は2.56億ドル(約402億円)と前年比+23%で成長しました。注目すべきは、売上が伸びる一方で営業費用が前年比9%削減されている点です。営業費用比率は164.5%から120.9%へ43.6ポイント改善しました。2025年5月に全従業員の約7%にあたる約60名を削減するリストラクチャリングを実施し、年間約3,000万ドル(約47億円)の費用削減を見込みます。さらに自社臨床試験の新規開始を凍結し、合計で年間約7,000万ドル(約110億円)のコスト削減を目指しています。ただし全社の粗利益率は63.7%から55.8%へ低下しました。これは主力のソフトウェア粗利益率が74%と高水準を維持している一方、クラウド型契約の増加に伴う収益認識タイミングのズレや、創薬事業の原価増が全社の利益率を押し下げた結果です。

ポイント2:セグメント構成の変化 ── 創薬事業が倍増


創薬事業の売上は0.27億ドルから0.56億ドルへ前年比+107%と倍増しました。Novartisとの契約(2024年11月締結)やBristol Myers Squibbとの協業拡大が寄与しています。さらにEli Lillyとは2022年9月の免疫学1ターゲット契約に加え、2025年2月に追加1ターゲットの拡大契約を締結しました。一方、ソフトウェア事業も+11%の堅調な成長を見せましたが、内訳ではオンプレミス(設置型)が2.5%減と微減し、ホステッド(クラウド型)が+28%と伸びています。これはソフトウェア業界全体のクラウドシフトの流れと一致しますが、売上認識が期間按分になるため、短期的には粗利益率に下押し圧力がかかります。事業類似性の観点ではSimulations Plus(モデリング・シミュレーション、売上約0.75億ドル)が近い競合であり、バリュエーション比較ではVeeva Systems(ライフサイエンス向けSaaS、売上約26億ドル)が参考になります。

ポイント3:大手製薬との協業パイプライン ── マイルストーン最大30億ドル超


年間契約価値は1.99億ドルと着実に増加しています。しかし純ドル保持率が113%から100%に低下しており、既存顧客からのアップセル(追加購入)が鈍化している点は要注意です。粗ドル保持率は96%と安定しているため、顧客の離脱ではなく拡大ペースの減速です。大手製薬との主要協業の潜在収益は、Novartis最大22.7億ドル、Bristol Myers Squibb最大4.82億ドル、Eli Lilly最大4.2億ドル(1ターゲット分、追加ターゲットも類似条件)で合計30億ドル超の規模です。ただし、その大半は臨床試験の成功と製品の商業化を前提とした条件付きの将来対価であり、短期収益に直結する金額ではありません


最大のリスク:ソフトウェア成長の鈍化で、創薬の一時金依存が高まること

Schrödinger最大のリスクは、主力のソフトウェア事業の成長が鈍化し、不安定な創薬マイルストーン収入への依存度が高まる構造です。純ドル保持率が113%から100%へ低下した事実は、既存顧客の拡大余地が縮小し始めている可能性を示唆しています。同時に、Insilico Medicine、XtalPi、AbCelleraなどAI創薬の新興企業が市場に参入しており、物理ベースシミュレーションの優位性が相対的に低下するリスクもあります。

監視指標は以下の通りです。

・純ドル保持率:現在値100%、閾値95%、乖離幅+5ポイント。95%を下回ればソフトウェア事業の構造的な顧客離れを意味します
・ソフトウェア粗利益率:現在値74%、閾値70%、乖離幅+4ポイント。クラウド移行コストが想定以上に膨らめば利益構造が悪化します
・現金残高:現在値4.02億ドル、閾値2.5億ドル、乖離幅+1.52億ドル。24ヶ月の営業費用をカバーできなくなれば追加増資が必要です
・100万ドル超年間契約価値の顧客数:現在値27社、閾値22社、乖離幅+5社。大型顧客の純減が続けば成長の天井が見えます


筆者の見解

判断:条件付き「買い」── 株価15ドル以下なら中長期で投資妙味あり

現在の株価は約12.74ドル、時価総額は約9.4億ドル(約1,476億円、2026年3月7日時点)です。赤字企業のため従来型の株価収益率は算出不可ですが、株価売上高倍率は約3.7倍で、ライフサイエンスソフトウェアの業界平均(約8〜10倍)を大きく下回っています。バリュエーション比較として、Veeva Systems(株価売上高倍率約14倍)やSimulations Plus(同約8倍)と並べても割安水準です。

売上が2桁成長を続ける中で赤字縮小トレンドが明確であり、2026年にはコスト削減策がフルに効く見通しです。ただし、営業キャッシュフロー黒字化(2025年は+1,390万ドル)の大部分がNovartis前払い金による運転資本の一時的な改善であり、2026年には再び悪化する可能性がある点には留意が必要です。

Novartis契約の潜在的な対価は大きいですが、商業マイルストーン(13.8億ドル分)は薬の上市後に初めて発生するため、5〜10年先の話です。短期で利益を期待する投資家には不向きで、AI創薬の成長ストーリーに数年単位で賭けられる投資家向けの銘柄です。配当利回りは0%で、累積欠損は6.29億ドル(約988億円)に達しています。

強気シナリオ / 基本シナリオ / 弱気シナリオ

・強気シナリオ(確度:低)──

純ドル保持率が105%超へ再加速し、100万ドル超顧客が純増。営業キャッシュフローが通期黒字を維持。株価30ドル超

・基本シナリオ(確度:中)──

ソフトウェア売上+10〜15%成長が継続し、営業費用の抑制で営業損失が1億ドル以下に。株価15〜25ドル

・弱気シナリオ(確度:中)──

純ドル保持率が95%以下に低下し、現金流出が再拡大。市場売却プログラム(残枠2.41億ドル)の実行で株式が希薄化。株価8〜12ドル


今後の事業見通し

確度:高

ソフトウェア事業は粗ドル保持率96%と安定しており、ホステッド型の+28%成長が牽引して年間+10〜15%の成長が続く見通しです。コスト削減策はすでに着手済みで、2026年にフルインパクトが見込めます。

確度:中

NovartisやBristol Myers Squibb等との協業から、発見・開発段階のマイルストーン支払い(Novartis分で最大8.92億ドル)が今後3〜5年で段階的に発生する可能性があります。2026年にはSGR-1505(IRAK4(インターロイキン-1受容体関連キナーゼ4)阻害薬、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症向け)とSGR-3515(Wee1/Myt1(細胞周期チェックポイントキナーゼ)阻害薬)のフェーズ1データ発表が予定されています。

確度:低

予測毒性学ソリューション(Gates財団との共同開発)の2026年商用化、材料科学分野への応用拡大、そしてNovartis商業マイルストーン13.8億ドルの実現は、いずれも技術的・事業的に不確実性が高い段階です。


まとめ


株価売上高倍率約3.7倍は業界水準の半分以下であり、コスト改革の進展と大手製薬との協業拡大を考えれば中長期で投資妙味がある。ただし赤字企業であり、創薬マイルストーンは条件付きの将来対価。短期での利益は期待できず、株価15ドル以下での段階的な仕込みが有効な戦略。


※この記事は投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。

【出典】 ・SEC EDGAR 10-K(Accession No. 0001490978-26-000010) ・Yahoo Finance、Morningstar(株価データ、2026年3月7日時点) ・Schrödinger IR プレスリリース(2025年度決算発表、2026年2月25日)

※円換算は1ドル=157円(2026年3月時点)で計算
※株価・時価総額・株価売上高倍率は2026年3月7日時点の市場データに基づく
※競合売上データは各社直近年次報告書に基づく

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